PCR用DNAポリメラーゼの専門用語を解説|KOD・校正活性・エキソヌクレアーゼ・Uとは?

遺伝子検査

結論:DNAポリメラーゼは「DNAを伸ばす機能」は同じでも、付属機能が違う5’→3′ / 3’→5′

PCRで使われるDNAポリメラーゼには、さまざまな種類があります。

どのDNAポリメラーゼも、プライマーの3’末端からDNAを5’→3’方向へ伸長するという基本的な働きは共通しています。

しかし、それ以外の機能や得意な反応は同じではありません。

たとえば、

  • 間違って取り込んだ塩基を修正できる
    → 3’→5’エキソヌクレアーゼ活性(proofreading・校正活性)
    → エラーが少なく、高正確性(High Fidelity)につながる
  • DNA合成の進行方向にある核酸を切断できる
    → 5’→3’ヌクレアーゼ活性
    → TaqManプローブの切断などに利用される
  • PCR開始前には働かないようにできている
    → Hot Start
    → 非特異的増幅やプライマーダイマーを抑えやすい
  • 長いDNAや増幅しにくい配列にも対応できる
    → DNAポリメラーゼ自体の伸長性能や、バッファー・添加剤など反応系の工夫

このように、同じ「DNAポリメラーゼ」でも持っている機能や得意分野が異なります。

この記事では、Taq DNAポリメラーゼとKOD DNAポリメラーゼの違いも例にしながら、PCR用DNAポリメラーゼのカタログやプロトコルでよく出てくる専門用語を整理します。

紛らわしい!「○○活性」に注意

PCR用DNAポリメラーゼについて調べていると、次のような「○○活性」という言葉が出てきます。

単語がとにかく紛らわしいので、まず先に整理します。

5’→3′ DNAポリメラーゼ活性は、PCRの伸長反応で塩基を取り込み、DNAを合成する働きです。

一方、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性は、DNA合成の進行方向にある核酸を切断する働きです。

これは、DNA合成の進行方向に存在する核酸、つまり下流側(downstream)の核酸を切断できる活性です。
本記事では分かりやすく「前方の核酸を切る」と表現します。

そして、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性は、DNA合成中に誤って取り込んだ塩基を3’末端側から取り除く働きです。これはproofreading(校正)に関係します。

特に紛らわしいのが、

  • 5’→3′エキソヌクレアーゼ活性
  • 3’→5′エキソヌクレアーゼ活性

で、よく見ると数字の方向が逆になっています。

私は最初よく読み間違えて、まるで間違い探しのようでした。

まずは、

ポリメラーゼ → 作る
ヌクレアーゼ → 切る

さらにエキソヌクレアーゼ活性は、

5’→3′ → 前方を切る
3’→5′ → 戻って校正する

と覚えておくと整理しやすくなります。

では、すべてのDNAポリメラーゼが、この3つの活性を持っているのでしょうか。

実は、そうではありません。

DNAを5’→3’方向へ合成する基本的な働きは共通していますが、どのヌクレアーゼ活性を持っているかはDNAポリメラーゼによって異なります。

その代表例が、Taq DNA polymeraseとKOD DNA polymeraseです。

ここからは、市販製品である**AmpliTaq Gold(Thermo Fisher Scientific)とKOD FX Neo(東洋紡)**も例にしながら、両者の違いを見ていきます。

5’→3′ エキソヌクレアーゼ活性とは?

Taq DNA polymeraseは、5’→3′ エキソヌクレアーゼ活性を持っています。

これは、DNA合成の進行方向に存在する核酸を切断できる活性です。

この性質をうまく利用したものの一つが、TaqManプローブを使用したリアルタイムPCRやddPCRです。

鋳型DNA上にTaqManプローブが結合していると、DNAを伸長してきたTaqがプローブに到達します。

すると5’→3′ エキソヌクレアーゼ活性によってプローブが切断され、レポーターとクエンチャーが離れて蛍光が検出されます。

ここで重要なのは、Taqが「TaqManプローブを切るために」この活性を持っているわけではないということです。

Taqがもともと持っている5’→3′ エキソヌクレアーゼ活性を、TaqMan法が蛍光検出に利用しています。

つまり、5’→3′ エキソヌクレアーゼ活性はプローブPCR専用の機能ではありません。

Taq DNA polymeraseは、DNAを5’→3’方向へ合成するという本来のDNAポリメラーゼ活性を持っているため、プローブを使用しない通常のPCRにも使用できます。

通常のPCRで使用される製品の一つが、AmpliTaq Gold(Thermo Fisher Scientific)です。

なお、Taq DNA polymeraseは5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を持つ一方、校正に関わる3’→5’エキソヌクレアーゼ活性(proofreading活性)は持っていません。

Taq DNA polymeraseについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

👉 Taq DNAポリメラーゼとDNAポリメラーゼの違いとは?
👉 ddPCRで使われる蛍光プローブとは?蛍光が出る仕組みをわかりやすく解説

3’→5’エキソヌクレアーゼ活性(proofreading)とは?

proofreadingは、直訳すると「校正」です。

文章を書いたあとに誤字を見つけて直すように、DNAポリメラーゼが自分で合成したDNAをチェックし、間違って取り込んだ塩基を取り除く働きを指します。

このproofreadingに重要なのが、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性です。

DNAポリメラーゼは、DNAを5’→3’方向に伸長します。

もし一番新しく取り込んだ3’末端の塩基が間違っていた場合、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼは、その塩基を取り除くことができます。

そして再び正しい塩基を取り込み、DNA合成を続けます。

つまり、

DNAを作る → 間違える → 戻って削る → 正しく作り直す

ということができます。

この校正機能によってDNA合成時のエラーを減らすことができ、高い正確性(High Fidelity)につながります。

Fidelityとは、DNAポリメラーゼが鋳型DNAの配列をどれだけ正確にコピーできるかを表します。

DNAポリメラーゼも、必ず正しい塩基だけを取り込むわけではありません。

DNAを合成している途中で、誤った塩基を取り込むことがあります。

しかし、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を持っていると、校正機能によりDNAを正確にコピーしやすくなります。

この3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼの一つが、KOD DNA polymeraseです。

KOD DNA polymeraseを利用したPCR製品には、**KOD FX Neo(東洋紡)**などがあります。

KOD DNA polymeraseとは?Taqとは何が違う?

KOD DNA polymeraseは、超好熱性アーキア Thermococcus kodakarensis に由来する耐熱性DNAポリメラーゼです。

Taq DNA polymeraseと同じようにDNAを5’→3’方向へ合成できますが、両者は同じ種類のDNAポリメラーゼではありません。

Taq DNA polymeraseはFamily A、KOD DNA polymeraseはFamily Bという異なるグループに分類されます。

DNAポリメラーゼの「ファミリー」とは、構造やアミノ酸配列、進化的な関係などをもとにDNAポリメラーゼを分類したグループのことです。

つまり、TaqとKODはどちらも「DNAを合成する」という仕事は同じですが、そもそも別グループの酵素です。

そのため、持っている付加的な機能にも違いがあります。

つまり、

  • Taq:DNAを作れる+前方の核酸を切れる
  • KOD:DNAを作れる+間違えた塩基を戻って削れる

という違いがあります。

同じ「DNAポリメラーゼ」という名前でも、DNAを合成する基本的な機能が共通しているだけで、それ以外の機能まで同じとは限りません。

これが、PCRで目的に応じて異なるDNAポリメラーゼが使い分けられる理由の一つです。

また、KOD DNA polymeraseは校正活性だけでなく、DNAから離れずに連続して塩基を取り込む能力(processivity)が高いことも特徴です。

KOD FX Neoとは?

KOD FX Neo(東洋紡)は、KOD DNA polymeraseをベースにしたPCR酵素です。

KODの3’→5’エキソヌクレアーゼ活性(proofreading活性)を持つため、Taq DNA polymeraseよりも高い正確性(High Fidelity)を持っています。

PCR産物の塩基配列をできるだけ正確に保ちたい場合には、High Fidelityを特徴とするDNAポリメラーゼが選択肢になります。

しかし、KOD FX Neoの特徴は正確性だけではありません。

微量なDNAでも増幅しやすく、長いDNAやGC-richなどの増幅しにくいターゲットにも強いという特徴があります。

実際、KOD FX Neoは従来品より検出感度が向上しており、微量の鋳型DNAからの増幅にも対応しています。

感度が高いのは便利ですが、微量なDNAでも増幅できるということは、目的ではないDNAが混入した場合にも注意が必要です。

PCRでは、試薬へのDNAの持ち込みや過去のPCR産物の混入などを防ぐため、コンタミネーション対策も重要になります。

つまりKOD FX Neoは、

「間違いを校正できる」だけでなく、「少ない・長い・増えにくいDNAも増幅しやすい」PCR酵素

と考えると特徴をつかみやすいでしょう。

Hot Startとは?

Hot Startも、PCR用DNAポリメラーゼの製品情報でよく見かける言葉です。

Hot Startとは、PCR反応液を調製している段階ではDNAポリメラーゼの活性を抑えておき、PCR開始時の加熱によって活性化する仕組みです。

反応開始前にプライマーが目的とは異なる場所へ結合すると、非特異的なDNA合成が起こる可能性があります。

そこでDNAポリメラーゼをあらかじめ不活性化しておき、PCR開始後に働かせることで、非特異的増幅やprimer dimerを抑えます。

代表例の一つがAmpliTaq Goldです。

AmpliTaq GoldはTaq DNA polymeraseをベースとしたHot Start酵素で、化学修飾によって酵素活性が抑えられています。

PCR開始時の加熱によって活性化され、DNA合成が可能になります。

なお、

Hot Start=非特異的な反応を抑える仕組み

proofreading=合成したDNAの間違いを修正する仕組み

です。

似たように「PCRを良くする機能」に見えますが、目的はまったく異なります。

酵素のU(unit)とは?

PCRのプロトコルを見ると、

「1 U」

「2.5 U」

「5 U/µL」

といった表記が出てきます。

U(unit)は酵素の重さを表しているわけではありません。

酵素がどれくらい反応を進められるかを表す「酵素活性」の単位です。

つまり、

µg・mg → 酵素の質量

U → 酵素がどれくらい働けるか

を表します。

一般的な酵素では、一定条件下で1分間に1 µmolの基質を変化させる酵素量を1 Uと定義する場合があります。

ただし、Uの具体的な定義は酵素によって異なります。

DNAポリメラーゼの場合も、メーカーが規定した反応条件で一定時間に一定量のヌクレオチドをDNAへ取り込む活性などをもとに定義されています。

そのため、異なる製品を単純に「同じ1 Uだから同じ量の酵素」と考えることはできません。

たとえば5 U/µLのDNAポリメラーゼを1 reactionあたり1 U使用する場合、

1 U ÷ 5 U/µL = 0.2 µL

を添加します。

PCRプロトコルに書かれているUは、「酵素を何µg入れるか」ではなく、「必要な酵素活性をどれくらい入れるか」を示しているのです。

PCR用DNAポリメラーゼの専門用語まとめ

PCR用DNAポリメラーゼのカタログにはさまざまな専門用語が登場しますが、それぞれ別の性質を表しています。

DNAポリメラーゼの製品名だけを覚えても、なぜその酵素を使用するのかはなかなか分かりません。

しかし、

「この酵素にはどんな活性があるのか?」

「その活性がPCRでどんな役割を果たしているのか?」

という視点でカタログを見ると、それぞれのDNAポリメラーゼの違いが少しずつ見えてきます。

TaqとKODも、どちらもDNAを合成するDNAポリメラーゼですが、持っている付加的な活性が異なります。

その違いを知ることが、PCR用DNAポリメラーゼを理解する第一歩です。

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