結論:U(Unit)=酵素が「どれくらい仕事ができるか=活性」を表す単位
PCR用DNAポリメラーゼの説明書を読んでいると、
5 U/µL
という見慣れない単位が出てくることがあります。
µLは見たことあるけど、「Uって何?」と思ったことはないでしょうか。
Uは「Unit(ユニット)」の略で、酵素の活性(どれくらい働けるか)を表すために使われる単位です。
そのため、DNAポリメラーゼに5 U/µLと書かれていたら、
「この酵素液1 µLには、5 U分の働く能力がある」
という意味です。
……と言われても、今度は「5U分の働く能力って?」という疑問が出てきます。
たとえば一般的な酵素活性の定義では、一定の条件下で、
1分間に1 µmolの基質を変化させることができる酵素量 = 1 U
と表されます。
ただし、ここが重要です。
「何を、どんな条件で、どれくらい反応させたときを1 Uとするのか」は、酵素の種類や測定法、製品によって異なる場合があります。
1 µmolの基質??……なんて、いきなり言われても読む気がなくなりそうな説明ですね。
では、なぜこんな単位が使われるのでしょうか?
今回は、リンゴの皮むきとPCRで使用するDNAポリメラーゼを例に、酵素の「U」について一つずつ紐解いていきます。
Uは「酵素がどれだけ仕事できるか」を表す
たとえば、工場に「りんごの皮をむく人」がいるとします。

- りんご=基質
- 皮をむく人=酵素
- 皮をむく=酵素反応
です。
Aさんは1分間に10個むける。
Bさんは1分間に20個むける。
すると、Bさんのほうが同じ時間でたくさんのりんごを処理できるので、「仕事をする能力」が高いですよね。
酵素のUも、発想はほぼこれです。
決められた条件・時間で、どれくらいの量の基質を処理できるか
という「働く能力」を表しています。
だからUは「酵素が何個あるか」ではなく、酵素軍団がどれくらい仕事をできるかを表しているんです。
なぜ酵素をµgで量らないのか?
ここがUのいちばん面白いところです。
りんご工場に、作業員100人いたとします。
でも、
100人全員がバリバリ皮をむいている工場と、
半分が休んでいる工場では、
「100人いる」という情報だけでは実際の仕事量が分かりません。

酵素も似ています。
「タンパク質が何µg入っているか」を測るだけでは、その酵素が実際にどれだけ機能しているかまでは分からない。
だから、
何µgある?
ではなく、
実際にどれくらい仕事できる?
という活性を測ってUで表すわけです。
ちなみにDNAポリメラーゼの場合、基質となるのはDNAを合成する材料であるdNTPです。
「dNTPって、塩基のA・T・G・Cとはどう違うの?」というところも含めて、後ほど詳しく説明します。
じゃあ、なんで「µmol」なんて出てくるの?
りんごなら、「1分間に10個」と数えればいいですよね。
でも酵素が相手にする物質は、とんでもなく小さいので、
「1分間に602,214,076,000,000,000個処理しました!」
なんて数え方をしたら大変です(笑)。
そこで化学では、ものすごい数の粒子をまとめて数えるために**mol(モル)**という単位を使います。
1 mol ≒ 6.02 × 10²³個
そして、
1 µmol = 0.000001 mol = 約6.02 × 10¹⁷個
です。
つまり、「1分間に1 µmolの基質を変化させる」とは、
個数に直せば、1分間に約60京個の粒子を処理するくらいの規模になります。
……数字が大きすぎて、むしろ分からなくなりましたね(笑)。
今回の記事では、
「1 µmol=ものすごく大量の粒子をひとまとめに数える単位」
くらいのイメージで大丈夫です。
ここで、最初に出てきた「1 U」の説明に戻ってみましょう。
たとえば、
「一定の条件で、1分間に1 µmolの基質を変化させる酵素量=1 U」
と定義されている酵素なら、
2 Uならその2倍、10 Uならその10倍の活性をもつ
と考えることができます。
つまりUとは、酵素が何個あるか、何µgあるかではなく、「どれくらい仕事ができるか」を表しているのです。
ただし、すべての酵素で「1 U=1 µmol/min」と定義されているわけではありません。
酵素の種類や製品によって、**「何を、どんな条件で、どれだけ反応させたら1 Uとするか」**という定義や測定条件が異なります。
たとえば、「1分間に10 µmolの基質を変化させる酵素量=1 U」と定義されているなら、2 Uはその2倍に相当する活性なので、同じ条件では1分間に20 µmolの基質を変化させられることになります。
ただし、Uはµmolそのものを表す単位ではありません。
1 U=10 µmol分の仕事ができる能力と定義されているから、2 Uなら20 µmol分の仕事ができる、ということです。
「どれだけ基質を反応させられるか」を基準にして、酵素の働く能力にUという目盛りをつけているイメージです。
では、PCRで使うDNAポリメラーゼの1 Uは、具体的に何をどれくらい反応させたときの活性なのでしょうか?
DNAポリメラーゼの場合、「基質」って何?
では、DNAポリメラーゼの場合、何を使って仕事をしているのでしょうか。
DNAポリメラーゼは、DNAを合成する酵素です。
DNA鎖を伸ばすための材料として使われるのが、
dATP
dTTP
dGTP
dCTP
の4種類の**dNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)**です。
ここで注意したいのは、dNTP=塩基そのものではないことです。
dNTPは、
塩基 + 糖(デオキシリボース)+ 3つのリン酸
からできています。
DNAポリメラーゼは、鋳型DNAの塩基に相補的なdNTPを選び、伸長中のDNA鎖に次々と取り込んでいきます。

つまりDNAポリメラーゼの活性を考えるときには、
「どれくらいのdNTPをDNA鎖に取り込めたか」
を調べることで、DNAポリメラーゼがどれくらい仕事をしたのかを評価できるわけです。
そして次に読者が知りたいのは当然、
じゃあ、どれくらいdNTPを取り込んだら「1 U」なの?
ですよね。
Taq DNAポリメラーゼの「1 U」とは?
Taq DNAポリメラーゼでは、製品ごとに具体的な「1 U」の定義が示されています。
たとえば、Taq DNAポリメラーゼ製品の中には、
決められた温度・反応条件で、30分間に10 nmolのdNTPをDNAに取り込む酵素量
を1 Uとしているものがあります。
10 nmolは、ヌクレオチドの個数にすると約6×10¹⁵個。
約6,000兆個です。
……また数字が大きすぎて、よく分かりませんね(笑)。
大切なのは、
「規定された条件で、それだけのdNTPをDNAに取り込める酵素量を1 Uと決めている」
ということです。
つまり、先ほどのリンゴ工場でいえば、
「この条件・時間で、これだけのリンゴを処理できる働き=1 U」
と基準を決めているのと同じです。
そして製品に、「5 U/µL」と書かれていたら、
酵素液1 µLあたり、5 Uの酵素活性がある
という意味です。
酵素が5個入っているわけでも、5 µg入っているわけでもありません。
ではメーカーは、「10 nmolのdNTPがDNAに取り込まれた」ことを、どうやって測っているのでしょうか?
「10 nmolのdNTPがDNAに入った」って、どうやって分かるの?
実はDNAポリメラーゼの活性測定では、放射性同位体で標識したdNTPを利用する方法があります。
たとえばAmpliTaq Goldの活性測定では、放射性リンである³²Pで標識したdCTPが使われています。
それが、[α-³²P]dCTPです。
イメージとしては、普通のdCTPに追跡できる目印をつけたものです。
DNAポリメラーゼによってDNAが合成されると、この[α-³²P]dCTPもDNA鎖に取り込まれます。
すると反応後のチューブには、
DNAに取り込まれた³²Pとまだ取り込まれていない³²P
の両方が存在することになります。
そこで反応後に、DNAに取り込まれたものと未反応のdNTPを分離します。
そして、DNA側に残った³²Pの放射能を測定することで、どれくらいの標識dCTPがDNAに取り込まれたのかを調べます。
さらに、使用した[α-³²P]dCTPの比放射能などから、DNAに取り込まれたヌクレオチド量を求めることができます。
つまり、
dNTPに目印をつける
→ DNAポリメラーゼに取り込ませる
→ DNA側に移った目印を測る
→ どれくらいDNA合成が起きたかを調べる
という仕組みです。

なお、普段PCRをするときに放射性物質を加えているわけではありません。
これはあくまで、DNAポリメラーゼの活性を評価するために使われる測定法の一例です。
「5 U/µLの酵素を0.125 U入れる」とは?
Uの意味が分かると、実際のプロトコルに書かれている酵素量の意味も分かるようになります。
例えば、活性濃度:5 U/µLのDNAポリメラーゼを、
1チューブあたり0.125 U入れるよう指定されていたとします。
この場合、
必要な酵素量(µL)=必要な活性(U)÷酵素濃度(U/µL)
なので、
0.125 U ÷ 5 U/µL = 0.025 µL
です。
つまり、計算上は1チューブあたり0.025 µLの酵素を加えれば、0.125 U相当のDNAポリメラーゼを入れたことになります。
ただし、0.025 µLという微量を通常のマイクロピペットで正確に量り取るのは現実的ではありません。
そこで実際のPCRでは、複数反応分の試薬をまとめたマスターミックスを作ることがあります。
例えば10反応分なら、
0.025 µL × 10反応 = 0.25 µL
となり、1反応ずつ0.025 µLを量り取るよりは扱いやすくなります。
※実際には、使用するピペットの測定範囲や製品のプロトコルなどに従って調製します。
※ピペッティングロスなどを考慮して、必要反応数より少し多めにマスターミックスを調製することもあります。
このように、
5 U/µL = 酵素液1 µLあたりの活性
0.125 U = 1反応に入れたい酵素活性
と考えると、プロトコルに書かれたUの意味が分かりやすくなります。
Uを使うのはDNAポリメラーゼだけではない
UはDNAポリメラーゼ専用の単位ではありません。
たとえば、DNAを特定の配列で切断する制限酵素や、DNAを分解するDNaseなど、さまざまな酵素でUが使われています。
ただし、同じ「1 U」でも意味がまったく同じとは限りません。
「何を、どんな条件で、どれくらい反応させたときを1 Uとするのか」
は酵素によって異なるため、それぞれの定義を確認する必要があります。
そのため、使用する酵素の1 Uがどのように定義されているのか、メーカーの仕様書で確認することが大切です。
血液検査にも「U」が登場する
実は、Uは研究室だけで目にする単位ではありません。
血液検査の結果を見ると、
AST:○ U/L
ALT:○ U/L
LDH:○ U/L
などと書かれています。
このUも酵素活性を表しています。
U/L=1 Lあたりの酵素活性
という意味なので、PCR用DNAポリメラーゼのU/µLと基本的な考え方は同じです。
ASTやALTなどの場合、U/Lは血清など1 Lあたりの酵素活性を表します。
まとめ:酵素の「U」で覚えておきたいこと
- U(Unit)は、酵素の量ではなく「どれくらい仕事ができるか=酵素活性」を表す単位です。
- 5 U/µLは、酵素液1 µLあたり5 Uの活性があるという意味です。
- DNAポリメラーゼは、dNTPをDNAに取り込んで新しいDNA鎖を合成します。
- 1 Uの具体的な定義は、酵素や製品によって異なります。必要に応じてメーカーの仕様書を確認します。
- 必要な酵素液量は、「必要な活性(U)÷ 活性濃度(U/µL)」で計算できます。
「U=酵素がどれだけあるか」ではなく、「酵素がどれだけ仕事をできるか」です。
まずはこれを押さえておけば、5 U/µLという表記もぐっと読みやすくなります。
