PCRなら知っている人も多いと思います。
では、ddPCRは聞いたことがありますか?
私は、見たことも聞いたこともありませんでした。
初めて見たときの感想は、
「いろんな装置が組み合わさっていて、高そう……。」(笑)
そしてもう一つ思ったのが、「なんで油と混ぜるの?」ということでした。
PCRなのに、反応液をわざわざ細かい粒にする理由が分かりません。
調べてみると、その理由は「少ないDNAやRNAをより正確に測定するため」でした。
今回は、ddPCRの仕組みやqPCRとの違いについて、初心者向けにまとめます。
【結論】ddPCRは、ごく少ないDNAやRNAを正確に測ることが得意なPCR
通常のPCRやqPCRでもDNAやRNAを調べることはできます。
しかし、ごく少ないDNAやRNAを正確に定量したい場合には、ddPCRが選ばれることがあります。
病院や研究室では、
- 移植後にドナー細胞がどのくらい定着しているか
- がんに関連する特定の遺伝子変異がどれくらい残っているか
- ウイルス量を高精度に測定したい
といった場面で利用されています。
ddPCRとは?
ddPCRはDroplet Digital PCRの略です。
「Droplet」は**液滴(小さな水滴)**という意味です。
通常のPCRでは、1本のチューブの中でDNAを増幅します。
一方、ddPCRでは、PCR反応液を**数万個の小さな液滴(ドロップレット)**に分け、それぞれの液滴の中でPCRを行います。
専用の油のような試薬と反応溶液をドロップレットジェネレーターという装置にセットすると、反応液は約2万個の小さな液滴(ドロップレット)に分かれます。
ドレッシングをよく振ったときにできる細かい粒が、さらに細かくなったようなイメージです。ドロップレットは非常に小さいため、肉眼では粒を1つずつ見ることはできず、反応液全体が白く濁って見えます。

この1粒がPCRをするための小部屋のようになっており、それが何万粒もできます。
PCR後、ドロップレットリーダーは約2万個のドロップレットを1つずつ読み取ります。
DNAが増幅されたドロップレットは蛍光を発するため「陽性」、増幅されなかったものは「陰性」と判定されます。
陽性と陰性のドロップレット数から、ソフトウェアがDNAのコピー数を計算します。
※実際には「ポアソン分布」という統計学の考え方を用いてコピー数を計算します。
詳しくは別の記事で解説します。
ddPCRはどんな装置で測定するの?
ddPCRは、一般的なPCRよりも使用する機器が多く、少し大がかりなシステムです。
主に使用する装置は次の5つです。

※メーカーによって装置構成は異なる場合があります。
なんで油と混ぜるの?
反応液を油と混ぜて約2万個の小さな液滴(ドロップレット)に分けることで、それぞれを独立したPCR反応として解析できます。
その結果、少ないDNAやRNAでも解析しやすくなり、低コピー数のサンプルや低頻度の遺伝子変異の定量に適しています。
また、PCR終了後に陽性・陰性のドロップレット数をもとにDNA量を計算するため、標準曲線を使わずにコピー数を求められることも特徴です。
ddPCRは何がすごいの?qPCRとの違い
ここでは、一般的によく利用されるリアルタイムPCR(qPCR)と比較しながら説明します。
qPCRもddPCRも、蛍光を利用してDNAやRNAを測定するPCRです。
大きな違いは、PCRをどのように行い、どのタイミングで測定するかにあります。
① エンドポイント法
qPCRでは、反応液をそのままPCR装置にセットし、DNAやRNAが増えていく様子をリアルタイムで観察します。
一方、ddPCRでは、反応液を約2万個のドロップレットに分けてPCRを行い、PCR終了後にドロップレットを読み取って解析します。
このように、PCR終了後に結果を判定する方法をエンドポイント法といいます。
つまり、qPCRは「PCRしながら測る」、ddPCRは「PCRが終わってから測る」という違いがあります。
② 絶対定量
qPCRでは、既知濃度の標準試料(標準曲線)と比較してDNA量を推定します。
一方、ddPCRでは、陽性ドロップレット数からDNAのコピー数を計算するため、標準曲線を必要としません。
このように、比較対象を使わずに直接コピー数を求める方法を絶対定量といいます。

例えば、人の身長を測るとします。
qPCRは、「160cm」「170cm」「180cm」の人と並べて比べながら、
『170cmくらいかな?』と推定するイメージです。
一方、ddPCRは、メジャーを使って直接170cmと測るイメージです。
qPCRは『定規の目盛りを作ってから測る』方法、
ddPCRは『メジャーで直接測る』方法です。
③ 少量DNAの定量が得意
普通のPCRやqPCRでも、ウイルスや特定の遺伝子変異を調べることはできます。
では、なぜわざわざddPCRを使うのでしょうか。
ddPCRが活躍するのは、**「ごくわずかな違いを正確に定量したいとき」**です。
例えば、
- 移植後に患者さん由来の細胞がどれくらい残っているか
- がん細胞に特有の遺伝子変異がどれくらい残っているか
- 特定の遺伝子変異を持つ細胞がどれくらい存在するか
といった場面です。
このような低コピー数や低頻度変異では、qPCRでも測定できますが、検出限界付近ではCt値のばらつきが大きくなり、定量の信頼性が低下することがあります。
一方、ddPCRでは約2万個のドロップレットを陽性・陰性に判定し、その結果からDNAのコピー数を計算します。
そのため、低コピー数のDNAや低頻度変異を再現性よく定量できることが大きな特徴です。
ddPCRは機械だけが重要ではない
ddPCRという名前を聞くと、「機械の性能がすごい」と思われがちです。
しかし、実際には何を検出したいのかを決めるプライマーやプローブの設計も非常に重要です。
プローブの設計が適切でなければ、
- qPCRでも正しく測定できません。
- ddPCRでも正しく測定できません。
つまり、
「アッセイ(プライマー・プローブ)の設計」と「ddPCRという測定技術」の両方がそろって初めて、高精度な測定が可能になります。
ddPCRはどのような流れで行う?
大まかな流れは次のとおりです。
- DNAまたはRNAを抽出する
- プライマーやプローブ、PCR試薬を加える
- 専用装置で反応液を数万個のドロップレットに分ける
- PCRを行う
- ドロップレットリーダーで陽性・陰性を判定する
- ソフトウェアでDNAやRNAの量を計算する
PCRそのものは通常のPCRと似ていますが、PCRを行う前にドロップレットを作ることが大きな特徴です。
どんな場面で使われるの?
ddPCRは、病院だけでなくさまざまな分野で利用されています。

移植後のキメリズム解析
造血幹細胞移植後に、患者さんの細胞とドナーの細胞の割合を調べます。
移植が順調に定着しているかを確認するために利用されます。
特定の遺伝子変異の検出
病気に関連する特定の変異(Specific mutation)があるかどうかを高感度に調べます。
正常なDNAが多く存在する中でも、少数の変異を検出できることがあります。
ウイルス量の測定
ウイルスDNAやRNAを測定することもできます。
特に少量のウイルスを高精度に測定したい場合に利用されることがあります。
研究分野
遺伝子コピー数の解析や、遺伝子発現の研究などにも利用されています。
【まとめ】ddPCRは「少数派を正確に測る」PCR
ddPCRは、反応液を数万個のドロップレットに分けてPCRを行う方法です。
通常のPCRでは測定が難しいような、ごく少ないDNAやRNA、わずかな遺伝子変異などを高精度に解析できることが大きな特徴です。
そのため、
- 移植後のキメリズム解析
- 特定の遺伝子変異の検出
- ウイルス量の測定
- 遺伝子研究
など、病院や研究機関をはじめ、さまざまな分野で利用されています。
ddPCRは、一見すると「PCRをするだけ」のように見えます。しかし実際には、「普通のPCRでは定量が難しいような少数派のDNAやRNAを、高精度に定量するためのPCR」と考えると、なぜ病院や研究室で使われているのかがイメージしやすくなります。
