ddPCRの解析結果を見ると、copies/μLという値が表示されます。
私は最初、
「PCRで増幅されたDNAの数」
だと思っていました。
しかし、実際にddPCRが求めているのはそうではありません。
ddPCRで知りたいのは、PCRを始める前にサンプル中に何個の標的DNA分子が存在していたかです。
この記事では、「コピー数」の意味と、機械が実際に数えているものについて初心者向けに解説します。
【結論】コピー数とは「PCR前に反応液中に存在していた標的DNA分子数(濃度)の推定値」
ddPCRで表示されるコピー数とは、
PCRを始める前に反応液中に存在していた標的DNA分子の数(一定体積あたり)
を推定した値です。
つまり、
- PCRで増えたDNA量
- 陽性ドロップレット数
- 細胞数
ではありません。
「PCR後のDNA量」を数えているわけではない
PCRを行うと、DNAは何百万~何十億コピーにも増幅されます。
しかし、ddPCRが知りたいのは、PCR後にどれだけ増えたかではありません。
知りたいのは、PCRを始める前に反応液中にどれだけ標的DNAが存在していたかです。
例えば、PCR前の反応液中には、平均して1 µLあたり5個の標的DNA分子が存在していたとします。
PCR後にはDNAは膨大な量まで増幅されますが、ddPCRが最終的に表示するのは、
「1 µLあたり5コピー(5 copies/µL)」
というPCR前の標的DNA濃度の推定値です。
つまり、PCRで増えたDNA量を表示しているわけではありません。
補足:copies/μLは「反応液中の濃度」
ここで注意したいのは、ddPCRで表示されるcopies/μLは、ddPCR反応液中の標的DNA濃度を示しているという点です。
例えば、
- DNA抽出後に希釈している
- ddPCR反応液にDNA溶液を一部だけ加えている
といった場合には、表示された値がそのまま元のサンプル中の濃度を表しているわけではありません。
実際のサンプル中のDNA濃度を求めるには、
- DNA溶液の希釈倍率
- ddPCR反応に加えたDNA量
- 抽出時の最終溶出量
などを考慮して逆算する必要があります。
そのため、ddPCRソフトが表示する copies/μL は「測定した反応液中の濃度」であり、元のサンプル中の濃度とは必ずしも一致しません。
例えば、
100 µLでDNAを溶出し、そのうち2 µLだけをddPCR反応に使用した場合、ソフトが表示する値は反応液中の濃度です。元の検体中にどれだけDNAがあったかを求めるには、溶出量や使用量を考慮して計算する必要があります。
この記事では「コピー数とは何か」を説明するため、以降は反応液中のコピー数として話を進めます。
1 µLってドロップレット何個分?
※ドロップレットの体積は装置によって異なります。
本記事ではBio-Rad社のddPCRシステムを例に説明しています。
1 µLあたりのコピー数は、ドロップレット1個分を表しているわけではありません。
Bio-Rad社のddPCRでは、1個のドロップレットの体積は約0.85 nLです。
1 µL = 1000 nLなので、
1000 ÷ 0.85 ≒ 約1,170個
となります。
つまり、
1 µLは約1,170個のドロップレット分の体積
に相当します。
そのため、5 copies/µLとは、
約1,170個のドロップレット分の体積の中に、平均5コピーの標的DNAが存在していたと推定される
という意味です。

約2万個のドロップレットなのに、なぜ結果は copies/µL なの?
ここで一つ疑問が出てきます。
「ddPCRではドロップレットを約2万個に分けるんですよね?
でも単位は1μL(約1176個)って、これってどういうことですか?」
あるいは、
「1 µLは約1,170個のドロップレット分の体積なのに、約2万個ものドロップレットを作る必要があるの?」
と思った方もいるかもしれません。
実は、「約2万個」と「copies/µL」は、それぞれ意味が異なる数字なのです。
約2万個は「測定に使ったドロップレット数」
Bio-Rad社のddPCRでは、1回の反応で約2万個のドロップレットが作られます。
解析では、この約2万個すべてについて、
- 陽性だったか
- 陰性だったか
を判定します。
つまり、
**約2万個という数字は、「解析に使ったドロップレットの総数」**を表しています。
ドロップレットの数が多いほど統計的な精度が高くなるため、約2万個に分けて解析しているのです。
copies/µLは「DNA濃度」を表す単位
一方、copies/µLは、
1 µLあたりに何コピーの標的DNAが存在していたか
というDNA濃度を表す単位です。
つまり、
- 約2万個 → 解析したドロップレットの数
- copies/µL → 解析結果から求めたDNA濃度
というように、そもそも表しているものが違います。
ソフトウェアが1 µLあたりの濃度に換算している
例えば、約2万個のドロップレットを解析した結果、
ポアソン補正によって、
「反応液全体には約85コピーの標的DNAが存在していた」
と推定されたとします。
この結果をもとに、ソフトウェアが反応液の体積を考慮して、
1 µLあたり何コピー存在していたか
を計算します。
その結果が、5 copies/µLのように表示されます。
つまり、約2万個のドロップレットを解析して得られた結果を、ソフトウェアが「1 µLあたりのDNA濃度(copies/µL)」として換算して表示しているのです。
約2万個は、解析に使ったドロップレットの数です。
一方、copies/µLは、解析結果から計算されたDNA濃度を表しています。
そのため、約2万個のドロップレットを解析した結果を、ソフトウェアが1 µLあたりのDNA濃度として表示していると考えると理解しやすいでしょう。
ddPCRで実際に測定しているもの
まず重要なのは、機械が直接数えているものです。
ドロップレットリーダーが数えているのは、
- 光ったドロップレット(陽性)
- 光らなかったドロップレット(陰性)
だけです。
例えば、
- 総ドロップレット数:20,000個
- 陽性:1,000個
- 陰性:19,000個
という結果なら、
「1,000個光った」
という事実を測定しているだけです。
陽性ドロップレット数=DNAコピー数ではない
ここが初心者が最も混乱しやすいポイントです。
1つのドロップレットには、
- DNAが0コピー
- DNAが1コピー
- DNAが2コピー
- DNAが3コピー以上
入る可能性があります。
しかしPCR後には、1コピーでも2コピーでも3コピーでも、
すべて同じ「陽性」と判定されます。
例えば、
- 1コピー入ったドロップレット → 陽性
- 2コピー入ったドロップレット → 陽性
- 3コピー入ったドロップレット → 陽性
となり、区別はできません。
つまり、
陽性ドロップレット数だけでは、元々DNAが何コピーあったのか分からないのです。
だからポアソン分布で補正する
そこで利用されるのがポアソン分布です。
例えば、
20,000個のドロップレットのうち、1,000個が陽性だったとします。
この陽性率から、
「1つのドロップレットに複数コピー入っていた確率」
を統計学的に推定します。
その補正を行うことで、
PCR前に反応液中に存在していたDNAコピー数
を計算しています。
つまり、次のような流れになります。

まとめ
ddPCRでは
- 機械は陽性ドロップレット数だけを数える
- ソフトウェアがポアソン分布で補正する
- 表示されるcopies/µLはPCR前の標的DNA濃度の推定値
つまり、
ddPCRはPCR後のDNA量ではなく、PCR前に存在していた標的DNA分子数(濃度)を推定する技術です。
