Proteinase KとRNase Aの役割とは?DNA抽出で何をしているのかを初心者向けに解説

遺伝子検査

DNA抽出のプロトコールを見ると、

  • Proteinase K(プロテイナーゼK)
  • RNase A(アールエヌエースA)

が当たり前のように登場します。

でも初心者の頃は、

「何のために入れているの?」
「入れないとどうなるの?」
「DNAまで壊れないの?」

と思いませんか?

実はこの2つ、DNAを“きれいに取り出すため”の重要な酵素です。

この記事では、

  • Proteinase Kとは?
  • RNase Aとは?
  • なぜDNA抽出に必要?
  • 入れないと何が起こる?
  • DNAは壊れないの?
  • 温度・pHとの関係
  • なぜ長時間加温しても頭打ちになるの?

まで、初心者向けにやさしく解説します。

【結論】Proteinase Kはタンパク質除去、RNase AはRNA除去

まず結論です。

つまり、DNA以外の“邪魔なもの”を取り除くための酵素です。

DNA抽出は、「DNAだけを選んで取り出す」作業ではありません。
細胞を壊して中身を出し、その中から不要なものを取り除きながらDNAを回収しています。

その過程で活躍するのが、Proteinase KとRNase Aです。

そもそも「酵素」とは?

Proteinase KもRNase Aも、酵素(enzyme)です。

酵素とは、特定のものだけを分解する“働き屋のタンパク質”のことです。

イメージとしては、「特定のもの専用のハサミ」です。

Proteinase K、RNase A、DNaseは、それぞれ切る相手が異なります。
DNA抽出では、不要なタンパク質やRNAを除去するために、目的に応じて使い分けられます。

そして酵素には、「得意な温度」と「得意なpH」があります。

そのため、何℃で、どのくらい反応させるかが重要になります。

Proteinase Kの役割=タンパク質を壊す

Proteinase K(ProK)は、タンパク質を分解する酵素(プロテアーゼ)です。

DNA抽出では、

  • 細胞内タンパク質
  • 核タンパク質
  • ヒストン
  • DNase(DNAを壊す酵素)

などを壊します。

ここが重要です。

DNAは核の中で、ヒストンというタンパク質に巻き付いて収納されています。

つまり、そのままだとDNAは取り出しにくい状態です。

そこでProteinase Kが、DNAを縛っているタンパク質を分解して、DNAを解放します。

イメージとしては、DNAが巻き付いている“糸巻き”を壊す感じです。
Proteinase KはDNAそのものを切るのではなく、DNAが巻き付いているヒストンなどのタンパク質を分解します。

なぜProteinase Kなの?

Proteinase Kの「K」は、keratin(ケラチン)由来です。

もともとは、ケラチン(毛髪・皮膚などの硬いタンパク質)を分解できる、Tritirachium albumというカビ(真菌)由来の酵素です。

つまり、自然界でタンパク質をガンガン分解して栄養を得る酵素だから強いです。

Proteinase Kは、

  • SDS存在下でも働きやすい
  • 比較的高温でも安定
  • 幅広いタンパク質を壊せる

という特徴があります。

そのため、DNA抽出との相性が非常に良い酵素になっています。

そもそも、なぜカビはタンパク質を壊すの?

カビや微生物は、周囲の有機物を分解して栄養を得る生き物です。
でもタンパク質って大きすぎて、そのまま食べられません。

だから、外に“タンパク質を切る酵素”を出して、小さく分解してから吸収します。
つまりProteinase Kは、カビからすると「ご飯を細かく刻む包丁」みたいなものです(笑)

その“強力な包丁”を、人間がDNA抽出に借りている感じです。

Proteinase Kはどうやって作られている?

試薬メーカーがゼロから化学合成しているわけではありません。

もともとカビなどの微生物が作る酵素を、培養 → 回収 → 精製して試薬化しています。

現在は、組換え技術で別の微生物に作らせることもあります。

Proteinase Kを入れないとどうなる?

Proteinase Kを入れないと、タンパク質が残ります。

すると、

  • DNA収量低下
  • PCR阻害
  • 粘度上昇
  • A260/A280低下

などが起こります。

特に、A260/A280が低い場合はタンパク質混入が疑われます。

RNase Aの役割=RNAを壊す

RNase Aは、RNAを分解する酵素です。

細胞の中には、DNAだけでなく大量のRNAがあります。
そのため、DNA抽出をすると、RNAも一緒についてきます。

そこで、RNase Aを使って、不要なRNAを分解します。

RNaseは「RiboNuclease」の略で、RNAを分解する酵素という意味です。
「-ase」は酵素名によく使われる語尾です。

なぜ「RNase A」なの?

実は、RNaseにはいろいろ種類があります。

その中で、DNA抽出でよく使われるのがRNase Aです。

RNaseは“RNAを切る酵素の総称”で、RNase Aはその中の一種類です。

犬 ← RNase
柴犬 ← RNase A

みたいな関係です(笑)

RNase Aが一般的に使用される理由は、

  • 安定性が高い
  • 扱いやすい
  • RNAをよく分解する
  • DNAをほぼ壊さない

からです。

古典的には、牛の膵臓(すいぞう)由来として知られています。

つまり、牛の消化酵素を借りてRNAを壊しているイメージです。

ちなみに「A」は、代表的なRNaseの分類名です。

Proteinase Kの「K」がkeratin(ケラチン)に由来するのとは違い、RNase Aの「A」は特定の基質名を表しているわけではありません。

同じ核酸なのに、なぜRNase AはDNAを壊さないの?

ここ、初心者が一番モヤモヤするポイントです。

DNAとRNAは、どちらも 核酸 です。

では、なぜRNase AはRNAだけを切り、DNAはほとんど壊さないのでしょうか?

実は、DNAとRNAには小さな違いがあります。

そのひとつが、使われている「糖」の違いです。

DNAには 2’-デオキシリボース、RNAには リボース が使われています。

そして最大の違いは、

RNA(リボース)には 2’位にOH(ヒドロキシ基)がある
一方、DNA(デオキシリボース)にはない

ことです。

たったこれだけの違いですが、この 2’OHの有無 が、

  • RNase Aで切れる/切れない
  • 安定性の違い
  • 生体内での役割の違い

に大きく関わっています。

RNase Aは、この 「2’OH」 を利用してRNAを切る酵素です。

ただし、2’OHそのものを切るわけではありません。

2’OHを“取っ掛かり”として利用しながら、隣にあるリン酸ジエステル結合を切っています。

つまり、「2’OHを使って、3’側の結合を切る」というイメージです。

だからDNAを見ると、「取っ掛かり(2’OH)がない」状態。

そのため、RNase AはDNAをほとんど分解できません。

RNase Aはどこを切る?

RNase Aは、RNAを構成するリン酸ジエステル結合を切断する酵素です。

ただし、RNA鎖をどこでも完全にランダムに切るわけではありません。

RNase Aは主に、C(シトシン)やU(ウラシル)の3’側を切りやすい特徴があります。

1回の反応で切るのは1つの結合ですが、実際にはRNA上の複数箇所で何度も働くため、長いRNAはだんだん短い断片に分解されていきます。

つまり、RNase AはRNAを“適当に壊す”のではなく、特徴を見分けながら切っている酵素なのです。

制限酵素に少し似ている

考え方としては、制限酵素に少し似ています。

どちらも、「特定の構造を認識して切る酵素」だからです。

違いは、

  • RNase A → RNA特有の構造を認識
  • 制限酵素 → 特定のDNA配列を認識

です。

RNase Aを入れないとどうなる?

RNase Aを入れないと、RNAが残りやすくなります。

RNAが残ると、次のような影響が出ることがあります。

DNA濃度が高く見える

RNAもDNAと同じく260nm付近の光を吸収します。

そのため、NanoDropなどで測定すると、実際のDNA量よりも濃度が高く見えることがあります。

抽出液がネバネバする

RNAが多く混ざると、抽出液に粘性が出ることがあります。

「DNAがたくさん取れた」と思っても、実はRNA混入の影響を受けている場合があります。

下流解析に影響することがある

PCRだけなら大きな問題にならないこともありますが、ddPCRやシークエンスなどでは、RNA混入が測定や解析に影響する可能性があります。

そのため、純度の高いDNAが必要な場合は、RNase A処理が重要になります。

Proteinase KとRNase Aの温度・pH

Proteinase KとRNase Aはどちらも酵素なので、温度やpHによって働きやすさが変わります。

Proteinase Kは、50〜56℃前後でよく働く酵素です。
DNA抽出では56℃前後で反応させることが多く、タンパク質の変性も進みやすいため、分解効率が上がります。

一方、RNase Aは室温〜37℃前後で使われることが多い酵素です。
非常に安定性が高く、高温でも失活しにくい特徴があります。

ただし、DNA抽出で使われる条件は、酵素単体のベスト条件だけで決まるわけではありません。DNAの安定性、バッファー条件、キット全体の再現性なども考えて、プロトコールが組まれています。

Proteinase KとRNase Aは一緒に使える?

Proteinase KとRNase Aは、同じ反応液に混合して使うこともあります。

Proteinase Kはタンパク質を分解し、RNase AはRNAを分解するため、
同時に使うことで、タンパク質除去とRNA除去をまとめて進めることができます。

ただし、それぞれの酵素には働きやすい温度やpHがあります。

そのため、混合して使う場合は、どちらか一方の酵素だけにとってのベスト条件ではなく、DNA抽出全体としてうまく進む条件が選ばれます。

例えば、Proteinase KとRNase Aを混合し、60〜65℃程度で一定時間反応させるプロトコールもあります。

つまり、

“酵素単体の至適条件”より、“検体からDNAをきれいに回収できる条件”が優先される

ということです。

検体によって酵素処理時間は異なる

Proteinase KやRNase Aの反応時間は、すべての検体で同じではありません。

検体によって、含まれるタンパク質量や不純物(夾雑物)の多さが異なるためです。

例えば、食品や環境サンプルなどでは、

  • タンパク質が多い
  • 脂質や多糖類が多い
  • 加工による変性物がある

など、DNA抽出を邪魔する成分が多いことがあります。

そのため、できるだけタンパク質を分解するために、酵素処理を長めに行うことがあります。

一方、臨床検体では、DNA品質や再現性が重視されるため、プロトコールに定められた反応時間を厳守することも少なくありません。

つまり、「長くやれば良い」ではなく、検体に応じて最適条件が異なるのです。

長時間加温しても効果が頭打ちになる理由

Proteinase KやRNase Aの反応は、長く置けば置くほど比例して進むわけではありません。

反応初期は、分解対象となるタンパク質やRNAが多いため、反応が進みやすい状態です。

しかし時間が経つと、

  • 分解対象が減る
  • 酵素が少しずつ失活する
  • 分解産物が反応に影響することがある

ため、追加の効果はだんだん小さくなります。

そのため、60分反応させたものを2日置いたからといって、48倍きれいになるわけではありません。

プロトコールで指定された時間は、「その検体や条件で必要十分な反応時間」と考えると理解しやすいです。

まとめ

Proteinase KとRNase Aは、DNA以外の不要物を取り除くための酵素です。

Proteinase Kは、DNAを縛るタンパク質を壊してDNAを取り出しやすくする役割。

RNase Aは、RNAを取り除き、DNAの純度を上げる役割。

どちらも、「何を認識して、何を切るか」が決まっている酵素です。

DNA抽出では、ただ試薬を入れるだけでなく、「何のために入れているのか?」を理解すると、プロトコールが一気にわかりやすくなります。

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