【結論】長いDNAも残るが、目的の長さのDNAが圧倒的に増えていく
「PCRをすると、目的の長さのDNAだけができる」と思いがちですが、実際には少し違います。
PCRでは、2サイクル目で目的の長さのDNAが初めてできます。
そして3サイクル目以降、そのDNA自身が鋳型となり、同じ長さのDNAをくり返し作れるようになります。
つまり、目的の長さのDNAが指数関数的な増幅に寄与し始めるのは、3サイクル目以降です。
一方で、最初にできた長いDNAや、片側だけ端が決まったDNAも、反応の中から完全になくなるわけではありません。
最終的なPCR産物の中には、長さの異なるDNAも混在しています。
ただし、両端がプライマーで決まった目的の長さのDNAは、同じ長さをくり返し作れるため、サイクルを重ねるほど圧倒的に増えていきます。
そのため電気泳動では、目的サイズのバンドが強く見えるのです。
この記事では、PCRの基本的な流れではなく、**1〜3サイクル目でできるPCR産物の「長さ」**に注目して解説します。
PCRの基本については、こちらの記事で解説しています。
👉PCRはどうやってDNAを増やすのか?変性・アニーリング・伸長反応をやさしく解説
👉5’と3’とは?DNAの向きをPCR初心者向けにやさしく解説
PCR産物には、長さの違うDNAが混ざっている
PCRで増えたDNAは、PCR産物と呼ばれます。
PCR産物というと、目的の長さのDNAだけをイメージしやすいかもしれません。
しかし、反応の途中では、目的の長さとは違うDNAもできます。
主に、次のようなDNAが混ざっています。

ここで大事なのは、長いDNAも残るという点です。
PCRをくり返しても、長いDNAが途中で消えたり、短く切られたりするわけではありません。
長いDNAも反応の中に残り、次のサイクルでお手本として使われます。
鋳型DNAとは、コピーするときのお手本になるDNA
PCRは、何もないところからDNAを作る反応ではありません。
新しいDNAを作るには、もとになるDNAが必要です。
このお手本になるDNAを、専門用語で鋳型DNA、またはテンプレートDNAと呼びます。
DNAは、AとT、GとCがペアになる性質があります。
そのため、片方のDNA鎖の配列が分かれば、それに対応するもう片方の鎖を作ることができます。
このとき、新しいDNAを作るためのお手本になる鎖が、鋳型DNAです。
塩基配列については、こちらの記事で解説しています。
👉DNA配列とは?|A・T・G・Cとbpを超初心者向けに解説
この記事では、東海道新幹線でイメージします
PCR産物の長さの違いは、言葉だけで考えると少し分かりにくいです。
そこでこの記事では、東海道新幹線にたとえて考えます。
東京〜新大阪までの長い線路を、元の長いDNAとします。
その中で、名古屋〜京都の区間だけを増やしたいと考えます。
新幹線が2路線あってそれぞれ逆向きに走っていく姿は、DNAが2本鎖で、それぞれをもとに複製が進む様子をイメージするのにも役立ちます。
PCRとの対応は、次のようなイメージです。

ここで大事なのは、最初から名古屋〜京都だけの短い軌跡ができるわけではない、ということです。
このイメージを使いながら、1サイクル目、2サイクル目、3サイクル目で、どんな長さのDNAができるのかを見ていきます。
1サイクル目:片側だけ端が決まった長いDNAができる
1サイクル目では、元の長いDNAが鋳型になります。
Forward primerとReverse primerがそれぞれ鋳型DNAに結合し、そこからDNAポリメラーゼが新しいDNAを伸ばします。
ただし、DNAポリメラーゼは、
「ここが目的の終点だから止まろう」
と判断しているわけではありません。
実際には、DNAポリメラーゼは無限に伸びるわけではなく、鋳型DNAの端や、設定した伸長時間の範囲で伸長します。
そのため、Forward primerから伸びたDNAは、目的の範囲を通り過ぎて、その先まで伸びることがあります。
Reverse primerから伸びたDNAも同じです。
新幹線で考えると、名古屋から出発した新幹線が、京都でぴったり止まるわけではありません。
その先の新大阪方面まで走るイメージです。
反対側も同じで、京都から出発した新幹線は、名古屋で止まらず、東京方面まで走ります。
つまり1サイクル目では、
名古屋→新大阪方面の長い軌跡
京都→東京方面の長い軌跡
ができます。
これはPCRでいうと、片側だけ端が決まった長いDNAです。
この記事の図では、分かりやすくするために、このDNAを**「ちょっと長いDNA」**と表しています。
ただし、実際には「少しだけ長い」という意味ではなく、目的の範囲を通り過ぎて伸びたDNAを指します。

1サイクル目では、まだ両端がそろった目的の長さのDNAはできません。
できるのは、片側だけ端が決まった長いDNAです。
2サイクル目:目的の長さのDNAが初めてできる
2サイクル目では、1サイクル目でできた「ちょっと長いDNA」も鋳型になります。
このDNAには、すでに片側の端がプライマーによって決まっています。
そこに反対側のプライマーが結合して、DNAポリメラーゼが伸長すると、初めて目的の長さのDNAができます。
新幹線で考えると、1サイクル目でできた長い軌跡をお手本にして、名古屋〜京都の長さを持つ軌跡が初めてできるイメージです。

ただし、ここでも大事なのは、長いDNAが消えたわけではないということです。
2サイクル目では、
- 元の長いDNA
- 1サイクル目でできたちょっと長いDNA
- 目的の長さのDNA
が混ざった状態になります。
目的の長さのDNAが初めてできる一方で、元の長いDNAや、1サイクル目でできたちょっと長いDNAも反応の中に残っています。
3サイクル目以降:目的の長さのDNAが、同じ長さのDNAを生む
目的の長さのDNAが一度できると、ここから増え方が変わります。
目的の長さのDNAは、両端がForward primerとReverse primerで決まっています。
そのため、次のサイクルで鋳型になると、また同じ長さのDNAを作ることができます。
つまり、
目的の長さのDNAが、次のサイクルでもまた目的の長さのDNAを作る
状態になります。
新幹線で考えると、名古屋〜京都の軌跡が、次のサイクルでもまた名古屋〜京都の軌跡を作るイメージです。

ここから、目的の長さのDNAが同じ長さでくり返し増え始めます。
一方で、元の長いDNAや、1サイクル目でできたちょっと長いDNAも残ります。
しかし、それらは目的の長さのDNAのように、同じ長さをくり返し作れる形にはなりにくいです。
この違いによって、サイクルを重ねるほど、目的の長さのDNAが圧倒的に増えていきます。
サイクルごとに、どのDNAが何本できるのか
ここでは、分かりやすくするために、DNAを「一本鎖1本」として数えます。
二本鎖DNA 1分子は、一本鎖2本として考えます。

この表を見ると、元の長いDNAや、ちょっと長いDNAも残っていることが分かります。
一方で、目的の長さのDNAは、3サイクル目以降に一気に増えていきます。
ここが今回のポイントです。
長いDNAが消えるから、目的の長さのDNAだけになるのではありません。
目的の長さのDNAの増え方が圧倒的だから、結果として目立つのです。
※この表は、PCRの増え方をイメージしやすくするために単純化したものです。実際のPCRでは、反応効率、プライマーの結合しやすさ、酵素の状態、鋳型DNAの長さなどによって、理論通りに増えるとは限りません。
電気泳動で目的サイズのバンドが見える理由
PCR後に電気泳動をすると、目的サイズの位置にバンドが見えることがあります。
このとき、
目的の長さのDNAだけが残った
ように見えるかもしれません。
しかし実際には、目的の長さ以外のDNAが完全になくなったわけではありません。
目的の長さのDNAが大量に増えたため、目的サイズのバンドとして目立って見えているのです。
もちろん、PCR条件が合っていないと、非特異的なバンドが出ることもあります。
たとえば、プライマーが目的以外の場所にも結合したり、アニーリング温度が低すぎたりすると、目的とは違う長さのDNAが増えることがあります。
そのため電気泳動では、
目的サイズのバンドが出ているか
余計な長さのバンドが目立っていないか
を確認します。
まとめ
PCRでは、最初から目的の長さのDNAだけができるわけではありません。
1サイクル目では、片側だけ端が決まった長いDNAができます。
2サイクル目で、Forward primerとReverse primerにはさまれた目的の長さのDNAが初めてできます。
3サイクル目以降は、目的の長さのDNAが、また同じ長さのDNAを作れるようになります。
一方で、元の長いDNAや、1サイクル目でできたちょっと長いDNAも残ります。
長いDNAが短く切られて消えるわけではありません。
それでも目的の長さのDNAが目立つのは、両端がプライマーで決まっていて、同じ長さをくり返し作れるからです。
PCR産物には、長さの違うDNAが混ざっています。
しかし、サイクルを重ねるほど、目的の長さのDNAが圧倒的に増えていきます。
だから電気泳動では、目的サイズのバンドが強く見えるのです。
