遺伝子変異を調べていると、
c.2657+5G>A
のように、数字の後ろに「+○」がついた変異を見かけることがあります。
この「+5」は、直前のエクソンの末端からイントロン側へ5塩基進んだ位置を表しています。

しかし、成熟mRNAではイントロンが取り除かれているため、mRNA配列の中を探しても、c.2657+5にあたる塩基そのものは見つかりません。
では、イントロン内にある変異の位置は、どのように調べればよいのでしょうか。
今回は、CFTRのイントロン変異
NM_000492.4:c.2657+5G>A
を例に、c.表記からゲノムDNA上の位置を求め、NCBIのGenome Data Viewerで実際の塩基を確認するところまでたどってみます。
CFTRのRefSeq transcriptには、NM_000492.4を使用します。
NCBI Nucleotide:NM_000492.4
なお、エクソン内の変異については、こちらの記事でゲノム座標の調べ方を解説しています。
👉遺伝子変異の周辺配列を取得する方法|NCBIでゲノム座標を調べてFASTAを取得する
まず「c.2657」の位置を探す
c.2657+5G>A はイントロン内の変異を表しているため、変異位置そのものは成熟mRNA上には存在しません。
そこで、まずは基準となる c.2657 がmRNA上のどこにあるのかを調べます。
NCBIで NM_000492.4 を開き、CDSを確認すると、
CDS 71..4513
となっています。
c.表記ではCDSの最初の塩基が c.1 なので、c.2657をmRNA上の位置に変換すると、
2657 + 71 − 1 = 2727
となります。
つまり、c.2657はmRNA配列の2727番目の塩基です。
次に、この2727番目の塩基がどのエクソンに含まれているのか確認します。
NCBIのexon情報を見ると、
exon 2690..2727
となっています。
mRNAの2727番目は、このexonの最後の塩基であることが分かります。
また、このexonはNM_000492.4の5′側から数えて16番目に記載されているexonに相当します。
※exon番号は、使用する転写産物や注釈によって表記が異なる場合があります。ここでは、NM_000492.4のexon情報を5′側から順に数えた位置として示しています。
エクソンの数え方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
👉変異は何番exonにある?NCBIでexonを調べる方法
つまり c.2657+5 は、このexonの末端を基準として、イントロン側へ5塩基進んだ位置です。
エクソンとイントロンについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
👉エクソンとイントロンとは?NCBIで実際の遺伝子を見てみよう
エクソン末端のゲノム座標を調べる
c.2657があるexonを特定できたら、次はGenome Data Viewerで、そのexonがゲノム上のどの範囲にあるのかを確認します。
Chr7: 117.5M-117.7M – Genome Data Viewer – NCBI
ここでも、これまでと同じ方法を使います。
Exon Navigatorで先ほど確認した16番目のexonを右クリックし、
View genomic sequence
を選択します。
表示されたFASTAヘッダーから、そのexonのゲノム上の範囲を確認します。

今回のexonは、
NC_000007.14:117602826-117602863
の範囲にあることが分かります。
次に、CFTRの向きを確認します。
Genome Data Viewerを見ると、CFTRはプラス鎖にあります。

プラス鎖では、mRNAの5′→3′方向に進むにつれてゲノム座標も大きくなります。
そのため、
mRNA側:2727番目(c.2657)がexonの末端
↓
ゲノム側:117602863がexonの末端
という対応になります。
つまり、c.2657に対応するゲノム座標は117602863です。
「+5」の位置を計算する
今回調べている変異は、
NM_000492.4:c.2657+5G>A
です。
「+5」は、c.2657があるexonの末端からイントロン側へ5塩基進んだ位置を表します。
CFTRはプラス鎖なので、イントロン側へ進むとゲノム座標は大きくなります。
c.2657+1がイントロンの1塩基目、c.2657+2が2塩基目……となるため、c.2657+5はイントロンの5塩基目にあたります。
したがって、
117602863 + 5 = 117602868
となり、変異位置のゲノム座標は117602868と求められます。
実際にGenome Data Viewerでexonとintronの境界付近を拡大して確認してみます。

exonとintronの境界からイントロン側へ数えると、5塩基目がGになっていることが確認できます。

つまり、c.2657+5G>AのGは、ゲノムDNA上では117602868番目の塩基にあたります。
GDVで塩基配列まで拡大できない場合
GDV上で目的の位置までうまく拡大できない場合は、ゲノム側のアクセッション番号 NC_000007.14 を使って目的の座標周辺を確認する方法もあります。
なお、NCBIのGraphics自体がうまく読み込まれないこともあります。その場合は、ゲノム座標を指定してFASTA配列を取得する方法も利用できます。
今回、目的のexonを右クリックして確認したゲノム上の範囲は、
NC_000007.14:117602826-117602863
でした。
ここで使われている NC_000007.14 は、ヒト7番染色体のゲノム配列を示すRefSeqアクセッション番号です。
NCBIでNC_000007.14を開き、Graphicsから目的の座標周辺まで移動すれば、イントロンを含むゲノム配列を確認できます。
なぜNM_000492.4ではなくNC_000007.14を見るの?
NM_000492.4は成熟mRNAの配列なので、イントロン配列は含まれていません。
一方、NC_000007.14は染色体のゲノム配列なので、exonだけでなくintronも含まれています。
そのため、イントロン変異そのものの塩基を確認したい場合は、mRNA配列からゲノム配列へ移動する必要があります。
この考え方は、イントロンを含む領域でPCRプライマーを設計するために、ゲノムDNAの周辺配列を取得するときにも役立ちます。
変異周辺の配列を取得したい場合
ここまでで、c.2657+5G>Aの変異位置をゲノム座標までたどることができました。
NM_000492.4:c.2657+5G>A
↓
NC_000007.14:g.117602868G>A
このゲノム座標を使えば、変異周辺の塩基配列をFASTA形式で取得することもできます。
ゲノム座標を指定して変異周辺のFASTA配列を取得する方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
👉遺伝子変異の周辺配列を取得する方法|NCBIでゲノム座標を調べてFASTAを取得する
ClinVarで答え合わせ
最後に、ClinVarで答え合わせをしてみます。
ClinVarには、この変異について、
NM_000492.4(CFTR):c.2657+5G>A
というtranscript基準の表記とともに、GRCh38におけるゲノム座標も掲載されています。
👉[ClinVar:NM_000492.4(CFTR):c.2657+5G>A]
自分で求めた座標と一致するでしょうか。

ClinVarで確認すると、この変異はGRCh38では117602868番目の塩基に位置しています。
ゲノムDNAを基準としたHGVS表記では、
NC_000007.14:g.117602868G>A
と表すことができます。
今回、自分で求めた座標も、
117602863 + 5 = 117602868
でした。
計算で求めた位置とClinVarに登録されている位置が一致しました。
このように、成熟mRNAには存在しないイントロン内の変異でも、exonとの境界と遺伝子の鎖方向を確認することで、ゲノムDNA上の位置をたどることができます。
まとめ
今回は、
NM_000492.4(CFTR):c.2657+5G>A
を例に、イントロン変異の位置をゲノムDNA上で調べる方法を見てきました。
イントロン変異では、変異塩基そのものを成熟mRNA配列から探すことはできません。
「+5」や「-1」は、exonとintronの境界を基準として、イントロン内のどの位置にあるのかを表しています。
そこで、イントロン変異の位置を調べるときは、次の順番で考えます。
① c.表記を読む
↓
② 基準となるexon側の塩基を見つける
↓
③ exon境界を確認する
↓
④ exonのゲノム上の範囲を確認する
↓
⑤ プラス鎖かマイナス鎖かを確認する
↓
⑥ イントロン側へ移動する
今回はCFTRがプラス鎖にあるため、exon末端のゲノム座標117602863から5塩基進んだ、117602868が変異位置となりました。
一方、遺伝子がマイナス鎖にある場合は、ゲノム座標の進む向きが逆になります。
そのため、ゲノム座標を計算するときは、その遺伝子がプラス鎖にあるのかマイナス鎖にあるのかを確認することが大切です。
👉プラス鎖・マイナス鎖とは?NCBIで向きを確認してゲノム座標を計算してみよう
「+5」や「-1」は、「exonとintronの境界を基準として、イントロン内のどの位置にあるのか」を表していると考えると、位置関係を整理しやすくなります。
