遺伝子変異には、「どこが、どのように変化したのか」を共通のルールで表す書き方があります。
その代表的なものが、HGVS(Human Genome Variation Society)の命名規則です。
ClinVarなどでは、例えばTP53の変異が、
NM_000546.6(TP53):c.574C>T (p.Gln192Ter)
のように表記されています。
このうち、今回注目するのがc.574C>Tの部分です。

今回は、この「c.」から始まる表記について、それぞれの意味を初心者向けに簡単に解説します。
そもそも「c.」とは?
ClinVarや論文などで見かける、
c.574C>T
は、HGVSのルールに沿って書かれた遺伝子変異の表記です。
この最初についている「c.」は、coding DNA reference sequenceを基準にして変異を表していることを示します。
CDS(coding sequence)とは、タンパク質の設計情報が書かれている領域のことです。
c.表記では、このCDSの開始コドンATGのAをc.1として位置を数えます。
ここで注意したいのが、c.の数字は染色体上のゲノム座標をそのまま表しているわけではないという点です。

つまり、
- c.1:CDSの最初の塩基
- c.2:その次の塩基
- c.574:CDSの開始から数えて574番目の塩基
という意味です。
例えば、c.574C>Tであれば、
CDSの開始から574番目にあるC(シトシン)が、T(チミン)に置き換わっている
ことを表します。
mRNAの1番目=c.1とは限らない
mRNAには、タンパク質に翻訳されるCDSだけでなく、翻訳されないUTR(非翻訳領域)も含まれます。
そのため、
mRNAの最初の塩基 = c.1
とは限りません。
c.表記では、CDSの最初の塩基をc.1として数えます。
つまり、「c.」はmRNAの先頭から単純に数えた番号ではなく、CDSの開始位置を1とした座標と考えると分かりやすいでしょう。
エクソンとCDSの位置関係や、変異が何番exonにあるのかを調べる方法については、別の記事で詳しく解説しています。
👉変異は何番exonにある?NCBIでexonを調べる方法
では、c.の後ろにつく「>」「del」「ins」「+1」「-1」などが何を意味するのか、順番に見ていきます。
よく見るc.表記をまとめると
遺伝子変異では、c.574C>Tやc.100del、c.100+1G>Aなど、さまざまな表記が使われます。
最初に、よく見るc.表記の意味をまとめておきます。
| 表記例 | 意味 |
|---|---|
| c.574C>T | 574番目のCがTに置換 |
| c.100del | 100番目の塩基が欠失 |
| c.100_102del | 100~102番目の塩基が欠失 |
| c.100_101insA | 100番目と101番目の間にAを挿入 |
| c.100dup | 100番目の塩基が重複 |
| c.100_102dup | 100~102番目の配列が重複 |
| c.100_101delinsTT | 100~101番目の配列を削除し、TTを挿入 |
| c.100+1G>A | c.100直後のイントロン内のGがAに置換 |
| c.200-1G>A | c.200直前のイントロン内のGがAに置換 |
一見すると暗号のようですが、記号の意味が分かればそれほど難しくありません。
「>」は置換
「>」は、置換(substitution)を表します。
c.574C>T
この場合は、
574番目のCがTに置き換わった
という意味です。

「del」は欠失
「del」は、deletion(欠失)を表します。
c.100del
この場合は、
100番目の塩基がなくなった
という意味です。
複数の塩基が欠失している場合は、
c.100_102del
のように範囲で表されます。
これは、
100~102番目の塩基が欠失した
という意味です。

「ins」は挿入
「ins」は、insertion(挿入)を表します。
例えば、
c.100_101insA
なら、
100番目と101番目の塩基の間にAが挿入された
ことを表します。
挿入では、どの2塩基の間に挿入されたのかが示されます。

「dup」は重複
「dup」は、duplication(重複)を表します。
c.100dup
なら、
100番目の塩基が重複した
という意味です。
複数の塩基が重複している場合は、
c.100_102dup
のように表記されます。
これは、
100~102番目の配列が重複した
という意味です。

「delins」は欠失+挿入
「delins」は、deletion-insertion(欠失+挿入)を表します。
c.100_101delinsTT
なら、
100~101番目の塩基が欠失し、代わりにTTが挿入された
という意味です。

欠失や挿入で「読み枠」がずれることもある
DNAの塩基配列は、タンパク質をつくる際に3塩基ずつ読み取られます。
そのため、CDS内で1塩基や2塩基が欠失・挿入すると、そこから先の3塩基の区切り方がずれることがあります。
このような変化を、
フレームシフト(frameshift)
といいます。
一方、3塩基など3の倍数の塩基が欠失・挿入した場合は、基本的に読み枠そのものはずれません。
フレームシフトについては、別の記事で詳しく解説します。
「+1」「-1」はイントロン内の位置
少し分かりにくいのが、
c.100+1G>A
c.200-1G>A
のような表記です。
「+1」や「-1」は、exonとintronの境界を基準にしたイントロン内の位置を表します。
例えば、exonの最後の塩基がc.100なら、
c.100+1
は、c.100の直後にあるイントロンの最初の塩基です。
反対に、次のexonがc.200から始まる場合、
c.200-1
は、c.200の直前にあるイントロンの最後の塩基です。

ここで注意したいのが、
c.200-1とc.199は同じ場所ではない
ということです。
c.200-1はイントロン内の塩基ですが、c.199はc.表記で199番目にあたる塩基です。
つまり「-1」は「200から1を引く」という意味ではなく、c.200を基準にイントロン側へ1塩基進んだ位置を表しています。
「_」は2つの位置をつなぐ
ここまでにも登場した「_」(アンダーバー)は、2つの位置をつなぐ記号です。
例えば、
c.100_102del → c.100からc.102まで
c.100_101insA → c.100とc.101の間
を示します。
「_」そのものが欠失や挿入を意味するのではなく、変化に関係する2つの位置を示す記号です。
まとめ
遺伝子変異のc.表記には、変異の位置だけでなく、どのような変化が起こったのかも記載されています。
「>」を見たら置換、「del」なら欠失、「ins」なら挿入、「dup」なら重複、「delins」なら欠失+挿入を表します。
また、「+1」や「-1」は、exonとintronの境界を基準にしたイントロン内の位置、「_」は2つの位置をつなぐ記号です。
最初からすべて覚える必要はありません。
変異情報を見たときに、「この記号、何だっけ?」と確認できる早見表として、この記事を使っていただければと思います。
