NCBIのGenome Data Viewerで遺伝子を見ると、遺伝子を示す矢印が→向きの場合と←向きの場合があります。
この矢印は、転写産物(mRNA)の5′→3′方向を示しています。
→向きに表示される遺伝子はプラス鎖(+鎖)、←向きに表示される遺伝子はマイナス鎖(−鎖)にあります。
+鎖と−鎖では、ゲノム座標とmRNA上の位置との対応の仕方が異なります。
今回は、+鎖のCFTRと−鎖のTP53を例に、Genome Data Viewerで実際の向きを確認しながら、+鎖と−鎖の違いとゲノム座標との対応の考え方を説明します。
プラス鎖の例:CFTRを見てみよう
まず+鎖の例として、CFTR遺伝子を見てみます。
NCBIのGenome Data ViewerでCFTRを表示します。

CFTRは7番染色体に存在する遺伝子です。
Genome Data Viewerを見ると、転写産物に表示されている矢印が→と右を向いています。

exonの○にカーソルを合わせると、exon番号を確認できます。
CFTRでは、一番左にあるexonがexon 1です。

また、exonの横にはゲノム座標が表示されています。

CFTRでは、左から右へ進むにつれて、exon番号もゲノム座標も大きくなっていきます。
つまりCFTRでは、mRNAの5′→3′方向とゲノム座標が大きくなる方向が一致しています。
このような向きの遺伝子が+鎖です。
マイナス鎖の例:TP53を見てみよう
次に、−鎖の例としてTP53遺伝子を見てみます。

TP53では、遺伝子の向きを示す矢印が←と左を向いています。

exonの○にカーソルを合わせると、TP53では一番右にあるexonがexon 1であることが確認できます。

TP53では、右から左へ進むにつれて、exon番号が大きくなっていきます。
一方、ゲノム座標は反対に、左から右へ進むほど大きくなります。

つまりTP53では、mRNAの5′→3′方向とゲノム座標が大きくなる方向が反対になっています。
このような向きの遺伝子が−鎖です。
実際にゲノム座標を計算してみよう
変異を確認するときに、mRNA上の位置がゲノム上のどこに当たるのかを計算することがあります。
このとき、+鎖と−鎖ではゲノム座標との対応の仕方が異なります。
実際の変異を使って、それぞれ計算してみましょう。
+鎖:CFTRの変異位置を計算する
今回は、CFTRの代表的な変異である
NM_000492.4:c.1521_1523delCTT(p.Phe508del / F508del)
を例に、ゲノム上の位置を計算してみます。
これは、CDSのc.1521~1523にある3塩基(CTT)が欠失する変異です。
del は deletion(欠失)を意味します。
まず、今回使う情報を整理します。
- RefSeq:NM_000492.4
- 変異:c.1521_1523delCTT
- mRNA上の位置:1591~1593
- exon:exon 11
- exon 11のmRNA上の範囲:1463..1654
- exon 11のゲノム座標:117,559,464~117,559,655
- 5′側:117,559,464
- 3′側:117,559,655
- 遺伝子の向き:+鎖
今回は、exonの5′側のゲノム座標を基準にして計算します。
まず、欠失領域の先頭であるmRNA 1591番が、exon 11の5′側からどれくらい離れているか計算します。
1591 − 1463 = 128
つまり、5′側から128 bp進んだ位置です。
CFTRは+鎖なので、5′→3′方向へ進むほどゲノム座標は大きくなります。
そのため、5′側のゲノム座標 117,559,464 に128を足します。
117,559,464 + 128 = 117,559,592
欠失領域の先頭は、ゲノム座標 117,559,592 に相当します。
今回の変異では3塩基が欠失しているため、ゲノム上の範囲は、
117,559,592~117,559,594
となります。
ClinVarでは、
NC_000007.14:g.117559592_117559594del
と表記されており、計算した位置と一致します。
+鎖では、5′側から進んだ分だけゲノム座標に足すと考えることができます。
「129番目」なのに、なぜ128を足すの?
ここで私は少し混乱しました。
目的の塩基がexon 11の何番目にあるかを計算すると、
1591 − 1463 + 1 = 129
つまり、exon 11の129番目です。
では、なぜゲノム座標には128を足すのでしょうか。
簡単な例で考えてみます。

Cは先頭から数えると3番目ですが、AからCまで進む距離は、2つ分です。
同じように、目的の塩基はexon 11の129番目ですが、先頭からの移動量は128 bpです。
そのため、ゲノム座標を計算するときには128を足します。
なお、「何番目・何個あるか」を数える場合は+1し、「先頭から何bp進んだか」という移動量を求める場合は+1しません。
−鎖:TP53の変異位置を計算する
次は、−鎖でも同じように計算してみます。
今回は、TP53の変異である
NM_000546.6:c.574C>T(p.Gln192Ter)
を例にします。
これは、CDSの574番目の塩基がCからTに置き換わる変異です。
今回使う情報を整理します。
- RefSeq:NM_000546.6
- 変異:c.574C>T
- mRNA上の位置:716
- exon:exon 6(NM_000546.6の転写産物上)
- exon 6のmRNA上の範囲:702..814
- exon 6のゲノム座標:7,674,859~7,674,971
- 5′側:7,674,971
- 3′側:7,674,859
- 遺伝子の向き:−鎖
※ exon番号について
ここでは、NM_000546.6の転写産物全体でのexon番号を使用しています。ClinVarの「coding exon 5」とは数え方が異なります。
👉exon番号の数え方についてはこちらで詳しく説明しています。
こちらも、exonの5′側のゲノム座標を基準にして計算します。
mRNA 716番が、exon 6の5′側からどれくらい離れているか計算すると、
716 − 702 = 14
つまり、5′側から14 bp進んだ位置です。

ここまでは+鎖のCFTRと同じです。
しかし、TP53は−鎖なので、5′→3′方向へ進むほどゲノム座標は小さくなります。

そのため、5′側のゲノム座標 7,674,971 から14を引きます。
7,674,971 − 14 = 7,674,957
計算すると、目的の変異はGRCh38における17番染色体のゲノム座標 7,674,957に位置することがわかります。
ClinVarでは、
NC_000017.11:g.7674957G>A
と表記されており、計算した位置と一致します。
−鎖では、5′側から進んだ分だけゲノム座標から引くと考えることができます。
+鎖と−鎖ではexonの5′側が逆になる
今回の計算では、どちらもexonの5′側のゲノム座標を基準にしました。
+鎖と−鎖では、この5′側とゲノム座標の関係が逆になります。

mRNA上の位置をゲノム座標に対応させるときは、+鎖か−鎖かを確認し、exonの5′側がどちらなのかを間違えないように注意しましょう。
まとめ
今回は、NCBIで+鎖と−鎖の向きを確認し、mRNA上の位置からゲノム座標を計算しました。
- +鎖:5′→3′方向へ進むとゲノム座標が大きくなる → 5′側の座標に移動量を足す
- −鎖:5′→3′方向へ進むとゲノム座標が小さくなる → 5′側の座標から移動量を引く
ゲノム座標を確認するときは、Genome Data Viewerで遺伝子の向き(+鎖/−鎖)とexonの5′側を確認することが大切です。
