細胞をカウントする際には、染色液を用いて希釈・染色を行う方法が一般的です。
代表的な染色液には、チュルク液とトリパンブルーがあります。
ただし、この2つは役割がまったく異なります。
- チュルク液:赤血球を溶かし、白血球の核を染めて見やすくする
- トリパンブルー:死細胞のみを青く染め、生死判定に用いる
また、PBSによる観察は、染色せずに細胞の有無を確認する簡易法であり、生死判定はできません。
これらの違いを理解しておかないと、目的に合わない方法を選んでしまうことがあります。
本記事では、この3つの方法の違いをやさしく解説します。
細胞カウントに使う染色液の違い(全体像)
まずは、3つの違いをイメージで見てみましょう。

図のようにきれいに見えるとは限らず、実際の観察ではコントラストが低かったり、細胞が見えにくいこともあります。
また、同じサンプルであっても、染色条件や観察視野によってカウント数は完全には一致しないことがあります。
染色液① チュルク液(Türk液)
代表的な染色液として、チュルク液があります。
チュルク液は、赤血球を溶かし、白血球(PBMC)の核を染めて識別しやすくする試薬です。
チュルク液で処理した細胞を顕微鏡で観察すると、核が染まり、白血球がはっきりと見えるようになります。
一方で、
- 赤血球の残渣
- 染色されていない構造物
などが見えることもありますが、これらはカウントには含めません。
※チュルク液は、Türkという研究者の名前に由来する染色液です。
染色液② トリパンブルー
凍結細胞を解凍した際には、トリパンブルーを用いて細胞の生死を確認します。
トリパンブルーは、死細胞のみを青く染める染色液です。
そのため、
- 生細胞 → 染まらない
- 死細胞 → 青く染まる
多くの場合、細胞を培養や解析に使用するためには“生きている細胞”が必要です。
その割合を確認する目的で、トリパンブルーが用いられます。
フローサイトメトリーなどの解析では、生細胞の割合が重要になります。
👉フローサイトメトリー入門|初心者が最初に読むべき記事まとめ
また、凍結細胞は保存条件によって生存率が低下することがあるため、
解凍後に生細胞の割合を確認することが重要です。
トリパンブルーは、細胞膜が壊れているかどうかで生死を判定しています。
トリパンブルーで処理した細胞を顕微鏡で観察すると、
生細胞は透明に見え、死細胞のみが青く染まります。
そのため、視野の中では透明な細胞と青い細胞が混在して見え、
コントラストがはっきりします。
この違いを利用して、染まっていない細胞(生細胞)の数を数えます。
トリパンブルーの仕組み
生きている細胞は細胞膜が保たれているため、トリパンブルーは細胞内に入りません。
一方、死んでいる細胞は細胞膜が壊れているため、トリパンブルーが細胞内に入り、青く染まります。
まとめ:トリパンブルーは、細胞膜が壊れた細胞のみを染めることで、生死を判定する染色液です。
染色しない観察:PBS(未染色)の場合
尿のように細胞数が少ない試料では、
遠心分離後の沈殿(ペレット)を少量のPBSで溶かし、
そのまま顕微鏡で観察すると、細胞が確認できる場合があります。
DNA抽出前に、細胞の有無をざっくり確認する用途に有効です。
ただし、
- 生細胞と死細胞の区別はできない
- 染色した場合に比べてコントラストが低く、細胞が見えにくい
といった特徴があります。
染色液と試料の代表的な混合比率の目安
▶ チュルク液
代表例として、1:10〜1:20程度に希釈することが多い
- 白血球カウントに使用
- 赤血球(RBC)をしっかり溶かしたい場合
▶ トリパンブルー
1:1 が基本
- 例:10 µL サンプル + 10 µL トリパンブルー
- 生死判定がしやすい
▶ PBS(未染色)
そのまま、または軽く希釈
- 濃すぎる → 見えにくい
- 薄すぎる → 見つからない
“見やすい濃度に調整する”ことが最も重要です。
血球計算盤でカウントする際は、計算しやすい希釈倍率に調整することもあります。
そのため、希釈倍率は一定ではなく、施設や目的によって異なります。
顕微鏡の倍率と観察のコツ
顕微鏡は、まず低倍率(10×)で全体を確認し、必要に応じて中倍率(20×)に切り替えて細胞を観察・カウントします。
探す:低倍率(10×)/数える:中倍率(20×)
対物レンズの色の意味(多くの顕微鏡)
※対物レンズの周りに付いている色で倍率を見分けることができます。
- 緑(10×対物)
👉 広く見る・全体を探す - 黄色(20×対物)
👉 細胞をしっかり見てカウント
※機種によって色は異なりますが、この対応が一般的です。
実務の流れ
① 低倍率(10×)で全体を確認する
👉 分布・濃さ・ゴミの有無をチェック
↓
② 必要に応じて中倍率(20×)に切り替える
👉 細胞を識別してカウント
なぜこの使い分けか
- 低倍率 → 視野が広い(見つけやすい)
- 中倍率 → 細胞が判別しやすい
- 効率と正確さのバランスが取れるためです。
※一般的には10×対物レンズで観察・カウントする方法が多いですが、施設によっては20×に切り替えてカウントする場合もあります。
細胞カウントの基本の流れ
① 目的に応じて染色液を選ぶ
(チュルク液・トリパンブルー・PBSなど)
② 見やすい濃度に希釈する
(細胞数に応じて調整)
③ 血球計算盤に試料をセットする
④ 低倍率(10×)で全体を確認する
⑤ 必要に応じて中倍率(20×)に切り替え、細胞をカウントする
👉 このように、「何を確認したいか」に応じて染色液や条件を選ぶことが重要です。
チュルク染色でどの細胞を数える?迷いやすい細胞の見分け方
チュルク液で細胞を染色して血球計算盤で観察すると、白血球は白っぽく、あるいは光っているように見えます。
初めて細胞を数えるときは、
「白く見えるものを数えればいいのかな?」
と思うかもしれません。
しかし、実際に顕微鏡をのぞいてみると、きれいな丸い細胞ばかりが並んでいるわけではありません。
大きな細胞もあれば小さな細胞もあり、形が少しいびつなものもあります。ときには「これは細胞?それとも細胞の破片?」と迷うような小さなものが見えることもあります。
検体によって細胞の見え方は違う
細胞の見え方は、検体によっても異なります。
例えば、末梢血から分離したPBMCではリンパ球や単球が中心となるため、比較的丸く、そろった細胞が多く見えます。
一方、骨髄にはさまざまな成熟段階の造血細胞が含まれています。そのため、末梢血由来のPBMCと比べると、細胞の大きさや形が不均一に見えることがあります。
実際にいろいろな検体を観察していると、
「いつものPBMCとずいぶん見え方が違うな」
と感じることがあります。
極端に小さいものは数える?
ここが、実際にカウントしていて迷いやすいところです。
視野の中には、通常の細胞よりかなり小さいものや、輪郭がはっきりしないものが見えることがあります。
このようなものには、細胞だけでなく、細胞片などが含まれている可能性があります。そのため、「白く見えたものをすべて1細胞として数える」と単純に判断するのは避けた方がよいでしょう。
細胞として認識できる輪郭や核の見え方などを確認しながらカウントします。
ただし、実際の見え方は検体の種類や状態、調製方法、顕微鏡の条件などによっても変わります。
判断に迷う細胞がある場合は、自己判断で基準を作るのではなく、実際の視野を経験者と一緒に確認し、その施設や実験系でのカウント基準をそろえておくことが大切です。
私自身、細胞を数えていて「これは数えるのかな?」と迷うことがあります。
教科書ではきれいな細胞の写真を見ることが多いですが、実際の検体はもっとさまざまです。
最初からすべてを見分けようとせず、迷った細胞は確認しながら、少しずつ見慣れていけばよいと思います。
まとめ|細胞カウントに使う染色液のポイント
染色液は、目的に応じて使い分けることが重要です。
チュルク液
赤血球を溶かし、白血球の核を染めて見やすくする
トリパンブルー
死細胞のみを青く染める(生死判別に使用)
PBS
染色は行わず、細胞の有無を簡易的に確認できる
大切なのは「どの試薬を使うか」ではなく、「何を確認したいか」です。
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