Taq DNAポリメラーゼとDNAポリメラーゼの違いとは?PCRでTaqが使われる理由を解説

遺伝子検査

PCRについて勉強していると、「DNAポリメラーゼ」という言葉と「Taq DNAポリメラーゼ」という言葉が出てきます。

名前がよく似ていますが、この2つは別のものなのでしょうか?

結論からいうと、Taq DNAポリメラーゼはDNAポリメラーゼの一種です。

DNAポリメラーゼにはさまざまな種類があり、その中でも高温に強く、PCRに利用できる酵素の一つがTaq DNAポリメラーゼです。

結論:DNAポリメラーゼとはDNAを合成する酵素

DNAポリメラーゼは、DNAを合成する酵素の総称です。
PCRでは、目的のDNAを増幅するために必要な試薬の一つとして使用されます。

DNAを構成するA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)を、鋳型となるDNAの塩基配列に合わせてつなげ、新しいDNA鎖を作ります。

ただし、DNAポリメラーゼは何もないところから突然DNAを作り始めることはできません。

PCRでは、DNA合成を開始するためにプライマーが必要です。

プライマーが鋳型DNAに結合すると、DNAポリメラーゼはプライマーの3’末端を起点として、新しいDNA鎖を伸ばしていきます。

つまり、PCRでは大まかにいうと、

プライマーが「ここからDNAを作ってください」という開始地点を決め、DNAポリメラーゼが実際にDNAを合成する

という役割分担になっています。

👉プライマーの超入門|Reverse primerと逆相補配列をやさしく解説

DNAポリメラーゼはどこにある?

DNAポリメラーゼは、もともと生物がDNAを複製したり修復したりするために持っている酵素です。

PCRのためだけに存在する酵素ではなく、私たちヒトの細胞の中でも働いています。

たとえば、細胞が分裂するときには、1個の細胞が2個になる前にDNAをコピーする必要があります。このとき、核の中ではDNAポリメラーゼα・δ・εなどが働き、新しいDNAを合成します。

また、DNAが傷ついたときにはDNAポリメラーゼβなどがDNA修復に関わります。

さらに、ミトコンドリアには核DNAとは別に独自のDNAがあり、DNAポリメラーゼγがミトコンドリアDNAの複製や修復を担っています。

このように、ヒトの細胞内だけでも複数種類のDNAポリメラーゼがあり、それぞれ異なる役割を持っています。

下記は、ヒトが持つ代表的なDNAポリメラーゼとその役割です。

すべて覚える必要はありませんが、DNAポリメラーゼにはさまざまな種類があり、それぞれ役割が違うことが分かります。

じゃあ、Taq DNAポリメラーゼとは?

Taq DNAポリメラーゼも、DNAを合成する酵素です。

数あるDNAポリメラーゼの中で、Taq DNAポリメラーゼにはどのような特徴があるのでしょうか?

Taq DNAポリメラーゼの大きな特徴は、高温に強いことです。

Taq DNAポリメラーゼは、好熱菌である

  • Thermus aquaticus(サーマス・アクアティカス)

に由来するDNAポリメラーゼです。

この細菌は高温環境に生息しており、そのDNAポリメラーゼも熱に強い性質を持っています。

PCRでは、二本鎖DNAを一本鎖にするために約95℃まで温度を上げます。そのため、PCRに使用するDNAポリメラーゼには、この高温に耐えられる性質が必要です。

そこで人間が、

「DNAポリメラーゼを使えばDNAをコピーできる」
「でもPCRでは約95℃まで温度を上げる」
「それなら、熱に強い微生物のDNAポリメラーゼを使えばいいのでは?」

と利用した代表例が、Taq DNAポリメラーゼです。

つまり、

ヒトのDNAポリメラーゼ → 私たちの細胞内でDNAの複製や修復に関わる
Taq DNAポリメラーゼ → 好熱菌 Thermus aquaticus に由来する、熱に強いDNAポリメラーゼ
PCR → Taqなどの耐熱性DNAポリメラーゼを利用して、試験管内でDNAを増幅する

という関係です。

PCRは、生物が持つDNA合成の仕組みを人工的に利用した技術ともいえます。

なぜPCRでは熱に強いDNAポリメラーゼが必要なの?

PCRでは、変性 → アニーリング → 伸長という3つのステップを繰り返してDNAを増やします。

ここで問題になるのが、変性するときの約95℃という高温です。

一般的なタンパク質は高温になると立体構造が崩れ、正常に働けなくなることがあります。酵素もタンパク質なので、高温によって活性を失うものがあります。

もしPCRの高温処理のたびにDNAポリメラーゼが働かなくなってしまえば、PCRを繰り返すことができません。

そこで活躍するのが、耐熱性を持つTaq DNAポリメラーゼです。

Taq DNAポリメラーゼはPCRで繰り返される高温処理にも耐えられるため、反応液に最初から加えておき、そのまま温度変化を繰り返してDNAを増幅できます。

これが、Taq DNAポリメラーゼがPCRで広く使われる理由です。

初期のPCRでは、加熱によって失活した酵素をサイクルごとに追加する必要がありましたが、耐熱性のTaq DNAポリメラーゼが利用されるようになったことで、連続した温度サイクルによるPCRが可能になりました。

👉PCRはどうやってDNAを増やすのか?変性・アニーリング・伸長反応をやさしく解説

DNAポリメラーゼにはさまざまな種類がある

「DNAポリメラーゼ」は、DNAを合成する能力を持つ酵素の総称です。

DNAポリメラーゼにはさまざまな種類があり、同じ生物の中にも複数種類のDNAポリメラーゼが存在し、それぞれ異なる役割を担っています。

実験に用いられるDNAポリメラーゼも1種類ではありません。

それぞれのDNAポリメラーゼは由来や性質が異なり、DNAを合成するという基本的な働きに加えて、異なる特徴を持っています。

たとえるなら、全員「DNAのコピー係」だけど、持っている追加スキルが違う感じです。

DNAポリメラーゼによって、

  • DNA合成の正確性
  • DNAを伸長する速さ
  • 増幅できるDNAの長さ
  • 熱に対する安定性
  • 校正機能の有無

などに違いがあります。

そのため、PCRでは実験の目的に合わせてDNAポリメラーゼを選ぶ必要があります。

PCRなどの実験で使用される代表的なDNAポリメラーゼと、その特徴を下記にまとめました。

TaqManプローブの「Taq」とTaq DNAポリメラーゼは関係ある?

リアルタイムPCRやddPCRについて調べていると、「TaqManプローブ」という名前もよく目にします。

実は、TaqMan法の仕組みには、Taq DNAポリメラーゼが持つ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性が関係しています。

5’→3’エキソヌクレアーゼ活性とは、DNAやRNAなどの核酸を5’→3’方向に分解する活性です。

TaqMan法では、この性質を利用して、鋳型DNAに結合したプローブを切断します。

プローブが切断されると、レポーター色素とクエンチャーが離れ、蛍光を検出できるようになります。

つまり、TaqMan法では、Taq DNAポリメラーゼが持つ**「DNAを合成する働き」だけでなく、「プローブを切断する働き」も利用している**ということです。

詳しい仕組みについては、こちらの記事で解説しています。
👉ddPCRで使われる蛍光プローブとは?蛍光が出る仕組みをわかりやすく解説

酵素はデリケート?

遺伝子実験では、試薬を氷上で扱ったり、「酵素は室温に出しっぱなしにしないように」と教わったりすることがあります。

DNAポリメラーゼなどの酵素試薬は、製品ごとに推奨される保存温度や取り扱い方法が決められています。使用時に氷上で扱うものも多いため、基本的にはメーカーの説明書に従って取り扱います。

また、DNAポリメラーゼを単体で加える場合は、1 µL程度など添加量が少なく、きちんと入ったか分かりづらいことがあります。

酵素溶液にはグリセロールが含まれていることがあり、添加した際に液の揺らぎが見えることもあります。私も実験を教わった際に、「添加したときの揺らぎを確認するように」と言われたことがあり、添加量が少なく目視では分かりづらいときに、きちんと添加できたかを確認する一つの目安としています。

ただし、見え方は溶液や条件によって異なるため、あくまで確認方法の一つとして活用しています。

DNAポリメラーゼの選び方

ここまで説明したように、DNAポリメラーゼにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が異なります。

そのため、何を目的としてPCRを行うのかによって、使用するDNAポリメラーゼを選ぶ必要があります。

たとえば、一般的なPCRではTaq DNAポリメラーゼが広く使われています。

一方、DNA配列をできるだけ正確に増幅したい場合には、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性による校正機能を持つ、KODやPfu系などの高忠実度DNAポリメラーゼが選ばれることがあります。

また、DNAポリメラーゼを単独の酵素として反応液に加える場合もあれば、Master MixやSupermixにあらかじめ含まれている場合もあります。

実際に使用する際には、増幅するDNAの長さや正確性、使用するPCR法などを考慮し、実験のプロトコルや使用する試薬の説明書を確認することが大切です。

まとめ

DNAポリメラーゼは、DNAを合成する酵素の総称です。

その中でも、好熱菌 Thermus aquaticus に由来し、高温に強いDNAポリメラーゼがTaq DNAポリメラーゼです。

PCRでは、DNAを一本鎖にする変性の過程で約95℃まで温度を上げます。そのため、繰り返しの高温処理に耐えられるDNAポリメラーゼが必要です。

そこで、耐熱性を持つTaq DNAポリメラーゼがPCRに広く利用されてきました。

ただし、PCRで使われるDNAポリメラーゼはTaqだけではありません。

DNA合成の正確性や増幅速度など、それぞれ異なる特徴を持っているため、実験の目的に合わせてさまざまなDNAポリメラーゼが使い分けられています。

また、TaqMan法では、Taq DNAポリメラーゼが持つ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を利用してプローブを切断し、蛍光を検出します。

つまり、

DNAポリメラーゼ=DNAを合成する酵素の総称
Taq DNAポリメラーゼ=DNAポリメラーゼの一種で、高温に強い

まずはこの関係を押さえておくと、PCRだけでなく、リアルタイムPCRやddPCR、TaqManプローブの仕組みもつながって理解しやすくなります。

タイトルとURLをコピーしました