PCRを行うためには、増幅したいDNA領域に対応するプライマーを設計する必要があります。
しかし、プライマーは単に目的のDNA配列に結合すればよいというものではありません。
塩基配列や融解温度(Tm値)、GC含量、目的外の領域に結合する可能性など、複数の条件を考慮する必要があります。
こうしたプライマー設計を支援するツールの一つが、NCBIのPrimer-BLASTです。
Primer-BLASTを利用すると、目的のDNA配列からプライマー候補を作成し、ほかのゲノム領域にも結合する可能性がないかを調べることができます。
今回は、ヒトTP53遺伝子を例に、Primer-BLASTを使ったPCRプライマー設計の基本的な手順を解説します。
Primer-BLASTとは?
Primer-BLASTは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)が提供する、PCRプライマー設計用のWebツールです。
プライマー設計プログラムであるPrimer3と、配列類似性検索を行うBLASTを組み合わせています。
主な機能は次のとおりです。
- 入力したDNA配列からプライマー候補を設計する
- PCR産物の長さを指定する
- プライマーのTm値やGC含量を確認する
- プライマー同士の相補性を評価する
- 目的外のDNA領域が増幅される可能性を調べる
一般的なプライマー設計では、目的配列に結合することだけでなく、目的以外の領域を増幅しにくいこと(特異性)も重要です。
Primer-BLASTでは、プライマーの設計と特異性の確認を一つのツールで行うことができます。
プライマー設計に必要なDNA配列を準備する
今回は、ヒトTP53遺伝子の特定の塩基位置を含むDNA領域をPCRで増幅するためのプライマーを設計します。
TP53は、細胞周期の制御やDNA損傷応答などに関与する遺伝子です。
今回は、TP53遺伝子の c.574付近をSangerシーケンスで確認する ことを想定します。
① 増幅したい塩基位置を確認する
まず、目的とする塩基がゲノム上のどこに位置するのかを確認します。
今回使用する参照配列は、以下のとおりです。
- 参照ゲノム:GRCh38
- 染色体:17番染色体
- ゲノムアクセッション番号:NC_000017.11
- 参照転写産物:NM_000546.6
- 対象位置:TP53 c.574
- 対象エクソン:エクソン6※
※エクソン番号の数え方については、こちらの記事で解説しています。
👉 変異は何番exonにある?NCBIでexonを調べる方法
c.574とは、TP53のコード領域(CDS)の開始位置から574番目の塩基を意味します。
ただし、c.表記とゲノム上の塩基位置は同じではありません。
そのため、参照転写産物とゲノム配列を対応させ、目的の塩基がどこに存在するかを確認する必要があります。
今回のTP53 c.574は、GRCh38の17番染色体上の 7,674,957番 に相当します。
なお、c.表記からゲノム上の位置を調べる方法や、NCBIを使ったDNA配列の取得手順については、以下の記事で詳しく解説しています。
👉遺伝子変異の周辺配列を取得する方法|NCBIでゲノム座標を調べてFASTAを取得する

② 目的の塩基を含むDNA配列を取得する
次に、目的の塩基を中心として、その前後のDNA配列を取得します。
今回はSangerシーケンスによる塩基配列の確認を想定し、目的の塩基の前後200 bp、合計401 bpのゲノム配列を使用します。
取得する範囲は以下のとおりです。
- 染色体:17番染色体
- 参照配列:NC_000017.11
- 開始位置:7,674,757
- 終了位置:7,675,157
- 配列長:401 bp

この範囲には、目的とするTP53 c.574( 7,674,957番)が含まれています。
なお、401 bpは今回の設計例として設定した長さであり、すべてのPCRで401 bpの配列を使用する必要があるわけではありません。
実際には、解析目的や必要なPCR産物の長さに応じて、取得する配列の範囲を調整します。
次に、このDNA配列をPrimer-BLASTに入力してプライマーを設計します。
今回はあらかじめ取得した401 bpのDNA配列を使用します。
Primer-BLASTにアクセスする
まず、NCBIのPrimer-BLASTを開きます。
画面上部には、次の2つのタブがあります。
- Primers for target on one template
- Primers common for a group of sequences
今回は1つのDNA配列に対してプライマーを設計するため、Primers for target on one templateを使用します。
複数の配列に共通するプライマーを設計する場合は、もう一方のタブを使用します。
PCR TemplateにDNA配列を入力する
最初に設定するのは、PCR Templateです。
ここには、プライマー設計の対象となるDNA配列を入力します。
今回は、あらかじめ取得したTP53の目的位置を含む401 bpのFASTA配列を、ヘッダー行も含めて貼り付けます。

配列全体を対象としてプライマーを設計するため、右側のRange欄は空欄のままにします。
なお、Primer-BLASTではRefSeqアクセッション番号を用いた入力も可能です。NCBIは、テンプレートの同定や特異性チェックの観点から、可能な場合はアクセッション番号の使用を推奨しています。
今回は、取得したFASTA配列を使って設計する手順を紹介します。
Primer Parametersを設定する
続いて、Primer Parametersを設定します。
ここでは、PCR産物の長さやプライマーのTm値などを指定できます。
1. PCR product size
PCR product sizeは、PCRで増幅したいDNA断片の長さを指定する項目です。

ここで注意したいのは、先ほどPCR Templateに入力した401 bpのFASTA配列とは、意味が異なるという点です。
- PCR Template(401 bp):プライマーを設計する対象となるDNA配列
- PCR product size(350〜400 bp):実際にPCRで増幅したいDNA断片の長さ
つまり、今回は「401 bpのDNA配列の中からプライマーを探し、350〜400 bpのPCR産物が得られるように設計する」という意味になります。
今回は、PCR product sizeを以下のように設定します。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| Min | 350 |
| Max | 400 |
この設定では、350〜400 bpのPCR産物が得られるようにプライマー候補を探索します。
ただし、PCR産物の長さを指定するだけでは、目的の変異位置が必ず増幅範囲に含まれるとは限りません。
今回はSangerシーケンスで変異を確認するため、検索結果でプライマーの結合位置を確認し、目的塩基がPCR産物に含まれていること、さらにプライマーから十分に離れていることを確認します。
なぜPCR産物の長さを指定するのか?
PCR産物は、短ければ短いほどよいわけでも、長ければ長いほどよいわけでもありません。
短いDNA断片は一般に増幅しやすい一方、非特異的な増幅産物と電気泳動で区別しにくい場合があります。
反対に、長いDNA断片は、DNAの分解や損傷の影響を受けやすく、増幅効率が低下することがあります。
そのため、PCR産物の長さは、増幅効率やDNAの品質、電気泳動での確認のしやすさ、実験目的などを考慮して設定します。
なお、PCRの特異性は産物の長さだけで決まるものではなく、プライマーの配列や結合位置にも大きく左右されます。
2. # of primers to return
この項目では、検索結果として返すプライマーペアの候補数を指定します。
#はNumber(数)の意味です。
今回は初期設定の10組を使用します。
候補数を増やすと、より多くのプライマーペアを比較できますが、それだけで特異性が高くなるわけではありません。
まずは10組で検索し、結果を確認しましょう。
3. Primer melting temperatures(Tm)
Tm(融解温度)は、プライマーと相補的なDNA配列が形成する二本鎖の安定性を表す指標です。
Primer-BLASTでは、次の3つの値を指定できます。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| Min(下限値) | 57℃ |
| Opt(目標値) | 60℃ |
| Max(上限値) | 63℃ |
今回は初期設定のまま使用します。
Forward primerとReverse primerのTm値は、一般的に近い方がよいとされています。
Tmの詳しい意味や、2本のプライマーのTm値をそろえる理由については、こちらの記事で解説しています。
👉プライマー設計で見るべき基本項目|長さ・Tm値・GC含量を初心者向けに解説
Primer Pair Specificity Checking Parametersを設定する
続いて、プライマーの特異性を確認するための設定を行います。
Primer-BLASTでは、設計したプライマーペアが目的以外の領域も増幅する可能性があるかを調べることができます。

今回は、以下のように設定します。
| 項目 | 設定値 | 説明 |
|---|---|---|
| Specificity check | 有効(チェックを入れる) | 目的以外の領域を増幅する可能性がないか確認する |
| Search mode | Automatic | 検索方法を自動で選択する |
| Database | RefSeq reference genomes | NCBIの参照ゲノム配列を使用して特異性を確認する |
| Organism | Homo sapiens(taxid:9606) | 検索対象をヒトに限定する |
PCR Templateに目的のDNA配列を入力するだけでは、ゲノム上のほかの領域も増幅される可能性がないかは分かりません。
そのため、今回は特異性チェックを有効にし、ヒトの参照ゲノムを対象として検索します。
Get Primersをクリックする
必要な設定が完了したら、画面下部の Get Primers をクリックします。

Primer-BLASTによるプライマー設計と特異性の検索が開始されます。
検索には時間がかかる場合があります。
検索対象の配列を確認する
Get Primersをクリックすると、入力したDNA配列と類似する参照配列が表示される場合があります。
今回の検索では、ヒト17番染色体のTP53領域が表示されました。

Identityが100%、Alignment lengthが401となっており、入力した401 bpのDNA配列が参照ゲノムの該当領域と一致していることが分かります。
Identityは、入力したDNA配列と参照配列の一致率を表します。なお、変異を含む配列や、類似した別のゲノム領域が検出された場合などは、Identityが100%未満になることがあります。
今回は、このTP53領域が目的の増幅対象なので、NC_000017.11の左側にチェックを入れ、Submitをクリックします。
その後、プライマー設計と特異性チェックの結果を確認します。
検索結果を確認する
今回の検索では、次のメッセージが表示されました。
Primer pairs are specific to input template as no other targets were found in selected database.

これは、選択したデータベースと検索条件では、目的以外の増幅対象が見つからなかったことを意味します。
ただし、実際のPCRで必ず目的産物だけが増幅されることを保証するものではありません。
PCRの結果は、鋳型DNAの状態、プライマー濃度、アニーリング温度、反応条件などによって変わります。
Graphical view of primer pairs
検索結果には、プライマーの位置を図で確認できるGraphical viewが表示されます。

青い矢印はForward primerとReverse primerの位置と向きを示し、2本のプライマーを結ぶ横線はPCR産物の範囲を示しています。
今回の検索では、354 bpのPCR産物を増幅するプライマーペアが1組得られました。

目的の変異位置がPCR産物に含まれているか確認しましょう。
今回は、TP53の目的塩基を中心に、前後200 bpずつ取得した401 bpのFASTA配列を使用しています。

そのため、目的塩基はFASTA配列の先頭から数えて201番目に位置します。
200 + 1 = 201番目
ここでいう201番目は、染色体上のゲノム座標ではなく、入力したFASTA配列内での位置です。
Graphical viewでは、201番目の塩基がForward primerとReverse primerの間に含まれていることを確認します。
Detailed primer reports
Detailed primer reportsには、各プライマーペアの詳細情報が表示されます。

Detailed primer reportsでは、Forward primerとReverse primerの塩基配列も確認できます。プライマーを注文する際は、それぞれの5′→3′方向の配列を使用します。
今回得られたPrimer pair 1の結果は次のとおりです。
| 項目 | Forward primer | Reverse primer |
|---|---|---|
| Length | 25 bp | 21 bp |
| Tm | 62.61℃ | 60.94℃ |
| GC% | 48.00% | 57.14% |
| Self complementarity | 3.00 | 4.00 |
| Self 3′ complementarity | 1.00 | 0.00 |
PCR product length:354 bp
この結果から、354 bpのPCR産物を増幅するプライマーペアが設計されたことが分かります。
Tm差は1.67℃で、両プライマーのGC含量も一般的な設計の目安とされる40〜60%の範囲内に収まっています。
Self complementarityは、プライマー自身や同じプライマー同士が相補的に結合する可能性を評価する指標です。
Self 3′ complementarityは、特に3′末端付近の相補性を評価する指標で、値が高い場合はプライマーダイマーの形成に注意が必要です。
今回の候補では、Self 3′ complementarityはForwardで1.00、Reverseで0.00となっています。
ただし、これらの数値だけでプライマーダイマーが形成されないと断定することはできません。
PCR産物の位置を確認する
PCR産物の開始位置と終了位置は、設計されたForward primerとReverse primerの結合位置によって決まります。
そのため、入力したFASTA配列の範囲と、実際に増幅されるPCR産物の範囲は必ずしも一致しません。
今回のPrimer pair 1では、次の領域が増幅されると予測されています。
NC_000017.11:7,674,757〜7,675,110
PCR産物長は354 bpです。
目的の塩基位置がこの範囲に含まれているかを確認します。
今回の目的塩基は7,674,957番に位置しています。
PCR産物の開始位置から数えると201番目にあたり、終了位置までには153 bpあります。

つまり、目的塩基はPCR産物の両端から離れた位置に含まれています。
Sangerシーケンスでは、確認したい塩基がシーケンスプライマーに近すぎると、良好な波形を得られない場合があります。
今回の候補は、目的塩基がPCR産物の内部に位置しており、Sangerシーケンス用として検討できる設計です。
ただし、実際の読み取り品質は、使用するシーケンスプライマーや反応条件などによって異なります。
Primer-BLASTで設計したプライマーはそのまま使える?
Primer-BLASTで特異性が良好と判定されても、そのプライマーが必ず実験で良好な結果を示すとは限りません。
実際に使用する場合は、PCRを行い、アガロースゲル電気泳動などで目的サイズの産物が得られているか、目的外増幅が疑われるバンドがないかを確認します。
ただし、目的サイズのバンドが1本だけ確認できても、同じような長さの目的外産物が混在している可能性はあります。
Sangerシーケンスでは、目的外産物が混入すると波形が重なり、配列を正確に判定しにくくなる場合があります。
また、一般的なPCR精製カラムでは、異なるPCR産物をサイズごとに分離することはできません。
そのため、PCR産物を精製する前に、電気泳動などで増幅結果を確認することが重要です。
Primer-BLASTは実験前にプライマー候補を絞り込むためのツールであり、最終的な性能は実験によって確認する必要があります。
まとめ
今回は、NCBIのPrimer-BLASTを使って、TP53遺伝子の特定領域を増幅するPCRプライマーを設計しました。
基本的な流れは次のとおりです。
- 目的のDNA配列を取得する
- Primer-BLASTのPCR Templateに配列を入力する
- PCR product sizeとTmを設定する
- 特異性チェックを有効にし、データベースと生物種を指定する
- Get Primersで候補を検索する
- 検索結果からプライマーの配列、Tm、GC含量、特異性を確認する
- PCR産物が目的位置を含むかを確認する
今回の検索では、401 bpの鋳型配列から354 bpのPCR産物を増幅するプライマーペアが得られました。
また、選択したデータベースと検索条件では、目的外の増幅対象は見つかりませんでした。
なお、Primer-BLASTでは、目的外増幅の可能性がある場合に特異性の警告が表示されたり、複数のプライマー候補が得られたりすることがあります。
特異性の警告の意味や対処方法、複数のプライマー候補からの選び方については、別の記事で詳しく解説します。
