NCBIのPrimer-BLASTでは、PCRプライマーを設計した際に、特異性に関する警告が表示されることがあります。
プライマーのTm値やGC含量に問題がなくても、目的以外のDNA領域が増幅される可能性があるためです。
では、警告が表示された場合、どこを確認すればよいのでしょうか。
今回は、ヒトTP53遺伝子を例に、Primer-BLASTで特異性の警告が表示された場合の見方と、検索条件を変更して再検索する方法を解説します。
なお、Primer-BLASTの基本的な操作方法については、以下の記事で紹介しています。
👉 Primer-BLASTの使い方|PCRプライマーを設計する基本手順を初心者向けに解説
Primer-BLASTで特異性の警告が表示された
今回は、TP53遺伝子の特定の塩基位置を含む401 bpのDNA配列を使用しました。
Primer-BLASTでは、次の条件を設定しています。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| PCR Template | TP53の401 bpのFASTA配列 |
| PCR product size | 200〜400 bp |
| # of primers to return | 10 |
| Primer Tm | 57〜63℃(Opt 60℃) |
| Specificity check | 有効 |
| Database | RefSeq reference genomes |
| Organism | Homo sapiens(taxid:9606) |
この条件で検索したところ、10組のプライマーペアが表示され、画面上部に次のメッセージが現れました。
Primers may not be specific to the input PCR template as targets were found in selected database.

これは、選択したデータベース内で目的外の増幅対象が見つかったため、設計されたプライマーの特異性が十分でない可能性があるという警告です。
ただし、警告が表示されたからといって、すべての候補が実験で使用できないと断定されるわけではありません。
まずは、どのような目的外増幅が予測されているのかを確認します。
Detailed primer reportsで目的外増幅を確認する
Primer-BLASTの検索結果にあるDetailed primer reportsでは、各プライマーペアの詳細を確認できます。
今回のPrimer pair 1には、次の2つの項目が表示されました。
Products on intended targets
これは、目的とするDNA領域から予測されるPCR産物を示しています。
今回のPrimer pair 1では、ヒト17番染色体のTP53領域に対して、316 bpのPCR産物が予測されました。

Products on potentially unintended templates
こちらは、目的以外のDNA領域から増幅される可能性があるPCR産物を示しています。
今回のPrimer pair 1では、17番染色体以外にも複数の増幅候補が表示されました。

検索結果を整理すると、次のようになります。
| 染色体 | 予測されたPCR産物長 |
|---|---|
| 2番染色体 | 3,295 bp |
| 4番染色体 | 3,143 bp |
| 5番染色体 | 467 bp |
| 7番染色体 | 525 bp、3,986 bp |
| 9番染色体 | 2,685 bp |
| 10番染色体 | 900 bp |
| 12番染色体 | 3,036 bp |
| 13番染色体 | 789 bp |
| 16番染色体 | 2,126 bp |
今回の検索では、9本の別の染色体に、合計10個の目的外増幅候補が見つかりました。
これらは、Primer-BLASTが配列の相補性や検索条件に基づいて予測した結果です。実際のPCRですべてが増幅されるという意味ではありません。
なぜ目的外のDNA領域が増幅されるのか?
PCRでは、通常、Forward primerとReverse primerがそれぞれの結合位置に結合し、その間のDNA領域が増幅されます。
しかし、プライマーの配列と似たDNA配列がゲノム上の別の場所にも存在すると、目的以外の領域に結合する可能性があります。
今回の検索結果では、7番染色体上で、同じForward primerが異なる2か所に結合し、3,986 bpのPCR産物が生じる可能性も示されました。
Detailed primer reportsを見ると、通常のForward primerとReverse primerの組み合わせではなく、両方とも「Forward primer 1」と表示されています。
しかも、Templateの座標を見ると、一方は増加方向、もう一方は減少方向になっています。
これは、同じForward primerがDNAの異なる鎖に、互いに向かい合う向きで結合し、その間の領域が増幅される可能性を示しています。

つまり、目的外増幅は、必ずしもForward primerとReverse primerが1本ずつ結合する場合だけに起こるわけではありません。
なお、Detailed primer reportsには、プライマー配列とゲノム配列の対応関係も表示されます。
一致する塩基は「.」、一致しない塩基は塩基文字で示されており、目的外の領域にどの程度似た配列が存在するのかを確認できます。
目的外増幅があると何が問題なのか?
目的外のDNA領域が増幅されると、PCRの結果に影響する場合があります。
例えば、アガロースゲル電気泳動で目的産物以外のバンドが現れたり、目的産物の増幅効率が低下したりする可能性があります。
今回の目的産物は316 bpですが、目的外増幅候補には467 bpや525 bpなども含まれていました。
これらが実際に増幅された場合、電気泳動で目的産物とは異なるバンドとして確認できる可能性があります。
一方、目的産物と近い長さの目的外産物が混在した場合、電気泳動だけでは区別しにくいこともあります。
特にSangerシーケンスでは、異なるDNA配列を持つPCR産物が混在すると、波形が重なり、目的の塩基を正確に判定しにくくなる場合があります。
そのため、Sangerシーケンス用のプライマーを設計する場合は、目的外増幅の可能性をできるだけ低くすることが重要です。
ただし、Primer-BLASTに表示された目的外増幅候補が、すべて実験上の問題になるとは限りません。
例えば、目的外産物が非常に長い場合、PCR条件によっては実際には増幅されにくいことがあります。また、目的外候補が実験で使用するDNAに存在するかどうかも重要です。
そのため、警告が表示された場合は、まず目的外産物の位置や長さ、プライマーとの一致度を確認し、実験への影響を判断することが大切です。
警告が表示された場合は条件を変更して再検索する
目的外増幅の候補を確認し、実験に影響する可能性がある場合は、プライマーの設計条件を変更して再検索する方法があります。
例えば、PCR product sizeを変更すると、異なるプライマーペアが得られる場合があります。
今回は、その一例としてPCR product sizeを変更した結果を比較します。
今回の検索では、PCR product sizeを200〜400 bpに設定したところ、10組の候補が表示され、特異性の警告が出ました。
そこで、ほかの主な条件は変更せず、PCR product sizeを次のように変更して再検索しました。
| 項目 | 最初の検索 | 再検索 |
|---|---|---|
| PCR product size | 200〜400 bp | 350〜400 bp |
| 表示された候補 | 10組 | 1組 |
| 目的外増幅の検索結果 | 警告あり | 目的外の増幅対象なし |
再検索では、354 bpのPCR産物を増幅するプライマーペアが1組得られました。

また、次のメッセージが表示されました。
Primer pairs are specific to input template as no other targets were found in selected database.

これは、選択したデータベースと検索条件では、目的外の増幅対象が見つからなかったことを意味します。
今回の例では、PCR product sizeの範囲を変更することで、異なるプライマー候補が得られ、特異性チェックの結果も変わりました。
ただし、PCR産物を長くすれば必ず特異性が高くなるわけではありません。
PCR product sizeを変更すると、設計対象となるプライマーの組み合わせが変わります。その結果、目的外増幅が予測されにくい候補が得られる場合があります。
警告が表示された場合は、まずDetailed primer reportsで内容を確認し、必要に応じてPCR産物長やプライマー設計条件を見直して再検索します。
なお、PCR product size以外にも、使用するデータベースやプライマーの設計条件を見直す方法があります。
まとめ
Primer-BLASTで特異性の警告が表示された場合は、次の点を確認しましょう。
- 警告メッセージの内容を確認する
- Detailed primer reportsを開く
- Products on potentially unintended templatesで目的外増幅の候補を確認する
- 必要に応じてPCR product sizeなどの条件を変更して再検索する
- 特異性が良好な候補が得られた場合も、実験で増幅結果を確認する
今回のTP53の例では、PCR product sizeを200〜400 bpから350〜400 bpに変更することで、目的外の増幅対象が見つからないプライマーペアが得られました。
Primer-BLASTの特異性チェックは、実験前に目的外増幅の可能性を調べるためのものです。
警告が表示された場合は、すぐに候補を採用するのではなく、目的外増幅の内容を確認し、設計条件を見直すことが大切です。
