PCRでは、基本的にForward primerとReverse primerを組み合わせて使います。
では、一度にいくつものDNA配列を増やしたい場合はどうするのでしょうか?
実は、複数の標的配列を1つの反応で同時に増幅するため、複数のプライマーを組み合わせて使用する方法をマルチプレックスPCRといいます。一般的には、複数のプライマー対を使用します。
下図では、4種類の動物の遺伝子を例に、複数の標的を同時に検出するイメージを示しています。



ここで1つ、困ったことが起こります。
プライマーを何種類も混ぜたら、それぞれの濃度はどうなるのでしょうか?
この記事では、プライマーを混合したときの濃度の考え方から、原液の希釈、異なる比率で混合する場合の計算方法まで、具体例を使って解説します。
20 µMのプライマーを等量混合すると何µM?
たとえば、ゾウとキリンを識別するためのReverse primer(リバースプライマー)があるとします。
- ゾウのReverse primer:20 µM
- キリンのReverse primer:20 µM
これを、それぞれ50 µLずつ混合します。
では、混合後のそれぞれのprimer濃度はいくつになるでしょうか?
答えは、それぞれ10 µMです。
まず、ゾウのReverse primerについて考えてみましょう。
濃度計算の基本式
C₁V₁=C₂V₂
を使います。
- 混合前の濃度(C₁):20 µM
- 使用する量(V₁):50 µL
- 混合後の全体積(V₂):100 µL
- 混合後の濃度(C₂):?
なので、
20 µM × 50 µL = C₂ × 100 µL
C₂=10 µM
となります。
ここでポイントになるのが、V₂を50 µLではなく100 µLとすることです。
ゾウのReverse primer 50 µLに、キリンのReverse primer溶液50 µLを加えているため、混合後の全体積は100 µLになります。
キリンのReverse primerについても同様に計算すると、10 µMです。
したがって、できあがったprimer mixは、
ゾウのReverse primer:10 µM
キリンのReverse primer:10 µM
全量:100 µL
となります。

なぜ20 µMが10 µMになるの?
計算式だけでは少し分かりにくいので、もう少し簡単に考えてみましょう。
2種類のprimerを混合すると、それぞれのprimerは相方のprimer溶液を加えた分だけ希釈されます。
今回の場合、
ゾウ 50 µL + キリン 50 µL = 全量100 µL
です。
ゾウのReverse primerそのものの量は変わっていませんが、キリンのprimer溶液50 µLを加えたことで、ゾウのReverse primerが存在する液量は50 µLから100 µLへと2倍になります。
液量が2倍になったため、濃度は半分になります。
20 µM → 10 µM
キリンのReverse primerについても同じです。
「20 µM+20 µMだから40 µM」と考えたくなりますが、ゾウとキリンのReverse primerは異なる配列をもつ別々の分子です。
そのため、primer mixでは、それぞれのprimerについて個別に濃度を考えることがポイントです。
PCR組成表でも同じ考え方が出てきます。
👉PCR反応液の組成表とは?各試薬の添加量を計算する方法を初心者向けに解説
「10 µM primer mix」は各10 µM?合計10 µM?
ここで注意したいのが、primer mixの濃度表記です。
例えば、
「10 µM primer mix」
と書かれていても、それだけでは、
- Forward primer:10 µM、Reverse primer:10 µM(各10 µM)
- Forward primerとReverse primerを合わせてtotal 10 µM
のどちらを意味しているのか分からない場合があります。
そのため、プロトコルやレシピでは、
10 µM each(各10 µM)なのか、total 10 µMなのか
を確認することが大切です。
自分でprimer mixを作製するときも、「10 µM primer mix」とだけ記録するのではなく、
Forward primer:10 µM / Reverse primer:10 µM
など、それぞれの濃度が分かるように記録しておくと安心です。
プライマー原液を使用濃度に希釈する
プライマーは、高濃度の原液(stock solution)から、実験で使いやすい濃度の溶液(working solution)を作って使用することがあります。
例えば、100 µMのprimer 原液から20 µMのworking solutionを作る場合、
100 µM ÷ 20 µM=5
なので、5倍希釈すればOKです。
ここでいう5倍希釈とは、希釈後の全液量を原液量の5倍にするという意味です。
例えば、primer 原液 20 µLを使用するなら、
20 µL × 5=100 µL
が希釈後の全量です。
したがって、
100 µL-20 µL=80 µL
の希釈液を加えます。
- 100 µM primer 原液:20 µL
- 希釈液:80 µL
- 合計:100 µL
- → 20 µM working solution
原液の残量から考えることもできる
私は、手元にある原液量から希釈液量を計算することもあります。
例えば、100 µMのprimer 原液が7 µL残っていて、すべて20 µMにしたい場合も5倍希釈なので、
7 µL × 5=35 µL
最終液量を35 µLにすればよいことが分かります。
したがって、
35 µL-7 µL=28 µL
の希釈液を加えれば、20 µMになります。
分取した原液が残りわずかな場合など、手元にある溶液を使い切りたいときには、この考え方が便利です。
もちろん、前章と同じようにC₁V₁=C₂V₂を使って計算しても結果は同じです。
どちらの方法でも、自分が分かりやすい方で計算すればOKです。
混合するプライマーが増えると濃度はどうなる?
ここまでは、20 µMのプライマーを2種類混合する場合を考えてきました。
では、混合するプライマーが3種類、4種類と増えたらどうなるのでしょうか?
同じ濃度のプライマーを等量ずつ混合する場合、混合する種類が増えるほど、それぞれのプライマー濃度は低くなります。
例えば、20 µMのプライマーを等量ずつ混合すると、
| 混合するプライマー数 | 全液量に占める各プライマーの割合 | 混合後の各プライマー濃度 |
|---|---|---|
| 2種類 | 1/2 | 10 µM |
| 3種類 | 1/3 | 約6.7 µM |
| 4種類 | 1/4 | 5 µM |
となります。
つまり、同じ濃度のプライマーを等量混合する場合は、
混合前の濃度 ÷ 混合するプライマーの種類数
と考えると簡単に求められます。
ただし、これはすべてのプライマーが同じ濃度で、かつ等量ずつ混合する場合の考え方です。
混合する割合が異なる場合は、それぞれのプライマーについて個別に計算する必要があります。
また、混合後のprimer mixをPCR反応液に加えると、各プライマーはさらに希釈されます。
そのため、primer mix中の濃度だけでなく、最終的にPCR反応液中で各プライマーを何µMにしたいのか(終濃度)まで考えることが大切です。
複数のプライマーをそれぞれ違う濃度にしたい場合
ここまでは、同じ濃度のプライマーを等量混合する場合について考えてきました。
では、primer mix中の各プライマーを、それぞれ違う濃度にしたい場合はどうすればよいのでしょうか?
例えば、100 µMの原液から、次のようなprimer mixを100 µL作りたいとします。
- ゾウのReverse primer:10 µM
- キリンのReverse primer:20 µM
- ヒツジのReverse primer:30 µM
この場合も、それぞれのプライマーについて個別に考えます。
ゾウのReverse primerを10 µMにしたい場合は、
100 µM × V₁ = 10 µM × 100 µL
なので、
V₁=10 µL
です。
同様に計算すると、
- ゾウ:10 µL
- キリン:20 µL
- ヒツジ:30 µL
となります。
3種類のプライマーを合わせると、
10+20+30=60 µL
です。
最終的に100 µLのprimer mixを作りたいので、
100-60=40 µL
の希釈液を加えます。
| 添加するもの | 原液の添加量 | primer mix中の濃度 |
|---|---|---|
| ゾウ 100 µM | 10 µL | 10 µM |
| キリン 100 µM | 20 µL | 20 µM |
| ヒツジ 100 µM | 30 µL | 30 µM |
| 希釈液 | 40 µL | ― |
| 合計 | 100 µL | ― |
これで、
ゾウ:10 µM + キリン:20 µM + ヒツジ:30 µM
を含む、全量100 µLのprimer mixが完成します。
ポイントは、まず完成させたいprimer mixの全量を決めることです。
次に、その全量中で各プライマーを目的の濃度にするためには、原液を何µL加えればよいのかをそれぞれ計算します。
今回は全量100 µLなので、100 µMの原液からゾウを10 µMにするなら10 µL、キリンを20 µMにするなら20 µL、ヒツジを30 µMにするなら30 µL加えます。
最後に希釈液を加えて、全量を100 µLにします。
なお、primer mixをPCR反応液に添加するとさらに希釈されるため、primer mix中の濃度とPCR反応液中での終濃度は区別して考えます。
プライマーを1:3:5:7で混合すると濃度はどうなる?
実際の実験では、複数のプライマーを異なる割合で混合することもあります。
ここでは計算例として、4種類のプライマーをあらかじめ10 µMに調整し、
A:B:C:D=1:3:5:7
で混合する場合を考えてみましょう。
※ここでいう1:3:5:7は、各プライマー溶液の添加体積比です。
※1:3:5:7は計算方法を説明するための例であり、PCRに推奨される混合比ではありません。
比率の合計は、
1+3+5+7=16
です。
そこで今回は、
- Primer A:10 µL
- Primer B:30 µL
- Primer C:50 µL
- Primer D:70 µL
を混合し、全量160 µLのprimer mixを作ります。
| Primer | 混合前の濃度 | 添加量 |
|---|---|---|
| Primer A | 10 µM | 10 µL |
| Primer B | 10 µM | 30 µL |
| Primer C | 10 µM | 50 µL |
| Primer D | 10 µM | 70 µL |
| 合計 | ― | 160 µL |
ここで注意したいのが、4種類とも10 µMの溶液を使っていますが、混合後も各10 µMのままではないということです。
例えばPrimer Aは、10 µMの溶液を10 µL加えています。
混合後の全体積は160 µLなので、
10 µM × 10 µL ÷ 160 µL=0.625 µM
です。
同じように、それぞれのプライマーについて計算すると、
| Primer | 混合前 | 添加量 | 混合後 |
|---|---|---|---|
| Primer A | 10 µM | 10 µL | 0.625 µM |
| Primer B | 10 µM | 30 µL | 1.875 µM |
| Primer C | 10 µM | 50 µL | 3.125 µM |
| Primer D | 10 µM | 70 µL | 4.375 µM |
となります。
つまり、
「10 µMのプライマーを使った」=「primer mix中でも10 µM」ではありません。
他のプライマー溶液を加えれば、その分だけ全体の液量が増え、それぞれのプライマーは希釈されます。
今回のPrimer Aなら、
10 µL → 全量160 µL
まで希釈されたと考えることができます。
混合する割合が違っても、考え方は同じです。
混合後の濃度 = 混合前の濃度 × そのprimerの添加量 ÷ 混合後の全体積
重要なのは、そのprimerを何µL入れたのか、そして混合後の全体積が何µLになったのかです。
複数のプライマーを混合するときは、混合前の濃度だけでなく、混合後に各プライマーが何µMになっているのかまで考える必要があります。

PCR反応液にはprimer mixを何µL入れる?
ここまでは、primer mixを作るときの濃度について考えてきました。
しかし、作ったprimer mixをPCR反応液に加えると、各プライマーはさらに希釈されます。
次は、PCR反応液中で目的の終濃度にするために、primer mixを何µL加えればよいのか考えてみましょう。
例えば、
- primer mix:Forward primer 10 µM + Reverse primer 10 µM
- PCR反応液:全量20 µL
- 各プライマーの終濃度:0.5 µM
にしたいとします。
Forward primerについて、
C₁V₁=C₂V₂
を使って計算すると、
10 µM × V₁=0.5 µM × 20 µL
V₁=1 µL
となります。
ここで注意したいのが、この1 µLは「Forward primerを1 µL加える」という意味ではないことです。
Forward primer 10 µM+Reverse primer 10 µMを含むprimer mixを1 µL加え、その他の試薬や水と合わせて最終液量を20 µLにします。
primer mix中には、
- Forward primer:10 µM
- Reverse primer:10 µM
がそれぞれ含まれているため、primer mixを1 µL加えてPCR反応液の全量を20 µLにすると、
- Forward primer:0.5 µM
- Reverse primer:0.5 µM
となります。
つまり、
primer mix中:各10 µM
↓ PCR反応液へ1 µL添加
PCR反応液中:各0.5 µM
と、PCR反応液に加えた段階でもう一度希釈されることになります。
これは、3種類以上のプライマーを混合したprimer mixでも同じです。
primer mix中で各プライマーが何µMなのかを確認し、そこからPCR反応液中で目的の終濃度になるように添加量を計算します。

プライマーを希釈・混合するときの注意点
プライマーは、高濃度の原液をそのまま毎回使用するのではなく、必要な濃度に希釈した溶液を別に作っておくと扱いやすくなります。
例えば、
原液:100 µM
↓ 希釈
使用する溶液:20 µM
↓ 2種類を等量混合
primer mix:各10 µM
というように、希釈・混合するたびに濃度が変わります。
そのため、チューブにはprimer名だけでなく、濃度や作製日なども分かるように記録しておくと安心です。
特にprimer mixでは、「10 µM」とだけ書くと、後から見たときに何が10 µMなのか分からなくなることがあります。
例えば、
F/R mix:各10 µM
など、混合したそれぞれのプライマー濃度が分かるようにしておくと、取り違えを防ぎやすくなります。
また、保存条件や溶解に使用する液については、使用するプライマーやメーカーの推奨条件を確認してください。
まとめ
プライマーを混合するときは、それぞれのプライマーについて個別に濃度を考えることがポイントです。
例えば、20 µMのプライマーを2種類等量混合すると、それぞれの濃度は半分になり、
20 µM → 各10 µM
となります。
混合する種類や割合が変わっても、
混合後の濃度 = 混合前の濃度 × 添加量 ÷ 混合後の全体積
と考えれば、各プライマーの濃度を求めることができます。
また、primer mixをPCR反応液に加えると、各プライマーはさらに希釈されます。
プライマーの濃度を考えるときは、
「今、このプライマーは全体の何µL中に存在しているのか?」
を意識すると分かりやすくなります。
プライマーの物質量は変わらなくても、存在する液量が増えれば濃度は下がる。
このイメージを押さえておけば、プライマーを希釈・混合するときの濃度を追いやすくなります。
