この記事では、
- 血液が固まる理由
- 血が止まるまでの流れ
- 凝固カスケード
- フィブリノーゲンとフィブリン
についてわかりやすく説明します。
血液はなぜ固まるのか
血液は体の中では液体として流れていますが、
血管が傷つくと、すぐに固まる性質があります。
これは、出血を止めるための仕組みです。
人は体内の血液の約3分の1を失うと、命に関わる危険な状態になります。
もしこの止血の仕組みが体に備わっていなければ、小さな傷でも出血が止まらず、命に関わってしまいます。
なぜ血液は普段固まらないのか
血液は「固まる性質」を持っていますが、
実は体の中では、常に固まらないようにコントロールされています。
血管の内側(内皮)はとてもなめらかで、
さらに血小板が集まらないようにする物質(一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン)を出しています。
また、タンパク質C・Sと呼ばれる仕組みも、凝固反応にブレーキをかける働きをしています。
さらに、血液中にも
- 凝固を抑える物質(アンチトロンビンなど)
- できた血のかたまりを分解する仕組み(線溶系)
があり、血液は「固める力」と「止める力」のバランスで保たれています。
しかし、血管が傷つくとこのバランスが崩れ、凝固のスイッチが入り、
血が固まり始めます。
つまり血液は、普段はあえて固まらないように抑えられていて、
必要なときだけ固まる仕組みになっているのです。
血が止まるまでの3ステップ
血液が固まる流れは、大きく3つに分けられます。

① 血小板が集まる
血管が傷つくと、血小板がその場所に集まります。
血小板は傷ついた血管にくっつきやすい性質を持っています。
そして、一時的な“フタ”を作ります。
これを「一次止血(血小板栓形成)」といいます。
※血小板は無色に近い小さな細胞片で、実際にははっきりした色はありません。
イラストではわかりやすくするために黄色で表現しています。
② フィブリンが作られる
次に起こるのが、フィブリンの形成です。
血液中にある「フィブリノーゲン」というタンパク質が、トロンビンという酵素の働きによって変化し、フィブリン(糸が集まってできた網のような構造)になります。
このフィブリンが網目を作ることで、よりしっかりとした止血が行われます。
これを「二次止血(フィブリン血栓形成)」といいます。
トロンビンは、血液を固める反応を進める中心的な酵素です。
③ 網目で固める(血餅形成)
フィブリンの網目が、血小板や血球(赤血球など)を絡めとることで、
ゼリー状の塊(血餅:けっぺい)が完成します。
この血餅は、さらにフィブリン同士が結びつくことで強固になります。
これにより、しっかりと出血が止まります。
止血とは、まず血小板がバンドエイドのように傷をふさぎ、
その上をフィブリンが包帯のようにしっかり固めるイメージです。
凝固カスケード(連鎖反応)とは
このフィブリンが作られる過程では、凝固因子(タンパク質)が順番に働くという特徴があります。
これを凝固カスケード(連鎖反応)といいます。
カスケード(cascade)とは、滝のように連続して起こる反応を意味します。
1つの反応が次の反応を引き起こし、さらに次へ…と連鎖して進みます。
例えるなら、ドミノ倒しによく似ています。

なぜこんな仕組みなのかというと、少しのきっかけを大きな反応に増幅するためです。
これにより小さな傷でも、一気に止血できるように設計されています。
少しだけ専門的にいうと、凝固カスケードには2つの始まり方があります。
- 外因系:血管の外にある「組織因子(第III因子)」が血液に触れることで始まる反応
- 内因系:血液の中の成分(第XII因子など)がきっかけとなって始まる反応
どちらも始まり方は違いますが、途中で合流し、最終的にはフィブリンの生成につながります。
※なお、PTは外因系、APTTは内因系の働きを見る検査として使われています。
カルシウムの役割
血液にはカルシウムが含まれており、
- 凝固因子同士を結びつける
- 反応を進めるための足場になる
といった役割を果たしています。
そのため、この凝固反応(カスケード)にはカルシウム(Ca²⁺)が必須です。
ただし、カルシウムだけで血が固まるわけではなく、
さまざまな因子が連携することで初めて止血が起こります。
そのため、
- EDTA → Ca²⁺を奪う → 反応が止まる
- クエン酸 → 同様
採血管でよく使われるEDTA管の血液が固まらなくなるのは、このためです。
カルシウムを取り除くことで、血液は人工的に「固まらない状態」に保たれているのです。
血液は血管の外に出ると、カルシウムを利用して凝固反応が進行します。
EDTAはカルシウムイオンをキレートすることで、この反応に必要な因子が働けない状態を作り、血液が固まるのを防ぎます。
💡イメージで考えると…
カルシウムは「作業員」のような存在で、凝固は「工事」です。
血液が外に出ると工事が始まりますが、EDTAはその作業員を動けなくしてしまうため、工事(凝固)が進まなくなります。
フィブリノーゲンとフィブリンの違い
フィブリノーゲンとフィブリンの違いは、
フィブリノーゲン=材料(もと)
フィブリン=完成した網(実際に固めるもの)
です。
フィブリノーゲン(fibrinogen)
- 血液中にもともと存在するタンパク質
- 血漿に溶けている(液体の状態)
- まだ「固める力」は持っていない
👉 待機状態の材料
イメージ:バラバラの糸
フィブリン(fibrin)
- フィブリノーゲンが変化してできる
- 網目になって血球を絡めとる
👉 実際に血を固める主役
イメージ:編まれたネット
さらに、このフィブリンは第XIII因子によって強く結びつけられ、安定した血餅になります。
どうやって変わるのか
フィブリノーゲンは血漿中に溶けているタンパク質ですが、
トロンビンの働きによってフィブリンへと変化します。
この変化によって、糸のような構造ができ、網目が形成されます。

検査との関係~血清と血漿の違い~
血液を検査で扱うときには、「血清」と「血漿」という言葉がよく出てきます。
両者の大きな違いは、フィブリノーゲンが含まれているかどうかです。
- 血漿:フィブリノーゲンあり(まだ固まる前)
- 血清:フィブリンとして消費済み(もう固まった後)
👉 血清にはフィブリノーゲンは含まれていません。
末梢血を試験管に入れてそのまま放置すると、血液は自然に固まり、得られる上澄みは血清になります。
一方で、血漿は抗凝固剤(EDTAなど)を加えて血液が固まらないようにすることで得られます。
かさぶたの正体と血栓との違い
けがをすると、しばらくして「かさぶた」ができますよね。
実はこれはフィブリンの網に血球が絡んだものが乾いたものです。
血管が傷つくと、まずフィブリンという網が作られ、
その網に赤血球などが絡めとられて、ドロっとした塊(血餅)ができます。
その後、水分が抜けて固まることで、いわゆる「かさぶた」になるという流れです。
- フィブリン=網
- 血餅=できたばかりの塊(まだ柔らかい)
- かさぶた=それが乾いたもの
👉 つまり、かさぶたは**体が自分で作った“天然のフタ”**なんです。
かさぶたは自然に剥がれるのではなく、下で新しい皮膚が再生し、役目を終えたかさぶたが押し上げられて外れるものです。
体の外では「かさぶた」は剥がれますが、体の中では同じような構造(血餅)ができても、プラスミンという酵素がフィブリンを分解し、血栓を溶かし、最終的には分解されて消えます。
ただし、この仕組みがうまく働かず、不要な場所にできてしまったものが「血栓」です。
血栓は場合によっては血管を詰まらせ、脳梗塞や心筋梗塞の原因になります。
検査では血液をどう扱うのか
ここが臨床検査のポイントです。
血液は放っておくと自然に固まってしまうため、そのままでは正しく測定できないことがあります。
そこで、抗凝固剤を使って固まらないようにする、という操作が必要になります。
例えば、
- EDTA → カルシウムを除去して凝固を防ぐ
- クエン酸 → 同様にカルシウムをキレート
このように検査では、目的に応じて血液の状態をコントロールしています。
まとめ
- 血液は出血を止めるために固まる
- 血小板 → フィブリンの順で止血が進む
- フィブリンはフィブリノーゲンから作られる
- 凝固は連鎖反応(カスケード)で起こる
- カルシウムが重要な役割を持つ
- 検査ではこの性質をコントロールする必要がある
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q. なぜEDTAを加えると血液は固まらなくなるのでしょうか?
A. 凝固に必要なカルシウムイオンをキレートして取り除くため、凝固反応が進まなくなるから。
