血液検査では、検査内容に応じて目的に合った採血管が使われます。
しかし、「どの検査にどの採血管を使うのか」が分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、採血管の基本的な考え方から、検査ごとの使い分け、抗凝固剤の違いまで、
「どの検査でどの採血管を使うのか」を、仕組みから理解できるようにわかりやすく解説します。
採血管はなぜ必要?血液検査の基本
血液検査では、検査項目に応じて必要な分画を取り出します。
分画とは、血液を分けたときに得られる、それぞれの成分のまとまりのことです。
血液にはさまざまな成分や細胞が含まれており、そのまま放置すると固まってしまう性質があります。
血液は体外に出ると、血小板や凝固カスケードが働き、最終的にフィブリンによって固まります。これは止血のために必要な反応ですが、検査においてはこの反応が邪魔になる場合があります。
👉 血液はなぜ固まるのか?|出血を止める仕組みをやさしく解説
そのため、必要な分画を取り出す、特定の酵素の働きを止める、細胞が壊れないようにするなど、目的に応じて検査に適した状態に調整する必要があります。
そこで使われるのが採血管です。
採血管には目的に応じた試薬があらかじめ添加されており、血液を固めたり、固まらなくしたりすることで、検査に適した状態を作ることができます。
検査ごとに採血管が異なる理由
検査ごとに採血管が異なるのは、調べたい部分が異なるためです。
血液検査は主に次の3つに分かれます。
- 成分を見る
- 細胞を見る
- 固まる力を見る
どの検査を行うかによって、使用する採血管が決まります。
なお、医療機関や検査内容によって採血管の運用は異なる場合があります。
実際の採血は必ず医師の指示に従ってください。

成分を調べる検査(生化学)|上澄みを使う
成分を調べる検査で使われる主な採血管は、次の3つです。
🟥 赤(血清)
🟡 黄(SST)
🟢 緑(ヘパリン)
カッコ内は、その採血管で得られる検体や特徴(血清・分離剤など)を示しています。
※赤色の採血管には抗凝固剤は含まれておらず、血液を自然に凝固させて血清を得ます。
生化学検査では、タンパク質や電解質など、血液中に溶けている成分を測定します。
細胞が存在すると、成分の消費や放出が起こり、測定値が変化してしまうため、細胞は不要です。
そのため、上澄み(血清または血漿)を使います。
血清は凝固後に得られる液体、血漿は抗凝固剤入り採血管から得られる液体です。
主な検査項目は以下のとおりです。
AST / ALT(肝機能)
Na / K / Cl(電解質)
コレステロール
補足:採血管は「固まるかどうか」で分かれる
採血管は大きく
固まるもの(血清) と 固まらないもの(抗凝固) に分かれます。
- 赤・黄 → 血が固まる(血清)
- 緑 → 血が固まらない(血漿)
👉 詳しくはこちらの記事で解説しています。
細胞を調べる検査(血算)|全血を使う
細胞を調べる検査で使われる主な採血管はEDTA管です。
🟣 紫(EDTA)
血算では、赤血球や白血球などの細胞そのものを評価します。
細胞の形と数が重要です。
血液が固まると、細胞の形が崩れたり、正しく測定できなくなったりするため、抗凝固剤を用いてそのままの状態を保つ必要があります。
そのため、血液を固めず、全血のまま測定します。
※フローサイトメトリーなどでは、分離した細胞を用いる場合もあります。
主な検査項目は以下のとおりです。
RBC(赤血球数)
WBC(白血球数)
Hb(ヘモグロビン)
血小板
固まる力を調べる検査(凝固)|反応を再現する
血液が固まる力を調べる検査に使うのはクエン酸管です。
🔵 青(クエン酸)
凝固検査では、血液がどのくらいの速さで固まるかを測定します。
血液をそのままにしておくと、反応が進んでしまい、正しく評価することができません。
そのため、クエン酸でカルシウムを一時的に抑え、測定時に条件をそろえて評価します。
つまり、凝固反応を「再現」して評価する検査です。
主な検査項目は以下のとおりです。
PT(プロトロンビン時間)
APTT
血糖検査が例外である理由|解糖を抑える必要がある
血糖検査で使われる採血管はフッ化ナトリウム管です。
⚫ 灰(フッ化Na)※
※実際にはフッ化Naに加えて他の添加剤を併用する製品もあります。
解糖とは、細胞がブドウ糖を利用してエネルギー(ATP)を産生する反応です。
血液は採取後も生きており、赤血球や白血球は糖を消費し続けます。
そのため、この反応は採血後も進行し、血糖値は室温で放置すると時間とともに低下することがあります。
適切な処理を行わない場合、実際より低い値(偽低値)となる可能性があります。
このように、血糖検査は時間の影響を強く受けるため、迅速な処理や時間管理が重要になります。
フッ化ナトリウム(NaF)は、解糖系の酵素(エノラーゼ)を阻害することで、解糖を抑えます。これにより、採血後の血糖低下を抑えることができます。
ただし、解糖を完全に停止するわけではないため、できるだけ速やかな処理が望まれます。
他の採血管との違い
ほかの採血管が血液の状態(血清・血漿など)を決めるのに対し、フッ化ナトリウム管は時間による変化を抑えるという点で役割が異なります。
抗凝固剤の違い|EDTA・クエン酸・ヘパリンの使い分け
血液は放っておくと固まってしまう性質があるため、血液を固まらないようにする試薬のことを「抗凝固剤」といいます。
※いずれも血漿を得るために用いられますが、作用機序が異なります。
血液凝固のどの段階を止めるかによって、用途が変わります。
つまり、抗凝固剤は「どこを止めているか」で使い分けられます。
■ EDTA(紫)
EDTAはカルシウムイオン(Ca²⁺)を強くキレートし、凝固反応を開始させません。
細胞の形を保つことができるため、血算やフローサイトメトリーに適しています。
■ クエン酸(青)
クエン酸はカルシウムと可逆的に結合し、凝固反応を一時的に停止させます。
測定時にカルシウムを再添加することで、反応を再開できるのが特徴です。
■ ヘパリン(緑)
ヘパリンはアンチトロンビンを活性化し、トロンビンの働きを抑えることで凝固を防ぎます。
主に生化学検査や一部の機能解析で使用されます。
👉 抗凝固剤は“すべて同じ”ではなく、止めている場所が異なるだけです。
■ 抗凝固剤はどこを止めているのか
血液は血管の外に出ると、血小板や凝固カスケードが働き、最終的にトロンビンが生成され、フィブリンによって固まります。
抗凝固剤は、この流れのどこかを止めています。
- EDTA・クエン酸 → カルシウムを除去し、反応を開始させない
- ヘパリン → トロンビンの働きを抑え、反応の進行を止める
止血の仕組みを理解していると、採血管や抗凝固剤の違いは一気に理解しやすくなります。
👉 詳しくはこちらの記事で解説しています。
血液はなぜ固まるのか?|出血を止める仕組みをやさしく解説
採血管の色は共通?メーカーによる違いと注意点
採血管の色分けは、国際的なガイドライン(CLSIなど)により、ある程度統一されています。
しかし、メーカーによって微妙な違いがあるため、完全に共通というわけではありません。
色は目安として有用ですが、最終的にはラベルで確認することが重要です。
メーカーによる違いの例
- EDTA-2Na と EDTA-2K(どちらも紫だが色味や用途が異なる)
- 黄色と金色(SST)
- 緑の濃さの違い
- オレンジ管の扱い
注意点
採血管は色だけで判断せず、必ずラベルを確認することが重要です。
同じ色でも添加剤や用途が異なる場合があります。
まとめ|採血管は「何を見たいか」で決まる
採血管は、検査の目的と必要な分画に応じて選択されます。
血液は採血管に添加された試薬によって、固まったり固まらなかったりと状態が変化します。
- 成分 → 上澄みを使う
- 細胞 → 全血のまま使う
- 凝固 → 一度止めて再現する
- 血糖 → 時間の影響を受けるため特別な対応が必要
「何を測るか」によって「どの状態が必要か」が決まり、それに応じて採血管が選ばれます。
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1:なぜ検査ごとに採血管を変える必要があるのでしょうか?
A:検査項目によって、必要な分画や血液の状態が異なるため
Q2:なぜ血糖だけは特別な扱いになるのでしょうか?
A:ほかの採血管は採血後の血液の状態(固まる・固まらないなど)をコントロールするのに対し、血糖は採血後も細胞によって糖が消費されるため、その変化(時間の影響)を抑える必要があるから
Q3:EDTAとクエン酸では、どこを止めているのでしょうか?
A:EDTAはカルシウムをキレートして凝固反応を開始させず、クエン酸はカルシウムと可逆的に結合して凝固反応を一時的に停止させる
