この記事では、遠心分離の基本原理から、実際に遠心機を使うときの注意点まで、初心者向けにやさしく解説します。
少し長めの記事なので、目次から気になるところだけ読んでも大丈夫です。
特に、遠心前後の注意点や実務上のコツは、実際の経験をもとにまとめました。
遠心分離とは?
遠心分離とは、液体の中に混ざっている成分を、密度や大きさの違いを利用して分ける方法です。
簡単に言うと、「普通の重力ではゆっくり沈む現象を、回転の力で速く進める方法」です。
たとえば、EDTA管に入った血液をしばらく置いておくと、赤血球は少しずつ下に沈みます。
これは、重力があるからです。
赤血球は血漿よりも密度が高いため、時間をかければ自然に沈んでいきます。
しかし、血液中の細胞や細かい沈殿物は、液体の中でゆっくりしか動けません。
水や溶媒の抵抗を受けるため、自然に沈むには時間がかかります。
そこで遠心機を使います。
遠心機で高速回転させると、チューブの中の成分には、普通の重力よりもずっと大きな力がかかります。
厳密には「遠心加速度」や「見かけの力」と表現されますが、この記事では分かりやすく「遠心力」と呼びます。
遠心分離は、重力だけでは時間がかかる沈降を、遠心力によって短時間で進める操作なのです。
また遠心力、時間、温度、ブレーキの有無、分離液の使用などの条件を変えることで、「沈めたいもの」「上清に残したいもの」「層として回収したいもの」を分けやすくできます。

なぜ遠心すると成分が分かれるの?
遠心機でサンプルを回すと、チューブの中の成分は外側へ押し出されるように動きます。
多くの遠心機では、チューブは斜め、または外向きにセットされます。
そのため、外側へ向かう力=チューブの底側や外側へ向かう力として働きます。
イメージとしては、次のような感じです。

ここで大事なのは、沈みやすさは「重さ」だけでは決まらないということです。
遠心分離で分かれやすさに関係するのは、主に次のような要素です。
- 粒子の大きさ
- 粒子の密度
- 液体との密度差
- 液体の粘り気
- かける遠心力
- 遠心時間
特に、粒子の大きさと密度差は重要です。
大きくて密度の高いものは沈みやすく、小さくて液体との密度差が小さいものは沈みにくくなります。
たとえば血液では、赤血球は比較的大きく、密度も高いため下に沈みやすいです。
一方、血漿中のタンパク質や小さい成分は沈みにくく、上の液体部分に残りやすくなります。
沈殿の位置はローターの種類によって変わる
遠心後の沈殿は、必ずチューブの真下にできるとは限りません。
沈殿の位置は、遠心機のローターの種類によって少し変わります。
代表的なものに、
- 固定角ローター
- スイングローター
があります。
固定角ローターでは、チューブが斜めに固定された状態で回転します。
そのため、沈殿はチューブの底だけでなく、外側の壁寄りにできることがあります。
一方、スイングローターでは、遠心中にバケットが外側へ振られて、チューブがほぼ横向きになります。
この場合は、沈殿がチューブの底側に集まりやすくなります。
つまり、遠心後のペレットが「底にある」「横についている」と見えるのは、ローターの種類やチューブの向きによって変わります。

rpmと×gの違い
遠心機では、遠心条件として、
- rpm
- ×g
という表記が出てきます。
rpmとは?
rpmは、**Revolutions Per Minute(レボリューションズ・パー・ミニット)**の略です。
意味は、1分間に何回転するかです。
たとえば、
1000 rpm → 1分間に1000回転
3000 rpm → 1分間に3000回転
という意味です。
rpmは、回転数そのものを表しています。
×gとは?
×gは、サンプルにどれくらいの遠心力がかかっているかを表します。
1×gは、地球上で普通に受けている重力の強さです。
たとえば、
300 × g → 普通の重力の約300倍
1000 × g → 普通の重力の約1000倍
12000 × g → 普通の重力の約12000倍
というイメージです。
普通に置いておいたらなかなか沈まないものでも、遠心機にかけると短時間で沈むのは、普通の重力よりも大きな力をかけているからです。
半径が大きいほど遠心力は大きくなる
同じrpmなら、ローターの半径が大きいほど遠心力は大きくなります。
遠心力は、回転の速さと中心からの距離で決まるからです。
つまり、
- rpmが高いほど強い
- 半径が大きいほど強い
ということです。
イメージは回転ブランコです。
中心近くにいるより、外側にいる方が、外へ飛ばされそうな感じが強いですよね。
遠心機も同じで、ローターの中心から遠い位置ほど、サンプルにかかる力が大きくなります。
厳密には、同じ遠心機の中でも、回転中心からの距離によって遠心力は少し変わります。
中心に近いほど弱く、外側に行くほど強くなります。
そのため、遠心後の沈殿は、チューブの底側や外側に集まりやすくなります。
遠心分離は何に使う?
遠心分離は、検査や研究のさまざまな場面で使われます。
ここでは、代表的な使い道を紹介します。
血液検査で使う
血液検査では、血液から、
- 血清
- 血漿
- 血球成分
を分けるために遠心します。
また、免疫系の研究では、PBMC分離でも遠心分離が使われます。
血液の分離については、こちらの記事で解説しています。
👉リンフォプレップ(Lymphoprep)とは?PBMC分離の原理・使い方・よくある失敗まで解説
DNA・RNA抽出で使う
DNAやRNAの抽出でも、遠心分離はよく使います。
たとえば、
- 細胞を沈める
- 不要な成分を沈める
- カラムに液体を通す
- カラムを乾燥させる
- 上清を回収する
などの目的で遠心します。
実験では、
遠心する
↓
上清を捨てる
↓
ペレットを再懸濁する
という操作が何度も出てきます。
溶媒抽出で使う
理化学検査でも、遠心分離は役に立ちます。
たとえば、食品から油脂を抽出する際に、ジエチルエーテルが使われることがあります。
エーテルは油脂となじみが良く、抽出効率の高い溶媒です。
しかし、チョコレートのような食品をエーテルに溶かすと、固形分が多く、ろ紙がすぐに詰まってしまい、なかなか溶媒層(エーテル層)を分取できないことがあります。
このようなとき、エーテルで抽出したサンプルを遠心分離すると、溶媒部分とチョコレート由来の固形分が分かれやすくなり、ろ過しやすくなることがあります。
特に油分を多く含む食品では、ろ紙が詰まりやすいため、遠心分離が役立つ場面があります。
ろ過にもコツがある
遠心後のサンプルは、液面が少し斜めになることがあります。
このとき、沈殿側(チョコレート層)を巻き込まないように、液面の斜面に沿ってゆっくりろ過すると、目的の層を取りやすくなります。
勢いよく注ぐと、下層が崩れて混ざりやすくなるため注意が必要です。
また、ラベル面を上側にして作業すると、液体が垂れてラベルが読めなくなるのを防ぎやすくなります。

これは食品検査だけでなく、
- DNA抽出
- RNA抽出
- 細胞回収
- PBMC分離後の上清除去
など、さまざまな検査・実験操作でも役立つ考え方です。
強く回せばよいわけではない
遠心分離は、強く回せばよいわけではありません。
遠心力が強すぎると、サンプルにダメージを与えることがあります。
たとえば細胞を扱う場合、強い遠心によって細胞の状態が悪くなることがあります。
理由としては、
- 細胞に負荷がかかる
- ペレットが固くなりすぎる
- 再懸濁しにくくなる
- 細胞が傷みやすくなる
などがあります。
反対に、遠心力が弱すぎると、細胞や沈殿物が十分に沈まないことがあります。
遠心条件は、
- 何を分けたいのか
- 何を回収したいのか
- サンプルが壊れやすいか
- 層を保ちたいか
によって変わります。
遠心分離は、目的に合った条件で回すことが大切です。
遠心機を使うときの注意点
遠心機は高速で回転する装置です。
使い方を間違えると、サンプルを失うだけでなく、チューブやガラス器具が破損することもあります。
そのため、遠心前、遠心後の確認がとても大切です。
遠心前に確認すること
遠心を始める前には、次の点を確認します。
- 対角線上に置いているか
- 向かい合うチューブの重さがそろっているか
- チューブやガラス器具にヒビがないか
- フタがしっかり閉まっているか
- アダプターを入れ忘れていないか
- ローターが正しくセットされているか
遠心機は便利な機械ですが、高速で回転する装置です。
「少しくらい大丈夫かな?」が、意外と危ない操作になります。
遠心に耐えられる容器を使う
遠心では、容器に大きな負荷がかかります。
そのため、遠心に耐えられる材質・形状の容器を使う必要があります。
チューブや遠沈管には、使用できる遠心力や条件が決められていることがあります。
使用前に、メーカーの規格や施設のルールを確認しましょう。
特に高速遠心や有機溶媒を使う場合は、容器の材質にも注意が必要です。
サンプルは対角線上に置く
遠心機を使うときは、サンプルを対角線上に置きます。
たとえば2本のチューブを遠心する場合は、向かい合う位置にセットします。

片側だけにサンプルを置くと、回転中にバランスが崩れます。
遠心機が大きく振動したり、異音がしたり、場合によっては容器や機械の破損につながることがあります。

向かい合うチューブの重さをそろえる
対角線上に置くだけでなく、向かい合うチューブ同士の重さもできるだけそろえます。
液量が大きく違うと、回転中にバランスが崩れます。
特に高速遠心やガラス製の遠沈管では注意が必要です。
バランスが悪いと、遠心中に容器が割れたり、遠心機に大きな負荷がかかったりすることがあります。
許容される差は、遠心機・ローター・チューブ・回転数によって異なります。
そのため、「何mLまでなら大丈夫」と一律には言えません。
基本は、できるだけ液量と重さをそろえることです。
必要な場合は、水やPBSなどを入れたバランス用チューブを用意します。
回転が上がるまで少し様子を見る
遠心をスタートしたら、すぐにその場を離れず、回転が安定するまで少し様子を見ることも大切です。
バランスが悪いと、
- 異音がする
- 大きく振動する
- 遠心機がガタガタする
ことがあります。
原因としては、
- 対角線上に置けていない
- 置く場所を間違えている
- 向かい合うチューブの液量差が大きい
- アダプターを入れ忘れている
- ローターが正しくセットされていない
などが考えられます。
異常を感じたら、無理に続けず停止します。
最初の立ち上がりで異常に気づけることも多いので、遠心開始後の確認はとても大切です。
高速遠心ではローターのフタを確認する
DNA抽出などでは、カラムを乗せた1.5 mLチューブを高速で遠心することがあります。
このとき注意したいのが、ローターのフタです。
条件によっては、高速回転中に1.5 mLチューブのフタ部分に負荷がかかり、フタがちぎれてしまうことがあります。
ちぎれたフタが遠心機の中に入ると、回収や掃除が大変です。
遠心機は重く、簡単にひっくり返して掃除できるものではありません。
そのため、高速遠心を行うときは、必要に応じてローターのフタをきちんと装着してから遠心することが大切です。
アクセル・ブレーキを使わない遠心もある
遠心機には、回転を速く立ち上げるアクセル機能や、回転を早く止めるブレーキ機能があります。
ただし、実験によっては、あえてアクセルやブレーキを弱くしたり、使わなかったりすることがあります。
代表的なのが、Lymphoprepを使ったPBMC分離です。
Lymphoprepでは、血液と分離液の層を保ったまま遠心します。
このとき、急に加速したり、急に止めたりすると、せっかくできた層が乱れてしまうことがあります。
もしも回転ブランコを急に止めたら…どうなるか想像してください(苦笑)
それと同じです。
そのため、条件によっては、
- アクセルなし
- ブレーキなし
- ゆっくり加速
- 自然停止
のように設定します。
遠心分離は、目的によっては、きれいな層を保ったまま分けることが大切になります。
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遠心後の操作で注意すること
遠心後の取り出し方や上清の捨て方でも、結果が変わることがあります。
遠心後はそっと取り出す
遠心が終わったあとも注意が必要です。
特にLymphoprepなどを使った比重分離では、遠心後にきれいな層ができています。
この層はとても繊細です。
チューブを勢いよく取り出したり、傾けたり、強く揺らしたりすると、せっかく分かれた層が乱れてしまうことがあります。
いわゆる「界面」がぐちゃっとなる状態です。
層が乱れてしまった場合は、条件によってはもう一度遠心することもあります。
遠心分離は、回して終わりではなく、取り出すところまでが操作です。
遠心後は「液面の向き」にも注意する
遠心分離をすると、サンプルには強い遠心力がかかります。
そのため、遠心後の液体は、まっすぐ水平ではなく、少し斜めになっていることがあります。
特に沈殿を作る操作では、沈殿がチューブの片側に寄っていることがよくあります。
この液面の向きが次の操作で大切になります。
ろ過・上清除去は斜面に沿って行う
遠心後のサンプルは、上清を除去したり、ろ過したりすることが多いです。
このとき、勢いよく液を捨てたり、沈殿側から吸ってしまうと、せっかく沈めた沈殿が崩れてしまうことがあります。
そのため、遠心でできた液面の傾きに沿って、静かに液を除くのがポイントです。
特に、
- 細胞
- PBMC
- DNA沈殿
- RNA
- 微量サンプル
では、少しのロスが結果に影響することがあります。
「最後の一滴まで取る」より、必要な沈殿を失わない方が大事なことも多いです。
チューブの向きをそろえて遠心する理由
遠心後に上清を捨てたり、ろ過したりする場合は、チューブの向きをそろえて遠心機にセットすると作業がしやすくなります。
たとえば、ラベル面をすべて同じ向きにして遠心しておくと、
沈殿がどちら側につくか
が毎回予測しやすくなります。
すると、沈殿を崩さずに上清を除きやすくなります。
実験では地味ですが、かなり大切なコツです。
ラベルの向きにも注意する
地味ですが、かなり実務で大事なのがラベルの向きです。
遠心するときにラベル面の向きをそろえておくと、
- 沈殿位置が分かりやすい
- 作業ミスを防ぎやすい
- 次工程がやりやすい
というメリットがあります。
また、上清除去やろ過をするときは、液体がラベル側に垂れない向きにするのもポイントです。
ラベル面に液体が流れると、
- 文字がにじむ
- サンプル番号が読めなくなる
- 何の検体かわからなくなる
ことがあります。
特にアルコールや一部の溶媒では、ラベルが消えることもあります。
そのため、ラベルが濡れにくい向きを意識すると安心です。
※運用は施設や作業内容によって異なります。
遠心機の便利な機能
遠心機には、基本的な回転機能のほかに、便利な機能がついていることがあります。
ここでは、初心者が知っておくと役立つ機能を紹介します。
冷却機能とは?
遠心機には、冷やしながら遠心できるものがあります。
これを冷却遠心機といいます。
細胞、タンパク質、RNAなど、温度変化に弱いサンプルでは、冷却しながら遠心することがあります。
プロトコールで、4℃で遠心と書かれている場合は、遠心機を冷やして使います。
ここで大切なのが、あらかじめ冷やしておくことです。
設定温度を4℃にしても、すぐに庫内が4℃になるわけではありません。
冷却して使う場合は、クーリングモードなどで先に庫内を冷やしてから使います。
フラッシュ機能とは?
遠心機には、フラッシュ機能がついていることがあります。
フラッシュとは、短時間だけサッと回す機能です。
スピンダウンと呼ばれることもあります。
主な目的は、チューブの壁やフタについた液体を底に落とすことです。
たとえば、
- ボルテックス後に液滴が壁についている
- 試薬を加えたあと液が上に残っている
- PCRチューブの底に液を集めたい
というときに使います。
本格的に分離するための遠心ではなく、液を下に集めるための短い遠心です。
少量サンプルでは、数µLのズレでも影響することがあります。
そのため、壁についてしまった液は、軽くフラッシュして下に落としてから次の操作に進むことがあります。
遠心分離でよく使う用語
最後に、遠心分離でよく使う用語を整理します。
ペレット
ペレットとは、遠心後にチューブの底や外側に沈んだものです。
たとえば、
- 細胞
- 沈殿物
- 不溶物
などです。
「ペレットを残す」と言われたら、沈殿を捨てないように注意します。
固定角ローターでは、ペレットがチューブの底だけでなく、外側の壁寄りにできることがあります。
上清
上清とは、遠心後に上に残った液体部分です。
「上清を回収する」と言われたら、底や壁側のペレットを吸わないように、上の液体を取ります。
反対に「上清を捨てる」と言われたら、必要なのはペレットです。
このとき、ペレットを一緒に捨てないように注意します。
再懸濁
再懸濁とは、底や壁に沈んだペレットを、液体にもう一度混ぜることです。
ピペッティングなどでやさしくほぐして、均一な状態にします。
細胞の場合は、強くピペッティングしすぎるとダメージになることがあるため注意します。
ペレットが固くなっていると、再懸濁しにくいことがあります。
そのため、サンプルによっては遠心力や遠心時間を強くしすぎないことも大切です。
まとめ
遠心分離とは、密度や大きさの違いを利用して、液体中の成分を分ける方法です。
ポイントをまとめると、
- 遠心分離は、重力で沈む現象を遠心力で速く進める操作
- 沈みやすさは、重さだけでなく密度差・粒子サイズ・液体の粘性などで決まる
- 血液検査、DNA・RNA抽出、PBMC分離、溶媒抽出などで使う
- rpmは回転数
- gは実際にかかる遠心力
- 同じrpmなら、半径が大きいほど遠心力は大きい
- 沈殿位置はローターの種類によって変わる
- 強く回せばよいわけではない
- サンプルは対角線上に置く
- 向かい合うチューブの重さをそろえる
- 冷却して使うときは先に冷やす
- フラッシュは壁についた液を落とすときに使う
- 高速遠心ではローターのフタも確認する
- 実験によってはアクセル・ブレーキを使わない
- 遠心後はそっと取り出す
- 上清除去やろ過では、沈殿や界面を崩さないようにする
遠心分離は、一見すると「ただ回すだけ」の操作に見えます。
しかし実際には、置き方、バランス、温度、加速・減速、取り出し方まで含めて、結果に影響します。
遠心機を安全に正しく使うことは、実験や検査の基本です。
