通常の遠心では、血液は血漿・バフィーコート・赤血球の3層に分かれます。
このとき、赤血球の上に白血球と血小板を含む薄い層(バフィーコート)が形成されます。
しかし、バフィーコートは非常に薄く、複数の細胞が混ざっているため、
目的の細胞をきれいに取り出すことは困難です。
そこで用いられるのが、リンフォプレップ(Lymphoprep)です。
リンフォプレップは細胞の密度の違いを利用して、リンパ球と単球(PBMC)を選択的に分離する試薬です。
これにより、不要な赤血球や顆粒球を除いたPBMCを得られるため、
フローサイトメトリーなどの解析に使いやすくなります。
今日は、リンフォプレップとは何かについて解説します。
リンフォプレップとは(Lymphoprepの基本)
リンフォプレップ(Lymphoprep)とは、密度勾配遠心に使う分離液です。
ざっくり言うと、「細胞を重さ(密度)で分けるための液体」です。
Lymphoprepに血液を入れて遠心すると、血液は密度(重さ)の違いによって4層に分かれます。

一番上に血漿、
その下に現れる白い層が**PBMC層(リンパ球・単球)
その下に分離液(Lymphoprep)、
最下層に赤血球・顆粒球が分かれます。
このPBMC層は、フローサイトメトリーなどの免疫解析で使用される重要な部分で、分離液の上に浮かぶ“白いモヤモヤ”として確認できます。
👉 この図で覚えるべきは1つだけ
PBMCは「分離液の上にできる白い層」です。
なぜ使うのか?普通遠心との違い
なぜLymphoprepを使うのかというと、普通の遠心では赤血球、白血球、血小板が全てまとめて沈み、ぐちゃまぜのペレットになるのに対し、
Lymphoprepを入れて遠心すると、密度によって重い赤血球、顆粒球が下に沈み、軽いリンパ球や単球が上に残って分かれます。
これにより欲しい細胞だけを取り出せます。
遠心後の層構造(PBMCはどこにある?)
リンフォプレップの密度は約1.077 g/mLに設定されています。
この比重を境に、
・軽いPBMC(リンパ球・単球)は上に
・重い赤血球・顆粒球は下に
分かれます。
👉 細胞ごとに“重さ(密度)”が違うため、
密度を利用することでPBMCだけを分離することができます。
PBMCとは何か(リンパ球・単球の基礎)
PBMCは、Peripheral Blood Mononuclear Cellsの略で、
日本語では末梢血単核球と呼ばれます。
血液中の
・リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)
・単球
を指します。
これらはどちらも**核が1つ(単核)**であることが特徴で、
核を持たない赤血球や、核が分かれている顆粒球(好中球など)は含まれません。
免疫を担うのは白血球であるため、このPBMC層が解析に利用されます。
👉 多くの免疫系解析で使用される細胞群
・フローサイトメトリー
・ELISA
・細胞培養
【補足】なぜPBSで希釈するのか
リンフォプレップによる分離の前に、血液をPBSで希釈する工程があります。
これは単なる操作ではなく、分離精度を大きく左右する重要なステップです。
主な理由は以下の通りです。
■ 粘度を下げるため
血液はそのままだと粘度が高く、リンフォプレップの上にきれいに重ねにくくなります。
PBSで希釈することで流動性が上がり、層を崩さずに重層しやすくなります。
■ 密度勾配を保つため
血液が濃すぎると、リンフォプレップとの境界が不安定になり、分離がうまくいかなくなります。
適度に希釈することで、密度差による分離がきれいに起こりやすくなります。
■ 細胞同士の干渉を減らすため
血液中の細胞が密集していると、遠心時に細胞同士が引っかかりやすくなり、分離が乱れます。
希釈することで細胞が分散し、より理想的な分離が可能になります。
このように、PBSによる希釈は「操作をしやすくするため」だけでなく、
きれいな層を作るための前提条件となる重要な工程です。
よくある失敗(層が崩れる原因)
ここからはLympoprepを使って血液からPBMC層を分離するための注意点を挙げます。
① 層がぐちゃる(混ざる)
原因👇
- 血液を勢いよく重ねる
- ピペット操作が雑
👉 一発アウト
→ 分離できない
転倒混合は厳禁です!
② ブレーキかける
👉 遠心後にブレーキON
→ 層が崩壊
③ モヤモヤを取りすぎる
👉 欲張って深く吸う
→ 赤血球・顆粒球混入
④ 回収が少なすぎる
👉 ビビって薄くしか取らない
→ 細胞数不足
⑤ 洗浄不足
👉 リンフォプレップ残る
→ 細胞にダメージ or 後工程に影響
現場のコツ(きれいに分離するポイント)
コツ①:重ねるときは「そっと」
👉 壁伝いにゆっくり重層します。
イメージ:「水の上に油を乗せる」感じ
コツ②:遠心はブレーキなし
👉 絶対に自然停止
コツ③:モヤモヤは“中間だけ取る”
👉 上すぎ → 血漿
👉 下すぎ → 汚染
コツ④:透明感を見る
👉 きれいな層は境界がはっきり
濁ってたら失敗気味
コツ⑤:欲張らない
👉 「きれいさ>回収量」
(フローサイトでは特に重要)
【ミニコラム】リンフォプレップはやり直せる?
「もし分離に失敗して、全部ごちゃ混ぜになってしまったら、もう一度リンフォプレップを使えば元に戻るのでは?」
これは現場でもよく出る素朴な疑問です。
結論から言うと、理論上は再分離も可能ですが、純度や回収率が低下しやすいため、
現場では新しいサンプルでやり直すことが一般的です。
その理由は、リンフォプレップ分離が「きれいな層を作ること」を前提としているためです。
一度遠心して混ざってしまった細胞は、
・赤血球や顆粒球とPBMCが物理的に絡み合う
・死細胞や破片が増える
・サンプル全体が不均一になる
といった状態になり、本来の「密度差による分離」がうまく働かなくなります。
その結果、再度リンフォプレップを使っても、
・境界がぼやける
・PBMC層に不純物が混入する
・回収率や純度が低下する
といった問題が起こりやすくなります。
そのため現場では、無理にやり直すよりも、新しいサンプルでやり直す方が確実と判断されることが多いです。
リンフォプレップ分離は「やり直しが効きにくい工程」です。
だからこそ、最初の操作を丁寧に行うことが何より重要になります。
まとめ
- リンフォプレップは密度で細胞を分ける試薬
- 普通遠心では分離できない細胞を選別できる
- PBMCは免疫解析の主役
- 操作が雑だとすべて終わる
- 成功の鍵は「丁寧さ」と「欲張らないこと」
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1:リンフォプレップの役割として正しいものはどれ?
A. 細胞を増やす
B. 細胞を染色する
C. 細胞を密度(重さ)で分離する
Q2:リンフォプレップ遠心後、PBMCはどこに現れる?
A. 一番上の透明な層
B. 分離液の上の白い層
C. 一番下の赤い層
Q3:PBMCに含まれる細胞として正しいものはどれ?
A. 赤血球
B. 好中球(顆粒球)
C. リンパ球と単球
答え
Q1:C
Q2:B
Q3:C
リンフォプレップは「技術」寄りの工程です。
理屈はシンプルですが、
- 手の震え
- ピペットの角度
- スピード
で結果が変わります。
だからこそ、ここが上手にできるようになると一気に“現場力”が上がります。
