PCRはどうやってDNAを増やすのか?変性・アニーリング・伸長反応をやさしく解説

遺伝子検査

【結論】PCRは「ほどく・くっつける・伸ばす」を繰り返す

PCRは、温度を上げたり下げたりしながら、DNAを増やす方法です。
基本的には、「DNAをほどく」「プライマーをくっつける」「DNAを伸ばす」という3つの流れを繰り返します。
専門用語では、それぞれ変性、アニーリング、伸長反応と呼ばれます。

PCRでは何を混ぜているの?

PCRでは、DNAを増やすために必要な材料を、小さなチューブの中に入れます。

主な材料は、次のようなものです。

PCRは、これらの材料を混ぜた反応液に、温度変化を加えることで進みます。

つまりPCRは、
材料を入れたチューブを温めたり冷やしたりしながら、DNAをコピーしていく反応です。

この中でも特に大事なのが、テンプレートDNA、プライマー、dNTP、DNAポリメラーゼです。

テンプレートDNAをもとに、プライマーを出発点として、dNTPを材料にしながら、DNAポリメラーゼが新しいDNAを伸ばしていきます。

この温度変化を自動で行う機械を、サーマルサイクラーといいます。

サーマルサイクラーは、設定した温度と時間に合わせて、
反応液を温めたり冷やしたりするPCR専用の装置です。
たとえば、サーマルサイクラーのプログラムでは、
PCRでは次のように温度を切り替えながら反応を進めます。

PCRでは、最初に初期変性を行い、その後「変性・アニーリング・伸長」を1サイクルとして何度も繰り返します。
最後に最終伸長を行い、反応終了後は4℃で保持します。

PCRは最初に「初期変性」を行うことがある

PCRでは、3ステップのサイクルに入る前に、最初に一度しっかり高温にすることがあります。

この工程を初期変性と呼びます。
英語では Initial denaturation といいます。

初期変性では、反応液を94〜95℃前後に数分間加熱し、二本鎖DNAをしっかり1本鎖にほどきます。

そのあとで、

変性

アニーリング

伸長

の3ステップを1サイクルとして、何十回も繰り返します。

初期変性と、サイクル中の変性はどちらも「DNAをほどく」工程ですが、役割が少し違います。

初期変性は、PCR反応を始める前にDNAをしっかりほどくための工程です。
一方、サイクル中の変性は、増えたDNAを次のサイクルでまた鋳型として使うために、毎回2本鎖をほどく工程です。

ミニコラム|なぜ初期変性では、しっかりDNAをほどくの?

PCRの最初に入っているDNAは、まだ長い2本鎖DNAの状態です。
長いDNAやGC配列が多いDNAはほどけにくく、部分的に構造が残ることがあります。

DNAが十分にほどけていないと、プライマーが目的の配列に結合しにくくなり、その後の伸長反応も始まりにくくなります。

そのため初期変性では、PCRを始める前の準備として、テンプレートDNAをしっかり1本鎖にしておきます。

DNAをほどく|変性

PCRでは、一般的に94〜95℃前後まで温度を上げて、DNAの2本鎖を1本鎖にほどきます。
この工程を変性と呼びます。
熱によって起こすため、熱変性と呼ばれることもあります。

DNAは通常、2本の鎖が向かい合った「2本鎖」の状態です。

なお、このDNAの2本鎖を、便宜上、片方をセンス鎖、もう片方をアンチセンス鎖と呼ぶことがあります。
この2本の鎖は、AとT、GとCがペアになり、水素結合でつながっています。

PCRでは、高温にすることでこの水素結合が外れ、2本鎖DNAが1本鎖になります。
ほどけた2本の鎖は、それぞれ新しいDNAを作るための鋳型になります。

GC配列が多いDNAは結合が強く、ほどけにくいことがあります。
そのため、DNAの配列によっては温度条件の調整が必要になることがあります。

プライマーを結合させる|アニーリング

次に、温度を50〜65℃前後まで下げます。
温度を下げることで、プライマーが1本鎖DNAの相補的な配列に結合しやすくなります。

このステップをアニーリングと呼びます。
実際のアニーリング温度は、プライマーの配列や長さによって変わります。

プライマーとは、DNA合成を始めるために必要な短いDNAです。

DNAポリメラーゼは、何もない場所からいきなりDNAを作り始めることはできません。
そのため、まずプライマーがDNAに結合し、DNA合成の出発点を作ります。

PCRでは、Forward primer と Reverse primer という2種類のプライマーを使います。
この2本のプライマーが、増やしたい範囲をはさむように結合します。

ただし、プライマーの詳しい設計や、なぜ目的の長さだけ増えるのかについては、別の記事で詳しく説明します。

DNAを伸ばす|伸長

伸長反応は、一般的に72℃前後で行われます。
これは、よく使われる耐熱性DNAポリメラーゼが働きやすい温度だからです。
ただし、使用する酵素によって最適な温度や時間は変わります。

プライマーが結合すると、DNAポリメラーゼがそこを起点として新しいDNAを作り始めます。

DNAポリメラーゼは、テンプレートDNAの配列をもとに、
AにはT、GにはCのように対応するヌクレオチドを取り込んでいきます。
このとき、新しいDNAの材料になるのがdNTPです。

このヌクレオチドがつながることで、新しいDNA鎖が伸びていきます。
このステップを伸長反応と呼びます。

ただし、DNAが伸びる向きには重要なルールがあります。

DNAは、5’→3’方向にしか伸びません。

なお、DNAが5’→3’方向にしか伸びない理由については、
こちらの記事で詳しく解説しています。
👉5’と3’とは?DNAの向きをPCR初心者向けにやさしく解説

そのためPCRでは、Forward primerとReverse primerが、
それぞれ反対向きにDNAを伸ばせるように設計されています。

ちなみに、Reverse primerでは「逆相補配列」という考え方が出てきます。
ここは少し混乱しやすいポイントなので、詳しくはこちらの記事で解説しています。
👉プライマーの超入門|Reverse primerと逆相補配列をやさしく解説

PCRは指数関数的に増える

PCRでは、変性・アニーリング・伸長反応の3ステップを何十回も繰り返します。

この3ステップの1セットを、1サイクルと呼びます。

理想的には、1サイクルごとに対象となるDNAの量が約2倍になります。

たとえば、増やしたいDNAが1コピーあった場合、

のように増えていきます。

ただし、これはあくまで理論上のイメージです。
実際のPCRでは、試薬が少なくなったり、反応効率が下がったりするため、
後半は理論通りには増え続けません。

後半になると増え方がゆるやかになり、やがて頭打ちになります。

この頭打ちの状態を、プラトーと呼ぶことがあります。

このように、倍々に増えていくことを指数関数的に増えるといいます。

PCRでは、多くの場合、30〜40サイクルほど反応を繰り返します。

そのため、試料中に含まれるDNAがごくわずかでも、
解析できる量まで増やすことができます。

最後にDNAを仕上げる|最終伸長

PCRでは、最後に最終伸長という工程を入れることがあります。

最終伸長は、英語では Final extension と呼ばれます。

これは、伸長途中だったDNAを、最後にしっかり伸ばし切るための工程です。

一般的には、一般的には、72℃で5分前後などに設定されることがあります。

DNAポリメラーゼが、まだ伸び切っていないDNAを最後まで伸長することで、
目的のPCR産物を得やすくなります。


つまり最終伸長は、PCRの最後に行う「仕上げの時間」のようなものです。

4℃で保管する|Hold

PCRが終わると、装置は最後に低温で反応液を保管します。

この工程を Hold(ホールド) と呼びます。

多くの場合、Holdは

4℃

に設定されています。

PCR後の反応液を高温のまま放置すると、DNAや反応液の状態が不安定になることがあります。
そのため、サンプルを取り出すまで低温で一時的に保管します。

実際のPCR装置では、

4℃
∞

のように表示されることもあります。

これは、

サンプルを取り出すまで、4℃で保持し続ける

という意味です。

つまりHoldは、PCR反応そのものを進める工程というより、
PCRが終わった後にサンプルを一時的に保管するための設定です。

PCRで増えたDNAを「PCR産物」と呼ぶ

PCRで増えたDNAは、PCR産物と呼ばれます。

PCR産物の長さは、bpという単位で表されます。
たとえば500 bpなら、「500組の塩基対」という意味です。

PCR産物は、電気泳動で長さを確認したり、必要に応じて配列解析に使われたりします。

PCRにはどのくらい時間がかかる?

PCRにかかる時間は、サイクル数やDNAの長さ、使用する酵素によって変わります。

一般的には、1回のPCRに1時間半〜3時間程度かかることがあります。

たとえば、

95℃ 30秒
55℃ 30秒
72℃ 1分

を1サイクルとして35回繰り返すと、
サイクル部分だけでもかなりの時間がかかります。

さらに、最初の初期変性や最後の最終伸長を加えるため、
PCR全体では1時間以上かかることが多いです。

つまりPCRは、ボタンを押したらすぐ終わる反応ではなく、
温度を何度も切り替えながら、少しずつDNAを増やしていく反応です。

まとめ|PCRの基本的な流れ

PCRは、基本的に次のような流れで進みます。

このようにPCRでは、温度を変えることで、それぞれの反応が起こりやすい状態を作っています。
高温でDNAをほどき、温度を下げてプライマーを結合させ、72℃前後でDNAを伸ばす、という流れを何度も繰り返します。

この流れを理解しておくと、サーマルサイクラーのプログラムも読みやすくなります。

たとえば、

95℃ 3分

95℃ 30秒
55℃ 30秒
72℃ 1分
× 35 cycles

72℃ 5分
4℃ Hold

のような表示を見たときに、

「これは変性、これはアニーリング、これは伸長だな」

と、反応の意味をイメージしやすくなります。

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