やさしい免疫学①では、免疫とは体を守るための 生体防御システム であるというお話をしました。では、免疫は体の中で 何に対して反応しているのでしょうか?
例えば
- なぜ花粉症が起こるのでしょうか?
- なぜ食物アレルギーが起こるのでしょうか?
その答えのカギとなるのが 抗原 です。
免疫の反応はすべて抗原 → 免疫反応という流れで始まります。
抗原とは?
抗原とは、免疫が認識する物質のことです。
抗原にはさまざまなものがあります。
代表的なものは
- 細菌
- ウイルス
です。
また、
- 花粉
- 食べ物
- ハチ毒などの昆虫毒
なども、人によっては抗原となり、免疫反応を引き起こします。
これがアレルギーの原因になります。
よく混同されがちですが、抗原=アレルゲンではありません。
例えばインフルエンザウイルスは抗原ですが、アレルギーは起こしません。
抗原の中でも、アレルギー反応を引き起こすものを アレルゲン と呼びます。
ここまで読まれて「抗原って異物のことじゃないの?」と思われた方もいるかもしれません。
実は、抗原とは「異物」という意味ではありません。
下記の表のように、抗原には大きく分けて 自己抗原 と 非自己抗原の2種類があります。

免疫学では、自分の体に存在しないもの(非自己)を一般的に 「異物」 と呼ぶことが多いです。
そして、私たちの体の中にも多くの抗原が存在します。
その代表的な例の一つが 血液型抗原 です。
詳細は後ほど解説します。
免疫は自分の抗原(自己抗原)には通常反応しないように調節されています。
抗原の構造と免疫が反応する特徴「エピトープ」
免疫は抗原全体を見ているわけではありません。
抗原の中にある、特徴的な部分だけを認識しています。
これは、人が相手を顔で見分けるのと少し似ています。
私たちは相手の体全体を覚えているわけではなく、
- 目の形
- 鼻の形
- 口の形
などの特徴を手がかりにして、人を見分けています。
免疫も同じように、抗原の中にある特徴的な部分を手がかりにして異物を識別しています。
この部分を エピトープ(抗原決定基) と呼びます。
抗原はさまざまな形をした分子で、免疫は抗原分子の立体構造を認識しています。
抗原と間違えやすい言葉
ここでよく似た言葉があります。
抗原 と 抗体 です。
名前が似ているので混乱しやすいですが、
- 抗原→ 免疫が反応する物質(細菌、ウイルスなど)
- 抗体→ 抗原の特徴的な部分(エピトープ)に結合する免疫の武器
です。
抗体は抗原全体に結合するわけではなく、抗原の中にある エピトープ(抗原決定基) に結合します。
抗原と抗体の関係
抗原と抗体は、「鍵と鍵穴の関係」に例えられることがよくあります。
ある抗原に対して、それにぴったり合う抗体が体の中で作られます。
まるでシンデレラの靴のようにぴったり合うのです。
このように、抗体が抗原のエピトープに結合する反応を抗原抗体反応と呼びます。
抗原抗体反応は、体の中だけではなく、実は多くの免疫検査に利用されています。
例えば
- 感染症検査
- 食物アレルギー検査
- ELISA検査
などです。
特定の抗原と抗体が結合する性質を利用することで、
体の中にどの物質が存在するかを調べることができます。
抗原の形が似ていると起こること
抗体は抗原にぴったり合うように作られる、と書きましたが、実際には抗原の特徴となるエピトープの立体構造に合うように作られています。
そのため、立体構造が似ていると、別の抗原であっても免疫が誤認して反応してしまうことがあります。
例えば、甲殻類アレルギーは、エビやカニの持つトロポミオシン(tropomyosin)というタンパク質に対して反応しますが、ダニやゴキブリのたんぱく質とトロポミオシンは立体構造が似ていると言われています。
そのため、ダニアレルギーを持つ人は甲殻類アレルギーを起こす可能性がある、と言われています。
このように別の物質であるにもかかわらず、たんぱく質の立体構造が似ていることで免疫反応が起こることを、**交差反応(cross-reactivity)**と言います。
顔が似ていると別人でも間違えることがあるように、エピトープが似ていると免疫が別の抗原にも反応することがあるのです。
交差反応は免疫検査における偽陽性の要因となることがあり、分析の現場では注意が必要です。
また、抗原はタンパク質であることが多いですが、必ずしもタンパク質とは限りません。
例えば薬剤などの小さな分子は、そのままでは抗原になれません。
しかし体のタンパク質と結合すると、免疫が認識する抗原になることがあります。
これを ハプテン と呼びます。
血液型は抗原
先ほど抗原は私たちの体の中にもたくさん存在すると書きました。
そして私たちにとって最も身近な抗原は、血液型かもしれません。
赤血球の表面には 血液型抗原という目印 があり、この違いによってA型、B型、AB型、O型に分かれています。
例えば、A型の人は赤血球の表面に A抗原 を持っています。
そして血漿中には 抗B抗体 と呼ばれる抗体を持っています。
そのため、B抗原を持つ血液を輸血されると、抗B抗体とB抗原が反応してしまいます。
もし異なる血液型の血液が体に入ると、免疫が反応して赤血球を破壊してしまう(溶血性輸血副反応)ことがあります。
これが輸血の際に血液型を合わせる必要がある理由です。
一方、O型の人は A抗原もB抗原も持っていません。
そのため、O型の赤血球は他の血液型の人にも輸血することができます。
しかしO型の人の血漿には 抗A抗体と抗B抗体の両方 があるため、O型以外の血液を輸血されると反応してしまいます。
これが、O型の人は血液を あげることはできても、もらうことは難しい と言われる理由です。

つまり赤血球輸血では、患者の抗体が輸血された赤血球の抗原と反応しないことが重要です。
血液型にはABO式血液型のほかに、Rh式血液型というものがあります。
Rh抗原という目印を持つ人をRh+、持たない人をRh−と呼びます。
Rh−の母親がRh+の胎児を妊娠すると、免疫がRh抗原を異物と認識して抗体を作ることがあります。
これが次の妊娠で胎児の赤血球を攻撃してしまうことがあり、新生児溶血性疾患の原因になります。
臓器移植と拒絶反応
血液型のところで、異なる血液型の血液が体に入ると、免疫が知らない抗原を攻撃するという話をしました。
実はこの仕組みは 臓器移植 でも起こります。
例えば、腎臓移植や心臓移植をするとき、ドナーと患者の抗原が一致していないと、免疫が臓器を攻撃してしまうことがあります。
これを 移植拒絶(拒絶反応) と言います。
なぜ拒絶反応が起こるのでしょうか。
その理由は、体の免疫が
- 自分の抗原(自己抗原)は攻撃しない
- 自分ではない抗原(非自己抗原)は攻撃する
というルールで動いているからです。
移植された臓器は、免疫から見ると「自分ではない抗原を持つ臓器」 です。
そのため免疫細胞は移植された臓器を異物と判断し、攻撃してしまいます。
臓器移植で重要なHLA
そこで臓器移植では HLA(ヒト白血球抗原) と呼ばれる抗原が重要になります。
HLAは血液型とは別の抗原で、体の多くの細胞の表面に存在しています。
これは人それぞれ異なる 「自己の目印」 のようなものです。
免疫はこのHLAを手がかりにして、
それが 自分の細胞なのか、それとも他人の細胞なのか を判断しています。
HLAの組み合わせは非常に多く、数万種類以上あると言われています。
そのため、完全に一致する人はほとんどいません。
ただし
・親子
・兄弟
では一致する確率が高くなります。
そのため骨髄移植では 兄弟ドナー がよく使われます。
まとめ
ここまでを整理すると、抗原には
- 自己抗原(自分の体に存在する抗原)
- 非自己抗原(自分の体には存在しない抗原)
の2種類があります。
免疫の本質は、自己と非自己を見分ける仕組み なのです。
免疫は、この違いを見分けることで体を守っています。
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1. 抗原とは何でしょう?
A 免疫が認識する物質
B 免疫の武器
C 体をつくる細胞
Q2. 抗原の中で免疫が認識する部分を何という?
A エピトープ
B ヒスタミン
C クラススイッチ
Q3. 免疫の基本的な役割はどれでしょう?
A 自己と非自己を見分ける
B すべての異物を排除する
C 体の細胞を増やす
答え
Q1:A
Q2:A
Q3:A
では、免疫はどのようにして抗原にぴったり合う抗体を作るのでしょうか?
次回は「抗体は体の中でどのように作られるのか?」について解説します。

