第1回 食物アレルギーとアナフィラキシーの違い|なぜ少量でも起こるのか

やさしい免疫学

はじめに

食物アレルギーとアナフィラキシー。
似た言葉ですが、同じ意味ではありません。

「少し食べただけなのに、どうしてそんなに強い反応が起こるの?」

そう疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。

この記事では、恐怖をあおるのではなく、
免疫の仕組みから落ち着いて理解することを目指します。

食物アレルギーとは

食物アレルギーとは、特定の食べ物に対して体の免疫が過剰に反応してしまう状態です。

本来、食べ物は体にとって栄養であり「敵」ではありません。
しかし体がそれを誤って“異物”と判断すると、排除しようとします。

その結果、

  • じんましん
  • かゆみ
  • 嘔吐

などの症状が現れます。

ここまでは「局所的な反応」のことも多いのです。

「局所的な反応」とは、
症状が皮膚だけ、あるいは消化管だけにとどまることがある、ということです。
「体の一部に限られた反応」と考えるとわかりやすいです。

アナフィラキシーとは

アナフィラキシーは病名というより、

アレルギー反応が全身に急激に広がった状態

を指します。

皮膚だけでなく、

  • 呼吸器
  • 消化器
  • 循環器(血圧)

など複数の臓器に症状が同時に出ることがあります。

そのため、状況によっては命に関わることもあります。

Ⅰ型アレルギー(即時型)とIgE

食物アレルギーの多くは
「Ⅰ型アレルギー(即時型)」と呼ばれるタイプです。

“即時型”という名前の通り、
原因となる食物が体に入ってから数分〜30分ほどで症状が現れます。

この即時反応に深く関わっているのが、
IgE(免疫グロブリンE)という抗体です。

IgEとは何か

抗体とは、体内に入ってきた異物を見分けるタンパク質です。

IgEはその中でも、アレルギー反応を担当する抗体です。

IgEは「肥満細胞」という細胞の表面にくっついて待機しています。
肥満細胞は血液中ではなく、皮膚・粘膜・組織に存在しています。

まだ症状が出ていない状態でも、IgEは静かに準備をしています。

なぜ少量でも起こるのか

ここが一番大切なポイントです。

アナフィラキシーは、たくさん食べたから起こるという量の問題ではありません。

問題は「増幅の仕組み」です。

再び同じ食物が体内に入ると、

1つの抗原(食物タンパク質)が
2つ以上のIgEを同時につなぐことがあります。
これを「架橋(かきょう)」といいます。

この瞬間、肥満細胞がスイッチを押されたように反応し、

  • ヒスタミン
  • ロイコトリエン など

さまざまな物質を一斉に放出します。

この「一斉に」というところが重要です。

少量であっても、
免疫の増幅スイッチが入れば反応は連鎖的に広がります。

物質主な作用
ヒスタミンかゆみ・血管拡張・血管透過性亢進
ロイコトリエン気道収縮・持続的炎症

アレルギーとアナフィラキシーの科学的な違い(IgEと肥満細胞の仕組み)

ここからは少しだけ仕組みを深掘りします。

肥満細胞の表面には、IgEが何千~何万個も結合しています。

しかし、IgEが1つだけ抗原に結合しても、細胞は基本的に反応しません。

なぜ「2つ以上」でスイッチが入るのでしょうか。

それは、IgEの受容体(FcεRI)が複数同時に近づくことが、ヒスタミン放出の合図になるからです。
この現象を「架橋(かきょう)」といいます。

肥満細胞はあらかじめヒスタミンを大量に蓄えていますが、弱い刺激では放出されません。

一定以上の刺激が加わったとき、はじめて一斉放出が起こります。
この「一定以上の刺激」のことを、閾値(しきい値)と考えると理解しやすいでしょう。

つまり、反応は単純に抗原の量に比例するのではなく、

・架橋が成立し
・受容体が十分に集まり
・閾値を超えるかどうか

で決まります。

たとえ抗原がわずかであっても、条件がそろえば閾値を超え、ヒスタミンが一斉に放出されることがあります。

肥満細胞は全身に分布しています。

ある部位の肥満細胞だけが閾値を超えれば、反応はその部位に限られます。

しかし、全身の肥満細胞が同時に閾値を超えると、反応は全身へと広がります。
これがアナフィラキシーです。

その境界線は、抗原の吸収速度、IgEの量、体調、体質など、複数の要因によって決まります。
また、空腹かどうか、風邪をひいているか、運動直後か、月経周期やアルコール摂取などによっても閾値は変わります。

アナフィラキシーは偶然ではなく、複数の条件が重なったときに起こる反応です。
そのため「昨日は大丈夫だった」ということが起こります。

なぜ命に関わることがあるのか

ヒスタミンなどの物質は、

  • 血管を広げる
  • 血管の壁をゆるめる
  • 気道を狭くする

といった作用を持ちます。

血管が一気に広がると、体中に血液を送り出す力が足りなくなり、意識が遠のくことがあります。

これがアナフィラキシーショックと呼ばれる状態です。

つまり、

アナフィラキシーは「毒の強さ」ではなく、
「免疫の増幅スイッチが作動するかどうか」の問題なのです。

エピペンの役割

エピペンに含まれているのはアドレナリンという薬です。

アドレナリンは、

  • 血管を収縮させる
  • 血圧を保つ
  • 気道を広げる

といった働きで、
暴走した反応を抑えます。

エピペンは症状を治す薬というより、
命を守るための時間を作る薬といえます。

症状が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診してください。

まとめ

食物アレルギーは体質です。
アナフィラキシーはその反応が全身に広がった状態です。

少量で起こることがあるのは、
免疫が持つ「増幅の仕組み」によるものです。

仕組みを理解すると、
必要以上に怖がるのではなく、正しく備えることができます。

タイトルとURLをコピーしました