食品中のアレルゲン検査では、
スクリーニング検査としてELISA法、確認検査としてPCR法やウエスタンブロット法(Western blot、以下WB)が用いられます。
しかし、
- 何が違うのかよくわからない
- なぜ複数の方法を使うのか疑問
- どれが正確なのか知りたい
という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ELISA、PCR、ウエスタンブロット(WB)の違いを、「何を見ているか」という視点から整理し、実際の現場での使い分けまでわかりやすく解説します。
ELISA、PCR、WBの違いは「見ているもの」
まず結論から言うと、ELISA・PCR・WBは「見ているもの」がそれぞれ異なります。
3つの違いを整理すると、以下のようになります。

同じ「カシューナッツが入っているか」を調べていても、見ている対象はまったく異なります。
ELISAの特徴(タンパク質を検出)
ELISAは抗原抗体反応を利用し、特定のタンパク質を検出する方法です。
メリット
- 実際に存在するタンパク質を検出できる
- 多検体を同時に処理できる
- スクリーニング検査に適している
デメリット
- 検査に時間がかかる(前処理を含めて半日〜1日以上)
- 加工や加熱によりタンパク質が変性すると検出しにくい
- 偽陽性・偽陰性が生じる可能性がある
ELISAの原理や手順については、こちらの記事で詳しく解説しています。
👉ELISA法とは?原理と実務で大事なポイントをやさしく整理
PCRの特徴(DNAを検出)
PCRはDNAを増幅して検出する方法です。
食品検査では、主にリアルタイムPCRが用いられます。
リアルタイムPCRとは?
食品検査で使われるPCRは、多くの場合「リアルタイムPCR」と呼ばれる方法です。
通常のPCRとの違い
- 通常のPCR → DNAが増えたかどうかを最後に確認する
- リアルタイムPCR → DNAが増えていく過程をリアルタイムで測定する
👉 そのため、
- 定量(どのくらいあるか)が可能
- より高い精度で判定できる
という特徴があります。
※この記事では、PCRは主にリアルタイムPCRを指します。
リアルタイムPCRの位置づけ
食品検査では、従来のPCR法に加えて、リアルタイムPCRが広く用いられています。
リアルタイムPCRは本来、DNA量を測定(定量)することが可能な方法ですが、
実際の現場では、一定の基準値をもとに、陽性・陰性を判定する「定性検査」として運用されることも多くあります。
メリット
- 加工後でもDNAが残っていれば検出できる
- 特異性が高い(目的の遺伝子配列を選択的に検出できる)
デメリット
- タンパク質が存在するかはわからない※
- 操作がやや複雑
- コストが高い
※PCRは遺伝子(DNA)を検出する方法です。
DNAは「設計図」のようなもので、そこからタンパク質(実際に働く物質)が作られます。
しかし、
- DNAが残っていても、タンパク質は壊れていることがある
- 逆に、DNAは壊れていても、タンパク質は残っていることもある
つまり、
- PCRは「設計図があるか」を確認する検査であり、
- ELISAは「実際にできあがった製品(タンパク質)があるか」を確認する検査です。
そのため、PCRで「DNAがある」とわかっても、実際にタンパク質が存在するかどうかまでは判断できません。
陽性結果が出た場合の考え方
PCRなどの確認検査で陽性となった場合でも、
最終的な表示の判断は、検査結果だけで行われるわけではありません。
実際には、
- 原材料の使用状況
- 製造記録
- 製造工程
- 必要に応じた再検査
などを踏まえて、総合的に判断されます。
また、PCRは標的DNAを検出する方法であるため、
- 原材料由来の含有なのか
- 製造工程でのコンタミネーションなのか
といった点もあわせて確認する必要があります。
このような判断は、消費者庁が示している判断フロー(いわゆる判断樹)に基づいて行われます。
詳細な判断基準については、以下の資料をご参照ください。
👉消費者庁のアレルゲン表示に関する判断フロー(PDF)はこちら
※該当箇所は資料内の44ページ付近(別添1)をご参照ください。
ウエスタンブロットの特徴
タンパク質を検出する方法としては、ELISA以外にウエスタンブロット法があります。
ウエスタンブロットは、電気泳動でタンパク質を分離した後、抗体で検出する方法です。
タンパク質のサイズや特異性を確認できるのが特徴です。
メリット
- タンパク質のサイズを確認できる
- 特異性が高く、「本当にそのタンパク質か」を確認できる
- ELISAで検出された結果の裏付けとして使える
デメリット
- 手間と時間がかかる
- 多検体処理に向かない
- 定量にはあまり向かない
ELISAとの違い
- ELISA → 定量(どれくらいあるか)
- ウエスタンブロット → 確認(本当にそのタンパク質か)
食品アレルゲン検査での位置づけ
食品アレルゲン検査では、ELISAでスクリーニングを行い、必要に応じてウエスタンブロットで特異性を確認する、といった使い分けがされることがあります。
特に、卵や乳などでは、タンパク質の同定(本当にその成分か)を確認する目的で用いられることがあります。
なぜPCRでは判別できない場合があるのか
鶏卵や牛乳は、それぞれ鶏や牛に由来するため、PCRで検出されるDNAだけでは、
肉由来なのか、卵や乳由来なのかを区別することが難しい場合があります。
なぜELISAとPCR、WBを組み合わせるのか
食品中のアレルゲン検査では、ELISA法がスクリーニング検査として用いられ、
まず「アレルゲンが含まれているかどうか」を広く確認します。
その後、確認検査として、目的に応じて、
PCR法(リアルタイムPCRを含む)やウエスタンブロット法が用いられます。
なぜ複数の検査が必要なのか
その理由は、カシューナッツを人に例えると、
- ELISA → 顔(見た目:タンパク質)
- WB → 指紋(特異的な構造)
- PCR → 身元情報(DNA)
をそれぞれ確認しているイメージです。
複数の情報を組み合わせることで、より確実に本人確認ができます。
検査を組み合わせる理由
それぞれの検査には、得意・不得意があります。
- ELISA:多検体処理が可能でスクリーニングに適している
- PCR:遺伝子レベルで高い特異性を持つ
- WB:タンパク質の特異性を確認できる
一方で、
- ELISAだけでは見逃しや誤検出の可能性がある
- PCRだけではタンパク質の有無まではわからない
- WBは手間やコストがかかる
といった限界もあります。
現在の食品アレルゲン検査では、このように複数の手法を組み合わせて判断する運用が一般的です。
ELISAだけでは不十分な理由
- タンパク質が壊れていると検出できない
- 他の物質に反応する可能性がある
PCRだけでは不十分な理由
- DNAがあっても、タンパク質が存在するとは限らない
WBだけでは不十分な理由
- 手間と時間がかかり、多検体処理が難しい
- 非特異反応が起こる可能性がある
だから組み合わせる
👉 そこで、
- ELISAで「実際にタンパク質があるか」を確認
- PCRで「本当にその原材料か」を確認
- WBで「タンパク質が正しいものか(特異性)」を確認
それぞれの弱点を補い合うことで、検査の信頼性を高めています。
現場での使い分け
食品アレルゲン検査では、
① ELISA(スクリーニング)
↓
② PCRまたはWB(確認検査)
という流れで進められることが一般的です。
まず広くチェックし、必要に応じて、別の方法で精密に確認します。
ELISA、PCR、WBは、どれが優れているかを比べるものではなく、それぞれ役割の異なる検査です。
まとめ
- ELISAはタンパク質を見る
- PCRはDNAを見る
- WBはたんぱく質の特異性を見る
- それぞれに強みと限界がある
- 組み合わせることで精度を高めている
食品アレルゲン検査では、ELISA・PCR・ウエスタンブロットの3つを目的に応じて使い分けることが重要です。
