フローサイトメトリーでは、複数の蛍光色素を同時に使用すると、
スペクトルオーバーラップによって信号が混ざってしまいます。
では、この混ざった信号はどうすればよいのでしょうか?
その答えが「コンペンセーション(補正)」です。
今日はコンペンセーションについて解説します。
コンペンセーションとは何か
コンペンセーションとは、スペクトルオーバーラップによって、他のチャンネルに混ざってしまった信号を補正する処理です。
蛍光色素は完全に分離されているわけではないため、
本来は別の検出器で測る光が、他のチャンネルにも入り込んでしまいます。
このとき、混ざった分だけ差し引いて、本来の信号に戻す
これがコンペンセーションの基本的な考え方です。
補足①(スペクトルオーバーラップの正確な意味)
※ここでいうスペクトルオーバーラップとは、エミッションスペクトル(蛍光の発光)の重なりを指します。
そもそも蛍光には2種類のスペクトルがあり、スペクトルオーバーラップで問題となるのはエミッションスペクトルです。

励起スペクトルの重なりとは別の概念なので、区別して理解することが重要です。
なぜコンペンセーションが必要なのか
例えば、
- FITC(緑)
- PE(オレンジ)
を同時に使った場合を考えます。
FITCは緑に光りますが、その“しっぽ”の一部はPEの検出器にも入り込みます。

その結果、PEチャンネルに、本来はないはずのFITCの信号が混ざることになります。
すると、
- 実際より強く見える
- 陰性なのに陽性に見える
つまり、正しいデータが得られなくなります。
コンペンセーションの考え方
ここで重要なのは、「どれくらい混ざっているか」は決まっているという点です。
例えば、FITCの光の10%がPEチャンネルに漏れる、と分かっていれば、
PEチャンネルの信号から「FITC由来の10%」を引く
という補正を行います。
観測された信号 − 混ざった分 = 本来の信号
混ざった光を 数学的に引き算して元の値を復元する処理 します。
これがコンペンセーションの基本です。

例えば、体重計に荷物を持って乗る場面を考えてみてください
- 自分の体重 + 荷物の重さ → 表示される
- 本当の体重を知るには?
荷物の重さを引く
これと同じで、混ざった分だけ引き算することで、本来の値に戻します
補足②(数学的に引き算の正体)
※実際には単純な引き算ではなく、複数の蛍光の影響を同時に補正するために、
線形同時方程式(行列計算)として処理されています。
ただし考え方としては「混ざった分を引く」と理解するとわかりやすいです。
補足③(混ざる割合は一定?)
※混ざる割合(スピルオーバー係数)は、同じ測定条件であれば一定とみなせますが、
・PMTの電圧設定
・レーザー強度
・フィルター構成(光学系)
などによって変化します。
そのため実際の測定では、毎回コントロールを用いて補正マトリクスを作成する必要があります。
どのように補正量を決めるのか(単一染色)
混ざる割合(何%漏れるか)は、単一染色(シングルカラー)で測定して決めます。
つまり、
- FITCだけ染めたサンプル
- PEだけ染めたサンプル
をそれぞれ測定し、どのチャンネルにどれだけ漏れるかを事前に計算します。
この情報をもとに、全てのデータに対して補正を行います
もう少し専門的に言うと、フローサイトメトリーの検出器は 複数の蛍光色素の光が混ざった“合計値”を測っています。
観測値(混ざった信号)を 線形代数で分解して 「本来のFITCの強さ」「本来のPEの強さ」 を復元するのがコンペンセーションです。
式で書くと以下のようになります。(参考):
まとめ
- 蛍光色素はスペクトルが広がるため、信号が混ざる
- これをスペクトルオーバーラップという
- 混ざった信号をその分だけ引き算するのがコンペンセーション
- これにより、本来の蛍光強度を正しく再現できる
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1:スペクトルオーバーラップとは何か、最も適切な説明はどれか。
A. 蛍光色素が分解してしまう現象
B. 蛍光が1つの波長だけで発光する現象
C. 蛍光の一部が他の検出器にも入り込んでしまう現象
Q2:コンペンセーションの目的として正しいものはどれか。
A. 蛍光を強くするため
B. 混ざった信号を分離し、正しい値に戻すため
C. 測定時間を短縮するため
Q3:FITCの光の一部がPEチャンネルに入り込んでいる場合、どのように補正するか。
A. PEの値をそのまま使う
B. FITCの値を足す
C. PEの値からFITC由来の分を引く
答え:Q1:C Q2:B Q3:C
コンペンセーションによって、複数の蛍光色素を同時に正しく測定できるようになります。
では、補正されたデータはどのように解析するのでしょうか?
次はゲーティングについて解説します。
