前回は、アレルギーとアナフィラキシーの違いについて整理しました。
抗原がIgEを架橋すると、肥満細胞のスイッチが入り、物質が放出される――
そこまでお話しましたね。
では今回は、そのときに放出される代表的な物質、
ヒスタミン
について整理していきます。
■ ヒスタミンは“悪者”なのか?
花粉症の薬は「抗ヒスタミン薬」。
じんましんの薬も「抗ヒスタミン薬」。
そう聞くと、ヒスタミン=悪い物質のように感じるかもしれません。
でも実は、ヒスタミンはもともと
体を守るために存在している物質です。
問題は「存在」ではなく、「出すぎること」。
ヒスタミンは免疫細胞そのものではなく、
免疫反応を動かす化学伝達物質(メディエーター)です。
■ ヒスタミンはどこにある?
ヒスタミンは主に
・肥満細胞
・好塩基球
の中の「顆粒(かりゅう)」と呼ばれる袋の中に蓄えられています。
普段は静かに待機していますが、
IgEが架橋されると肥満細胞が脱顆粒を起こし、ヒスタミンが一気に放出されます。
肥満細胞を水風船に例えるならば、IgEの刺激によって風船が割れて中身が一気に出るイメージです。
■ ヒスタミンは何をする?
ヒスタミンの主な作用は次の4つです。
① 血管を広げる(血管拡張)
血流が増え、
→ 赤くなる
→ 熱っぽくなる
といった変化が起きます。
② 血管を“漏れやすく”する(血管透過性亢進)
血管のすき間が広がり、血液成分が外へ出やすくなります。
→ むくみ
→ 鼻水
→ じんましん
の原因になります。
③ 神経を刺激する
かゆみを感じさせます。
④ 気管支を収縮させる
気道が狭くなり、息苦しさが起こります。
■ 本来の役割は「防御」
ヒスタミンは、
「異物が侵入した!炎症を起こして排除しよう!」
という緊急対応物質です。
血管を広げて免疫細胞を呼び込み、
血管を漏れやすくして戦いやすい環境を作ります。
炎症を火事に例えるなら、 ヒスタミンの仕事は、
- 血管を広げる
- 透過性を上げる
- 神経を刺激する
- 気管支を収縮させる
つまり
🔥「火が出たぞ!」
🚑「道を空けろ!」
🚒「応援を通せ!」
と指示を出す役であって、自分では菌を殺しません。
でも、体が炎症や感染と戦いやすい環境を一瞬で作る、
これがヒスタミンの仕事です。
つまり本来は、炎症を起こして
「侵入者を排除し、壊れた組織を修復するための総合防御反応」です。
■ ヒスタミンが本来活躍する場面
① 寄生虫感染
IgEは本来「寄生虫対策」の抗体です。
寄生虫侵入が侵入すると、IgEが結合し、肥満細胞の活性化により、
ヒスタミンが放出されます。
ヒスタミンは
・血管拡張
・腸管運動亢進(下痢)
・粘液分泌増加
を通して、異物を体外へ排出しようとします。
花粉症は、この「寄生虫モード」が誤作動している状態とも言えます。
② 傷や細菌への初期炎症
転んで赤く腫れる現象にもヒスタミンが関与しています。
傷ができることにより、肥満細胞が反応し、ヒスタミンが放出されることで、
血管拡張・透過性亢進が起こり、白血球が集まります。
つまりヒスタミンは、免疫細胞の通り道を作る係とも言えます。
③ 毒や異物の侵入
くしゃみ
鼻水
嘔吐
これらは異物排除反応です。
ヒスタミンは「早く外に出せ!」という緊急シグナルを出します。
④ 実は脳でも働いている
ヒスタミンは中枢神経系では神経伝達物質として働き、
・覚醒維持
・集中力
に関与しています。
だから抗ヒスタミン薬の一部は眠くなるのです。
■ なぜ症状になるのか?
花粉は命に関わる異物ではありません。
しかし免疫が「危険」と誤認すると、
本気の炎症反応を起こします。
その結果、
・鼻水が止まらない
・じんましんが出る
・血圧が下がる
といった症状になります。
つまり、
ヒスタミンが悪いのではなく、反応が過剰なのです。
■ アナフィラキシーでは何が起きている?
全身で大量のヒスタミンが放出されると、
・全身血管拡張
・急激な血圧低下
・気道狭窄
が起こります。
局所で起きれば「アレルギー症状」。
全身で急速に起きれば「アナフィラキシー」。
仕組みは同じでも、規模が違います。
※アナフィラキシーではヒスタミンだけでなく、
ロイコトリエンなど複数の炎症メディエーターが関与します。
■ ヒスタミン受容体の話
ヒスタミンは放出されるだけでは作用しません。
受容体に結合して初めて効果が出ます。
ヒスタミン = 鍵
受容体 = 鍵穴
鍵穴の種類によって、起こる現象が異なります。
ヒスタミン受容体は体のあちこちにあります。
🌿 ヒスタミン受容体は4種類
・H1
・H2
・H3
・H4
臨床的に重要なのはまず H1 と H2 です。
① H1受容体(アレルギーの主役)
📍分布
血管内皮・平滑筋・神経・気道・脳(中枢神経系)
📍作用
✔ 血管拡張
✔ 透過性亢進
✔ かゆみ
✔ 気管支収縮
→ これらがいわゆるアレルギー症状そのものです。
抗ヒスタミン薬(アレグラなど)は、
この H1受容体を遮断します。
「遮断する」とは、
受容体を占拠して、ヒスタミンが結合できないようにすることです。
つまり、受容体に先に座り、ヒスタミンの働きを発揮できなくする薬です。
ヒスタミンは、実は脳では
覚醒を保つ神経伝達物質としても働いています。
抗ヒスタミン薬が中枢神経に入り、脳のH1受容体まで遮断してしまうと、
覚醒を維持するヒスタミンの作用が弱まり、眠気が生じます。
※第一世代は中枢に入りやすく眠気が出やすい
※第二世代は血液脳関門を通りにくく、眠気が少ない設計
※第一世代と第二世代の違いについては、別記事で詳しく解説します。
② H2受容体(胃酸)
📍分布
胃壁細胞・血管・心臓
📍作用
✔ 胃酸分泌促進
✔ 一部血管拡張
H2ブロッカー(ファモチジンなど)は胃酸を抑えます。
アナフィラキシーではH1+H2両方を併用することもあります。
③ H3受容体(脳の調整役)
📍分布
中枢神経系
📍役割
ヒスタミン放出を抑制する自己調節機構
覚醒維持に関与します。
④ H4受容体(免疫系)
免疫細胞に発現し、炎症調整に関与。
現在も研究が進んでいる受容体です。
■ 受容体が異なるから作用が違う
ヒスタミンは1種類、ですが、受容体が違うので作用も違います。
だから
・鼻水が出る
・胃酸が出る
・眠くなる
という多様な反応が起こるのです。
■ アレルギー治療で重要なのは?
アレルギーの主役となるH1受容体です。
だから抗ヒスタミン薬はH1ブロッカーになります。
しかしアナフィラキシーでは
ヒスタミン以外の物質も関与するため、
抗ヒスタミン薬だけでは不十分。
→ そこでエピネフリンが必要になります。
ここはやさしい免疫学 第4回で解説します。
■ まとめ
ヒスタミンは、
✔ 異物侵入の警報装置
✔ 免疫細胞を呼ぶ交通整理係
✔ 排出を促す非常ボタン
本来は「命を守る即応システム」。
しかし出すぎると症状になる。
防御反応の“やりすぎ”がアレルギーです。
次回は、そのヒスタミンを放出する細胞――
肥満細胞とは何か?について整理していきます。
