フローサイトメトリーを勉強していると、こんな疑問が湧きませんか?
- CD抗原って何十種類もあるのに…色は3種類だけ?
- じゃあ、どうやって4種類以上の抗原を見分けるの?
これは私が学んできて、実際に浮かんだ疑問です。
この記事では、この疑問を出発点にして
- フローサイトメトリーで複数の抗原を同時に測れる理由
- 「多変量解析」とは何をしているのか
- 蛍光色素とレーザーの関係
- スペクトルオーバーラップとコンペンセーションの本質
を、初心者でもイメージできるように解説していきます。
フローサイトメトリーの本質は「すべての色を同時に読む」こと
結論から言うと、
フローサイトメトリーは、1つの細胞についた“すべての色”を同時に読み取っています。
例えば、ある細胞に
- 緑
- オレンジ
- 赤
の3つの蛍光色素がついていたとします。
フローサイトメトリーはこれをバラバラに測るのではなく、“一度にまとめて”取得します。
1回の測定で“細胞の情報を丸ごと保存している”とも言えます。
このとき得られるのは、1つの細胞に対して複数の情報が並んだデータです。
これを「多変量データ」と呼びます。
そして取得した多変量データはあとから自由に切り出して解析できます。
つまり、
- 「緑と赤だけで見る」
- 「オレンジだけで見る」
- 「全部の組み合わせで見る」
といったことが可能です。
「まず全部取る。あとから好きに見る。」これがフローサイトメトリーです。
このように、複数の情報を組み合わせてデータを読み解くことを「多変量解析」と言います。
多変量データを解析する=多変量解析
イメージするために、生体認証で考えてみてください。
例えば、
- 身長
- 体重
- 顔の形
といった複数の情報を、一度にスキャンします。
そして、そのデータを使って
👉 「身長と体重だけで比較する」
👉 「顔の特徴だけで比較する」
といったように、あとから必要な情報だけを取り出して判断することができます。
フローサイトメトリーもこれと同じで、1つの細胞から複数の情報(多変量データ)を同時に取得し、あとから自由に解析しているというイメージです。
このように、複数の項目を同時に測定し、まとめてデータとして扱う手法は、ICPなど他の分析でも広く用いられています。
細胞は「色の組み合わせ」で識別される

例えば、上記の表で考えてみます。
ヘルパーT細胞は、CD3とCD4という2つの抗原を持っています。
もし、
- CD3に赤(APC)
- CD4に緑(FITC)
の蛍光色素が結合していれば、この細胞は「緑+赤」として検出されます。
このように、細胞は1色ではなく“複数の色の組み合わせ”として検出されます。
そして検出される色は「抗原そのもの」ではなく、「抗体に結合した蛍光色素」によって決まります。
つまり、CD4だから緑、というわけではなく、CD4にどの色素をつけたかで色が決まります。
そのため同じ細胞でも、使う色素の組み合わせを変えれば、違う色として見えることになります。
フローサイトメトリーは1細胞の情報を丸ごと取得している
フローサイトメトリーは1つの細胞が流れてくると、 その細胞に結合している すべての蛍光抗体の光量(強度) を 同時に 測定します。
例:1細胞のデータ
CD45: 10000
CD3: 8500
CD4: 7900
CD8: 200
CD19: 50
CD56: 100
これが「その細胞を特徴づけるデータ」です。
そしてこれは色素の数が増えるほど、情報量が多くなり、細胞のデータが精密になっていきます。
もし8色なら8次元、20色なら20次元データが得られることになります。
色が増えるほど“細胞の顔認証精度”が上がる
- 3色 → 大雑把に分類
- 8色 → 主要リンパ球の分類
- 12色 → T細胞の機能・疲弊・メモリーまで
- 20色 → 免疫細胞の地図を丸ごと描ける
なぜ複数の抗原を同時に測れるのか?(色とレーザーの関係)
前回の記事では、代表的な蛍光色素として3種類を紹介しました。
しかし実際のフローサイトメトリーでは、10色以上の蛍光色素が使われることも珍しくありません。
蛍光色素は「色(波長)」が違えば別物として検出できます。
波長が違えば、機械側で分離して検出できるため、 色素の種類が増えるほど、同時に測定できる抗原の数も増えます。
さらに、フローサイトメーターには複数のレーザーが搭載されています。
例:
- 405 nm(紫)
- 488 nm(青)
- 561 nm(黄緑)
- 640 nm(赤)
蛍光色素は 「どのレーザーで励起され、どの波長で光るか」 がそれぞれ異なります。
つまり、レーザーの種類 × 蛍光色素の発光波長の組み合わせ によって、同時に検出できる“色”が増える仕組みになっています。
たとえば、3レーザー機(405 nm, 488 nm, 640 nm)を搭載した装置では以下のような蛍光が同時検出できます。
405 nm レーザー:BV421, BV510, BV605 など
488 nm レーザー:FITC, PE, PerCP など
640 nm レーザー:APC, Alexa Fluor 700 など
このような構成では、一般的に10色前後の抗原を同時に識別することが可能です。
また、色同士の重なり(スペクトルオーバーラップ)を補正するために、コンペンセーションという技術が用いられ、多色解析が可能になります。
色が増えると起こる問題(スペクトルオーバーラップ)
ただし、色が増えると別の問題も出てきます。
色同士が混ざってしまう現象(スペクトルオーバーラップ)です。
コンペンセーションとは?(詳細は別記事へ)
この問題を解決するために、コンペンセーション(補正)という技術が使われます。
※このあたりは少し難しいので、別の記事で詳しく解説します。
まとめ:なぜ4種類以上の抗原を見分けられるのか?
フローサイトメトリーは、細胞についた色を1つずつではなく、一度にまとめて読み取っています。
細胞は、どの色がついているかの組み合わせで見分けられます。
つまり、1つの細胞に複数の抗原があれば、複数の色を持つ細胞として検出されます。
しかも、実際に使える蛍光色素は3色以上あります。
さらに、装置には複数のレーザーがあるため、たくさんの色を同時に扱えます。
このしくみによって、フローサイトメトリーでは4種類以上の抗原も同時に見分けることができるのです。
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1: ヘルパーT細胞はどのように検出されるか?
A. 1つの色
B. 色の強さ
C. 複数の色の組み合わせ
② スペクトルオーバーラップとは?
A. 光が消える現象
B. 色が混ざる現象
C. 細胞が壊れる現象
③ コンペンセーションとは?
A. 光を強くする
B. 混ざった光を補正する
C. 細胞を増やす
(答え:C / B / B)
