フローサイトメトリー入門⑥どうやって複数のCD抗原を見分けるのか?【初心者向けに完全解説】

やさしい免疫学

フローサイトメトリーを勉強していると、こんな疑問が湧きませんか?

  • CD抗原って何十種類もあるのに…色は3種類だけ?
  • じゃあ、どうやって4種類以上の抗原を見分けるの?

これは私が学んできて、実際に浮かんだ疑問です。

この記事では、この疑問を出発点にして

  • フローサイトメトリーで複数の抗原を同時に測れる理由
  • 「多変量解析」とは何をしているのか
  • 蛍光色素とレーザーの関係
  • スペクトルオーバーラップとコンペンセーションの本質

を、初心者でもイメージできるように解説していきます。

フローサイトメトリーの本質は「すべての色を同時に読む」こと

結論から言うと、
フローサイトメトリーは、1つの細胞についた“すべての色”を同時に読み取っています。


例えば、ある細胞に

  • オレンジ

の3つの蛍光色素がついていたとします。

フローサイトメトリーはこれをバラバラに測るのではなく、“一度にまとめて”取得します。
1回の測定で“細胞の情報を丸ごと保存している”とも言えます。

このとき得られるのは、1つの細胞に対して複数の情報が並んだデータです。
これを「多変量データ」と呼びます。

そして取得した多変量データはあとから自由に切り出して解析できます。

つまり、

  • 「緑と赤だけで見る」
  • 「オレンジだけで見る」
  • 「全部の組み合わせで見る」

といったことが可能です。

「まず全部取る。あとから好きに見る。」これがフローサイトメトリーです。

このように、複数の情報を組み合わせてデータを読み解くことを「多変量解析」と言います。

多変量データを解析する=多変量解析

イメージするために、生体認証で考えてみてください。

例えば、

  • 身長
  • 体重
  • 顔の形

といった複数の情報を、一度にスキャンします。

そして、そのデータを使って

👉 「身長と体重だけで比較する」
👉 「顔の特徴だけで比較する」

といったように、あとから必要な情報だけを取り出して判断することができます。

フローサイトメトリーもこれと同じで、1つの細胞から複数の情報(多変量データ)を同時に取得し、あとから自由に解析しているというイメージです。

このように、複数の項目を同時に測定し、まとめてデータとして扱う手法は、ICPなど他の分析でも広く用いられています。

細胞は「色の組み合わせ」で識別される

例えば、上記の表で考えてみます。

ヘルパーT細胞は、CD3とCD4という2つの抗原を持っています。

もし、

  • CD3に赤(APC)
  • CD4に緑(FITC)

の蛍光色素が結合していれば、この細胞は「緑+赤」として検出されます。

このように、細胞は1色ではなく“複数の色の組み合わせ”として検出されます。

そして検出される色は「抗原そのもの」ではなく、「抗体に結合した蛍光色素」によって決まります。

つまり、CD4だから緑、というわけではなく、CD4にどの色素をつけたかで色が決まります。

そのため同じ細胞でも、使う色素の組み合わせを変えれば、違う色として見えることになります。

フローサイトメトリーは1細胞の情報を丸ごと取得している

フローサイトメトリーは1つの細胞が流れてくると、 その細胞に結合している すべての蛍光抗体の光量(強度)同時に 測定します。

例:1細胞のデータ

CD45: 10000
CD3: 8500
CD4: 7900
CD8: 200
CD19: 50
CD56: 100

これが「その細胞を特徴づけるデータ」です。

そしてこれは色素の数が増えるほど、情報量が多くなり、細胞のデータが精密になっていきます。

もし8色なら8次元、20色なら20次元データが得られることになります。

色が増えるほど“細胞の顔認証精度”が上がる

  • 3色 → 大雑把に分類
  • 8色 → 主要リンパ球の分類
  • 12色 → T細胞の機能・疲弊・メモリーまで
  • 20色 → 免疫細胞の地図を丸ごと描ける

なぜ複数の抗原を同時に測れるのか?(色とレーザーの関係)

前回の記事では、代表的な蛍光色素として3種類を紹介しました。

しかし実際のフローサイトメトリーでは、10色以上の蛍光色素が使われることも珍しくありません。

蛍光色素は「色(波長)」が違えば別物として検出できます。

波長が違えば、機械側で分離して検出できるため、 色素の種類が増えるほど、同時に測定できる抗原の数も増えます。

さらに、フローサイトメーターには複数のレーザーが搭載されています。

例:

  • 405 nm(紫)
  • 488 nm(青)
  • 561 nm(黄緑)
  • 640 nm(赤)

蛍光色素は 「どのレーザーで励起され、どの波長で光るか」 がそれぞれ異なります。

つまり、レーザーの種類 × 蛍光色素の発光波長の組み合わせ によって、同時に検出できる“色”が増える仕組みになっています。

たとえば、3レーザー機(405 nm, 488 nm, 640 nm)を搭載した装置では以下のような蛍光が同時検出できます。
405 nm レーザー:BV421, BV510, BV605 など
488 nm レーザー:FITC, PE, PerCP など
640 nm レーザー:APC, Alexa Fluor 700 など
このような構成では、一般的に10色前後の抗原を同時に識別することが可能です。
また、色同士の重なり(スペクトルオーバーラップ)を補正するために、コンペンセーションという技術が用いられ、多色解析が可能になります。

色が増えると起こる問題(スペクトルオーバーラップ)

ただし、色が増えると別の問題も出てきます。
色同士が混ざってしまう現象(スペクトルオーバーラップ)です。

コンペンセーションとは?(詳細は別記事へ)

この問題を解決するために、コンペンセーション(補正)という技術が使われます。

※このあたりは少し難しいので、別の記事で詳しく解説します。

まとめ:なぜ4種類以上の抗原を見分けられるのか?

フローサイトメトリーは、細胞についた色を1つずつではなく、一度にまとめて読み取っています。

細胞は、どの色がついているかの組み合わせで見分けられます。

つまり、1つの細胞に複数の抗原があれば、複数の色を持つ細胞として検出されます。

しかも、実際に使える蛍光色素は3色以上あります。

さらに、装置には複数のレーザーがあるため、たくさんの色を同時に扱えます。

このしくみによって、フローサイトメトリーでは4種類以上の抗原も同時に見分けることができるのです。

今日のおさらい

~ちょっと考えてみよう~

Q1: ヘルパーT細胞はどのように検出されるか?
A. 1つの色
B. 色の強さ
C. 複数の色の組み合わせ


② スペクトルオーバーラップとは?
A. 光が消える現象
B. 色が混ざる現象
C. 細胞が壊れる現象


③ コンペンセーションとは?
A. 光を強くする
B. 混ざった光を補正する
C. 細胞を増やす


(答え:C / B / B)


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