第6回:なぜアレルギー体質になるのか?

やさしい免疫学

― Th1/Th2バランスと免疫寛容 ―

花粉症になる人とならない人。
食物アレルギーを持つ人と持たない人。

この違いはどこから生まれるのでしょうか?

今日は

  • アレルギー体質とは何か
  • 子どもにアレルギーが多い理由
  • 免疫寛容(tolerance)との関係

を整理します。

■ アレルギーは遺伝するの?

まず大事なポイント。

アレルギーそのもの(特定の花粉や食物に対する反応)が
そのまま遺伝するわけではありません。

IgE抗体は胎盤を通過しません。
胎盤を通過するのは IgG抗体 です。

つまり、

赤ちゃんはお母さんのIgEをもらって生まれてくるわけではなく、
IgEは生まれてから自分の体で作ります。

ただし――

IgEを作りやすい体質(アトピー素因)は遺伝することがあります。

これが「親がアレルギーだと子どももなりやすい」と言われる理由です。

■ 「アレルギー体質」とは何か?

そもそも体質とは:

✔ 生まれ持った傾向
✔ 長期的な免疫の方向性
✔ 環境との相互作用
✔ 可塑性(変わりうるかどうか)

を言います。

そして、アレルギー体質とは、

ある特定のアレルゲンに反応することではなく、

✔ Th2に傾きやすい
✔ IgEを作りやすい
✔ バリアが弱い
✔ 寛容が弱い

という「免疫の傾向」を持っている体質を指します。
つまり、アレルギーを発症するかどうかは、

遺伝 × 環境 × 発達段階

といった複合的な要因で決まります。

■ 免疫に関与するTh1・Th2とは何か?

では、アレルギー体質の傾向とは何でしょうか?

その一つとして挙げられるのがヘルパーT細胞(Th)です。

Th=T helper(ヘルパーT細胞)とは、

免疫の「司令官」です。

敵を見つけたときに

  • どの武器を使うか
  • どの部隊を動かすか

を決めます。

それによって体の中に侵入する様々な「敵」に備えています。

そしてヘルパーT細胞はTh1とTh2だけではなく、現在ではTh17やTregなど複数のタイプが知られています。
ただ、アレルギーの理解ではまず下記のTh1とTh2のバランスが基本になります。

Th1 と Th2 の比較一覧

■ Th1とTh2はシーソー関係

Th1が強いとTh2は抑えられ
Th2が強いとTh1は抑えられる
両者はバランスの関係です。

※現代免疫学では、「Th1が強ければTh2が弱い」という単純な二者対立ではなく、
多層的ネットワーク(Th17、ILC2、Tregなど)の中で相互制御されると考えられていますが、
説明をわかりやすくするため、表現を簡潔にしています。

アレルギーに関わる主なサイトカイン一覧

Th1やTh2がどのように体に影響を与えるのかは、
それぞれが分泌する「サイトカイン」によって決まります。

サイトカインとは、免疫細胞どうしが出し合う“指示の言葉”のような物質です。

アレルギーに関わる様々なサイトカインが体の中で作られています。

特にIL-4はB細胞に「IgEを作れ」と指示するため、アレルギー発症に深く関与しています。

様々なサイトカインの名称と種類を下記にまとめました。
気になる方は参考にしてください。

① Th2系サイトカイン(アレルギー促進側)

名称主な産生細胞主な役割アレルギーとの関与
IL-4Th2B細胞にIgEクラススイッチを促すIgE産生の中心。アレルギー成立に必須
IL-5Th2好酸球を増殖・活性化好酸球性炎症(喘息など)に関与
IL-13Th2粘液分泌促進・気道過敏性亢進鼻水・気道収縮・喘息症状に関与

👉 まとめ:IgEを作らせ、炎症を広げる方向

② Th1系サイトカイン(細胞性免疫側)

名称主な産生細胞主な役割アレルギーとの関与
IFN-γTh1マクロファージ活性化Th2を抑制(シーソー関係)
IL-2Th1T細胞増殖促進免疫全体の増幅に関与

👉 まとめ:感染防御型。Th2を間接的に抑える

③ Treg系サイトカイン(抑制・寛容側)

名称主な産生細胞主な役割アレルギーとの関与
IL-10Treg免疫抑制・炎症抑制Th2反応を弱める
TGF-βTreg免疫寛容維持経口免疫寛容形成に重要

👉 まとめ:ブレーキ役

④ 上皮由来サイトカイン(最近注目)

名称主な産生細胞主な役割アレルギーとの関与
TSLP上皮細胞Th2分化促進アレルギー初期誘導
IL-33上皮細胞Th2応答促進喘息・アトピーに関与
IL-25上皮細胞Th2増強好酸球性炎症促進

👉 まとめ:アレルギーを始動させる“危険シグナル”

  • アレルギーとは、IL-4系のアクセルが強く、IL-10系のブレーキが弱い状態。

■ なぜアレルギー体質があるの?

そして、アレルギーになりやすい人は

👉 Th2に傾きやすい体質

これを

アトピー素因

といいます。

■ アレルギー体質に影響する具体的な要因

① 遺伝的要因

  • IL-4関連遺伝子
  • IgE産生傾向
  • フィラグリン(皮膚バリア)

親がアレルギー体質だと子どももなりやすい理由です。

② バリア機能

皮膚や腸のバリアが弱いと

抗原が侵入しやすい
→ 感作されやすい

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが関連する理由です。

③ 環境要因

  • 微生物曝露の減少
  • 都市化
  • 抗菌過多
  • 食生活の変化

いわゆる 衛生仮説 と関連します。

微生物刺激が少ないことで、Th1刺激が弱くなり、
Th2優位が続き、IgE産生が進む、
という考え方です。

④ 免疫寛容の強さ

本来、免疫には

「これは敵じゃない」と無視する仕組み

があります。

これが弱いと感作されやすいです。

■ なぜ子どもにアレルギーが多いの?

さらに子どもの免疫は

🟡 生理的にTh2寄り

です。

これは異常ではありません。

なぜ最初からTh2優位なのかというと、

妊娠中、Th1反応が強すぎると
胎児を攻撃してしまう可能性があるからです。

そのため胎児期は

👉 Th2優位環境

で守られています。

その流れを引き継いで生まれてくるのです。

■ 子どもの免疫形成

そして生まれたばかりの子どもの免疫は、まだ発展途中です。

具体的には、

  • 腸のバリア機能が十分に整っていない
  • 皮膚が薄く、外からの刺激を受けやすい
  • 腸内細菌のバランスがまだ安定していない
  • 免疫寛容(無害なものを無視する力)が完成していない

という状態にあります。

その結果、

抗原(花粉や食物タンパクなど)が体に入りやすく、
免疫が「敵かもしれない」と判断しやすい状況が生まれます。

■ 感作とは何か?

感作とは、

体がある抗原を「敵」と認識し、
次に出会ったときにすぐ反応できるよう準備することです。

具体的には、

  • 抗原が免疫細胞に提示され
  • Th2が活性化し
  • B細胞がIgEを作り
  • IgEが肥満細胞に結合する

という流れが起こります。

この段階では症状は出ません。

しかし、再び同じ抗原に出会うと、
即座にアレルギー症状が起こります。

■ なぜ子どもは感作されやすいのか

子どもは

  • バリアが未完成
  • Th2寄りの環境
  • 寛容形成が途中

という条件が重なっています。

そのため、

「これは無害」と学ぶ前に
「敵」として覚えてしまうことがあるのです。

■ 免疫寛容とは何か?

一言で言うと:

免疫が「攻撃しない」と判断する仕組みのことです。

免疫は

  • 敵を攻撃する
  • 自分を守る
  • 無害なものは無視する

この3つを同時に行っています。

この「無視する能力」が
免疫寛容(immune tolerance)です。

■ 寛容がなければ?

  • 食べ物すべてに反応
  • 腸内細菌すべてに反応
  • 自分の臓器にも反応

体は常に炎症状態になります。

寛容は「攻撃より重要」な仕組みです。

■ 寛容には2種類ある

① 中枢性寛容

胸腺や骨髄で
自己を攻撃する細胞を排除。

主に自己免疫を防ぐ仕組み。

② 末梢性寛容

体に出た後で
「これは敵じゃない」と学ぶ仕組み。

アレルギーと強く関係します。

■ 末梢性寛容の主役

👉 Treg(制御性T細胞)

IL-10
TGF-β

を出してブレーキをかけます。

■ 子どもの成長と体質の変化

多くの子どもは

✔ 寛容が成立
✔ Th1/Th2バランスが整う
✔ 食物アレルギーが改善することもある

つまり、

アレルギー体質は永遠ではないことも多いです。

■ 花粉症は治らないの?

ここまで読んで、

「子どものアレルギーは治ることもあるなら、花粉症も自然に治るの?」

と思った方もいるかもしれません。

結論から言うと、

花粉症は自然に治ることは少ないです。
ただし、一部の人では加齢による免疫減弱、抗原曝露の減少、
または自然寛解が起こることも報告されています。

その理由は次回の舌下免疫療法で詳しく解説します。

■ まとめ

アレルギーは偶然の暴走ではなく、

免疫の方向性とバランスの問題です。

アレルギー体質とは

「攻撃が強い」だけでなく「ブレーキが弱い」状態。

免疫はアクセル(Th2)とブレーキ(Treg)の
バランスで決まります。

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