フローサイトメトリーでは、複数の蛍光色素を同時に使うことで、1つの細胞から多くの情報を得ることができます。
しかしここで、ある問題が起こります。
「色が混ざること」
です。
本来は別々に測定したいはずの蛍光が、実際にはきれいに分かれず、互いに影響し合ってしまうのです。
これはなぜ起こるのでしょうか?
実はその原因は、蛍光色素そのものの性質にあります。
蛍光は「1つの波長だけ」で光っているわけではなく、
ある波長を中心に、前後に広がった“幅”を持っています。
その結果、ある色素の光が、別の検出器にも入り込んでしまうのです。
これが スペクトルオーバーラップ です。
この記事では、
・なぜスペクトルオーバーラップが起こるのか
・どのようにして色が混ざってしまうのか
を、図を使いながらやさしく解説していきます。
なぜスペクトルオーバーラップが起こるのか
スペクトルオーバーラップが起こる理由は、とてもシンプルです。
光や蛍光色素は、1つの波長だけで光っているわけではないからです。
そしてフローサイトメトリーでは、使用する蛍光色素が増えるほど、発光スペクトルが重なってしまいます。
光は「1つの波長」ではない
ここで、少しだけ光の性質を見てみます。
光は波として空間を進み、その波の長さ(波長)によって色が決まります。
- 400 nm → 紫
- 520 nm → 緑
- 650 nm → 赤
私たちは普段、光を「赤」「緑」「青」といったはっきりした色として認識しています。
しかし実際の光は、1つの波長だけではなく、
ある波長を中心に広がった“幅”を持っています。
この山のような形で表されるものを、スペクトルと呼びます。

蛍光色素のスペクトルは広がっている
蛍光色素も同じで、1つの波長だけで光るのではなく、広がりを持って発光します
- FITC → 緑がメインだが、黄色にも少し広がる
- PE → オレンジがメインだが、赤にも広がる
この“すそ”の部分が、他の検出器に入り込むことで、スペクトルオーバーラップが起こります。
👉 身長を測っているのに、体重の情報が少し混ざってしまう
その結果、本当の身長より高く見えたり低く見えたりする
👉 これがスペクトルオーバーラップです
スペクトルオーバーラップの具体例(FITCとPE)
複数の蛍光色素を同時に使うと、それぞれのスペクトルの“すそ野”が重なります。
例えば、FITC(緑)とPE(オレンジ)を同時に使うと、
FITCの“しっぽ”がPEの検出領域に入り込み、
PEのチャンネルにFITCの信号が混ざります。

なぜオーバーラップが問題になるのか
例えば、本来は1つの色素だけが光っているのに、別のチャンネルでも信号が検出されてしまうと、
・実際より強く見える
・本当は陰性なのに陽性に見える
といった誤差が生じます。
つまり、正しい細胞の情報が得られなくなるということです。
なぜ色素によって差があるのか
理由は3つあります。
① 分子構造が違う → 発光スペクトルの形が違う
→ 広いほど混ざりやすい(にじみやすい)
- FITC → 広いスペクトル(にじみやすい)
- BV421 → 非常に狭いスペクトル(にじみにくい)
② 明るさ(量子収率)が違う
→ 明るいほど影響が大きい
PEやAPCは非常に明るいので、少し漏れただけでも他の検出器に大きく影響します。
③ 発光の“しっぽ”の長さが違う
→ 長いほど遠くまで漏れる
- PE-Cy7 → 赤外側に長いしっぽ
- BVシリーズ → しっぽが短い
このようにオーバーラップの大きさは色素によって異なります。
コンペンセーションとは?
このように混ざってしまった信号を、
👉 「混ざった分だけ引き算して元に戻す」
これが コンペンセーション(補正) です。
例えば、
FITCの光の一部がPEに混ざる
→ その分をPEのデータから引く
こうすることで、それぞれの蛍光を正しく分離できます。
まとめ
- 蛍光は単一の波長ではなく“広がり”を持つ
- そのため、他の検出器に光が入り込む
- これがスペクトルオーバーラップ
- 補正することで正しいデータが得られる
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1:スペクトルオーバーラップとは何か、最も適切な説明はどれか?
① 蛍光が弱くなる現象
② 1つの色素が複数の色に分解される現象
③ ある蛍光色素の光が、別の検出チャンネルにも入り込む現象
Q2:なぜスペクトルオーバーラップが起こるのか?
① レーザーの強さが一定でないため
② 蛍光色素が単一の波長でしか光らないため
③ 光が1つの波長ではなく、幅を持ったスペクトルだから
Q3:スペクトルオーバーラップによって起こる問題として正しいものはどれか?
① 測定時間が長くなる
② 細胞が壊れる
③ 本来の信号より強く見えたり、存在しない信号が見える
答え(Q1:③、Q2:③、Q3:③)
このように、複数の蛍光色素を同時に使用すると、
どうしてもスペクトルの重なり(オーバーラップ)が発生します。
では、この重なってしまった信号はどのように補正するのでしょうか?
👉 次は、コンペンセーションについて解説します。

