実験室ではクリーンベンチ、安全キャビネット、ドラフトチャンバーの3種類の装置がよく使われます。どれも同じように見えますが、実は全然違うものです。今日はこの3つについて解説します。
クリーンベンチ・安全キャビネット・ドラフトの違い
見た目は似ていますが、守る対象がそれぞれ異なる装置です。
結論から言うと、違いは次の通りです。


① クリーンベンチ
目的:サンプルをきれいに保つ
HEPAフィルターを通した清浄空気を作業空間へ吹き出し、作業空間を清浄に保つ(陽圧)。
特徴
- 無菌操作ができる
- 作業者は守られない
- 危険物(微生物、ウイルス、有機溶媒など)は扱えない
用途
- 細胞培養
- 無菌試薬調製
- PCR試薬調製
クリーンベンチはサンプルを守る装置であり、作業者を守る装置ではありません。
ミニコラム①:クリーンベンチあるある
クリーンベンチはHEPAフィルターを通した空気を作業空間に吹き出しています。
そのため、長時間作業していると 風が顔に当たって目が乾くことがあります。
これは装置が正常に空気を吹き出している証拠でもあります。
② 安全キャビネット(バイオセーフティキャビネット)
目的:作業者・サンプル・環境すべてを守る
前面から空気を吸い込み、HEPAフィルターでろ過しながら装置内部で循環します。一部の空気はHEPAフィルターを通して外へ排出されます。
特徴
- 前面が陰圧
- 内部は清浄
- 病原体を扱える
- UVランプがついている機種もある
用途
- 微生物
- ウイルス
- 感染性検体
- 血液サンプル
安全キャビネットはクリーンベンチの機能に加えて、作業者と環境を守る機能を持った装置です。
HEPA排気とは
装置内の空気をHEPAフィルターでろ過し、きれいな空気にしてから外へ排気することです。
そもそもHEPAとは、High Efficiency Particulate Air(高性能粒子捕集フィルター)の略です。最も捕まえにくいサイズとされる0.3 µmの粒子を 99.97%以上除去できる性能があります。
例えば、細菌、カビ胞子、エアロゾル、培養液のミスト、粉じんなどの粒子を捕まえることができます。
ただし、HEPAフィルターは粒子(パーティクル)を捕集するフィルターであり、ガスや蒸気は除去できません。
そのため、有機溶媒などの化学物質を扱う場合はドラフトチャンバーを使用します。
この構造により、安全キャビネットは
作業者を守る、サンプルを汚染から守る、環境へ漏らさない
という三重防御の仕組みになっています。
安全キャビネットのClass IIとバイオセーフティーレベル(BSL)
安全キャビネットにはClassⅠ~Ⅲまで装置の分類があります。
一般的な研究室で最も多く使用されているのは Class II です。
Class IIは、Class Iの機能に加えてサンプル保護の機能を持っています。
Class IIIは装置が完全密閉されており、手袋付きのポートを通して作業を行います。
非常に危険性の高い病原体を扱う際に使用されます。

BSL(バイオセーフティレベル)との違い
安全キャビネットの説明をするときによく出てくる言葉に
**BSL(バイオセーフティレベル)**があります。
BSLは、扱う微生物の危険度に応じて研究施設の安全レベルを示す指標です。

安全キャビネットの「Class」は装置の種類を表し、BSLは施設の安全レベルを表します。
そのため、BSL2の研究室では Class II安全キャビネットを使用することが一般的です。
ミニコラム②:クリーンベンチと安全キャビネットの見分け方
クリーンベンチと安全キャビネットは見た目がよく似ているため、混同されることがあります。
一番分かりやすい見分け方は、手を入れたときの空気の流れです。
手を入れたときに 風が外に向かって出てくる場合はクリーンベンチ、
空気が吸い込まれる場合は安全キャビネットです。
簡単な見分け方は次の通りです。

③ ドラフトチャンバー
目的:化学物質から作業者を守る
内部を陰圧にして空気を吸い込み、化学物質を外へ排気する。
特徴
- 有機溶媒
- 酸
- 毒性ガス
などの化学物質を扱う
サンプルは守られないため、無菌操作には使用できません。
実験室におけるハザード(危険)
実験室では大きく 3種類のハザード(危険)があります。

ちなみに、現場ではこういう言い方をすることが多いです。
- ケミカルハザード → ドラフト
- バイオハザード → 安全キャビネット
- コンタミネーション防止(汚染防止) → クリーンベンチ
クリーンベンチはサンプルを守る装置であり、作業者を守る装置ではありません。
そのため感染性物質や毒性物質の操作には使用できません。
まとめ
クリーンベンチ、安全キャビネット、ドラフトチャンバーは見た目が似ていますが、目的は大きく異なります。
- クリーンベンチ
サンプルを汚染から守る装置(無菌操作) - 安全キャビネット
作業者・サンプル・環境を守る装置(感染性検体) - ドラフトチャンバー
化学物質から作業者を守る装置
重要なポイントは扱う危険の種類によって使用する設備が変わることです。
それぞれの装置の特徴を理解し、安全に実験を行いましょう。
今日のおさらい
~ちょっと考えてみよう~
Q1. サンプルを汚染から守ることを目的とした装置はどれでしょう?
A クリーンベンチ
B 安全キャビネット
C ドラフトチャンバー
答え
A クリーンベンチ
Q2. 感染性検体(血液など)を扱う場合に使用する装置はどれでしょう?
A クリーンベンチ
B 安全キャビネット
C ドラフトチャンバー
答え
B 安全キャビネット
Q3. 有機溶媒などの化学物質を扱う場合に使用する装置はどれでしょう?
A クリーンベンチ
B 安全キャビネット
C ドラフトチャンバー
答え
C ドラフトチャンバー
