はじめに:化学物質を扱うすべての現場に関係するルール
化学メーカーや検査機関、研究施設、塗装現場など、化学物質を取り扱う作業者は、すべて労働安全衛生法という法律に基づいて作業を行わなければなりません。
事業者は、労働者の健康と安全を守るために、健康診断を受けさせたり、労働環境を整備するなどして、化学物質への過度なばく露(暴露)を防止する責任を負っています。
私たち分析者や研究者も、実験を行う際にドラフトチャンバーを使用したり、マスクや手袋を着用することで、自分の身を守ることが重要です。
その具体的な安全管理のルールとして定められているのが、以下の2つの規則です:
- 有機則(有機溶剤中毒予防規則)
- 特化則(特定化学物質障害予防規則)
有機則とは?
正式名称:有機溶剤中毒予防規則(略称:有機則)
所管法令:労働安全衛生法の下位規則として制定されています。
目的
有機溶剤(例:シンナー、トルエン、キシレンなど)を使用する作業現場で、作業者の健康被害を防ぐことが目的です。
対象物質
- 第1種~第3種に分類される54種類の有機溶剤(2025年時点)
- 混合物の場合、有機溶剤の含有率が5%を超えると適用対象
事業者の義務
- 作業主任者の選任
- 有害性の掲示
- 局所排気装置の設置(蒸気拡散防止)
- 作業環境測定(6ヶ月ごと、記録は5年間保存)
- 特殊健康診断の実施(6ヶ月ごと、記録は5年間保存)
- 有機溶剤の区分表示(赤・黄・青など)
罰則
重大な違反には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
特化則とは?
正式名称:特定化学物質障害予防規則(略称:特化則)
所管法令:同じく労働安全衛生法に基づいて定められた規則です。
目的
発がん性や神経障害などの健康被害を引き起こす特定化学物質から作業者を保護することを目的としています。
対象物質
- 第1類~第3類に分類される約75種類
- 例:ベンゼン、アスベスト、クロム化合物、エチルベンゼン、MIBK(メチルイソブチルケトン)など
- 単一成分で1%以上含まれると規制対象になる物質が多い
事業者の義務
- 特定化学物質作業主任者の選任
- 局所排気装置の設置
- 全面マスクなどの保護具使用
- 作業環境測定
- 特殊健康診断
- 記録保存義務(最長30年など)
有機則と特化則の共通点
どちらも「労働安全衛生法」を根拠とする厚生労働省管轄の法令であり、事業者に対して以下のような義務を課しています:
- 労働者の化学物質ばく露防止を目的
- 作業主任者の選任義務
- 局所排気装置などの設備設置義務
- 作業環境測定の実施義務
- 特殊健康診断の実施義務
- 保護具(マスク、手袋など)の使用推奨
- リスクアセスメントの実施
- 掲示・ラベル表示の義務
- 違反時には罰則あり(懲役・罰金)
🔍 有機則と特化則の違い一覧
比較項目 | 有機則(有機溶剤中毒予防規則) | 特化則(特定化学物質障害予防規則) |
---|---|---|
目的 | 有機溶剤による中毒の防止 | 特定化学物質による障害・疾病(発がんなど)の防止 |
対象物質 | 有機溶剤(例:トルエン、キシレン) | 発がん性・毒性のある特定化学物質(例:ベンゼン、クロム) |
物質数(2025年時点) | 約54種類(第1~第3種) | 約75種類以上(第1~第3類) |
適用条件 | 有機溶剤が5%以上含まれる場合 | 多くは1%以上含有で対象 |
リスクの程度 | 比較的軽度(中毒) | 高度(がん、神経毒性、生殖毒性) |
管理の厳しさ | やや緩やか | より厳格な管理が必要 |
記録保存期間 | 5年間(健康診断・測定記録など) | 最長30年間の記録保存義務あり(健康障害が深刻なため) |
健康診断内容 | 簡易的な項目 | 精密で長期的なフォローが必要 |
ラベル表示の方法 | 赤・黄・青の区分表示あり | 特化物表示、特定マークの掲示など |
🎯 結論
- 有機則=中毒防止が主眼。揮発性のある溶剤が対象。
- 特化則=発がん性などの重篤な健康障害の防止が主眼。より厳格。
両者の違いを理解していないと、法令違反や健康被害のリスクにつながります。現場ごとにどちらが適用されるのかを明確にし、適切な管理策を講じることが不可欠です。
まとめ:有機則・特化則は“働く人の命を守るルール”
どちらの規則も、労働者の健康を守るための重要な制度です。
特に化学物質を使用する現場では、これらのルールに沿って、
- 正しい作業手順の実施
- 安全設備の整備
- 適切な健康管理
を行うことが、法令遵守のみならず、企業の信頼性や職場の持続性にもつながります。