ELISAやWBで「タンパク質を測っている」と思いがちですが、実際は 抗原の中の特定の構造(エピトープ) に抗体が結合して反応しています。
ここを理解すると、実験の反応性や偽陽性の理由が腑に落ちます。
この記事では、抗体、エピトープ、モノクローナル・ポリクローナル抗体、CDR の基礎知識を、理系向けに噛み砕いて解説します。
抗原とは?
抗原とは、体内で免疫反応を引き起こす物質のことです。
身近な例:
- 花粉 → 花粉特有のタンパク質
- カビ → 菌体や胞子のタンパク質
- ウイルス → 表面の「スパイクタンパク質(Spike protein)」(外に突き出したアンテナのような部分)や「カプシド(Capsid)」(ウイルスを包む殻のような部分)
抗体は抗原全体ではなく、特徴的な構造(エピトープ) にピンポイントで結合します。
例えると、抗原はおにぎりで、エピトープは海苔の模様のようなもの。抗体は海苔の模様にだけ握手する感じです。
抗原抗体反応の仕組み
抗体はY字型の形をしています。
- Fc(Fragment crystallizable/結晶化可分画)
→ 免疫系と連携するY字の下半分の幹の部分
→2つの重鎖から成る - Fab(Fragment antigen-binding/抗原結合可分画)
→ 抗原にくっつく抗体の両腕部分
→重鎖と軽鎖の可変部(VH, VL)と定常部(CH1, CL)から成る - CDR(Complementarity Determining Region/抗原相補決定領域)
→ 抗原と直接接触する「手のひらの指先」
例えると、抗体はY字型のマジックハンド。腕(Fab)が抗原の形に合わせ、指先(CDR)がぴったりフィットして握手するイメージです。
エピトープとは?
エピトープとは、抗原の中で 抗体の指先(CDR)がピタッとつかめる“目印”のような部分 です。
たとえると、ボウリングのボウルの指穴のようなイメージ。抗体の指先(CDR)がその穴にぴったりはまるから、抗体はその場所にだけしっかり結合できます。
- 実際のエピトープは、くぼんでいる場合も出っ張っている場合もあります。
- ポイントは 抗体とエピトープの形が相補的(カギと鍵穴の関係)になっていること です。
- 立体エピトープでは、アミノ酸の並びや折りたたまれ方によって、表面の凹みや出っ張りのどちらかが抗体に認識されます。
例えると:凹みは指がはまる穴、出っ張りは指先で包み込むツノ。どちらでも抗体の“指先(CDR)”がキャッチできれば反応します。
抗原の一部分だけを認識するため、抗体は非常に選択的です。
エピトープの種類
① 連続エピトープ(linear epitope)
- アミノ酸の一次配列に依存
- 変性しても抗体は認識可能
- WBでSDS処理してまっすぐになったタンパク質でも反応
例えると、ひもに描かれた模様。ひもを引き延ばしても模様はそのままなので抗体は認識できます。
② 立体(非連続)エピトープ(conformational epitope)
- タンパク質の折りたたまれた形(三次構造)に依存
- 形が崩れると抗体は認識できない
- ELISAではネイティブ(自然な折りたたまれた形)のタンパク質に反応
例えると折り紙。折り紙の形が崩れると、抗体の手先はフィットできません。
実務で知っておきたいこと
抗体の反応性は エピトープの構造に依存 します。
- 形が壊れると反応性が下がる
- 類似構造があると交差反応(偽陽性)が起こる
例:食品検査では、加工や加熱でエピトープの形が変わることがあります。
そのため、モノクローナル抗体(特定の1つの構造に特化)とポリクローナル抗体(複数の構造を拾える)を組み合わせて漏れや偽陽性を防ぎ、特定原材料の有無を総合的に確認しています。
抗体の作られ方(簡単に)
- モノクローナル抗体
- 1種類のB細胞クローンから作られる
- 特定のエピトープだけを認識
- 特異性が高い
- ポリクローナル抗体
- 複数のB細胞クローンから作られる
- 複数のエピトープを認識
- 反応性が高く、見逃しにくい
- ハプテン
- 小さすぎて単独では抗体を作れない分子
- 大きなキャリア(タンパク質)に結合させることで抗体を誘導できる
例えると、モノクローナルは「特定の鍵穴専用の鍵」、ポリクローナルは「複数の鍵穴に合う万能鍵」です。
今日のポイント
- 抗体はタンパク質そのものではなく、エピトープという構造を認識している
- エピトープには一次構造依存(連続)と三次構造依存(立体)がある
- Fab(腕)のCDR(指先)が抗原に直接接触して、多様性を生み出す
- 実務では抗体とエピトープの関係を理解しておかないと、偽陽性や反応性低下に悩む
- モノクローナルとポリクローナル、ハプテンの理解で抗体の選択がしやすくなる
まとめ
抗体を使う測定では、抗原のエピトープ構造を常に意識すること。
変性や構造の違いが、偽陽性や反応性低下の原因になる。
私自身は市販のキットや公定法を使って測定していた経験から、抗体を作ったり選んだりしたことはありません。でも、エピトープのことを理解しておくと、なぜこのキットでうまく測れるのか/反応しないことがあるのかが腑に落ちます。
実験の結果を見たときに「なるほど、エピトープの形が関係しているのか」とイメージできるだけでも、検査の理解度がぐっと上がります。
